人間原理
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人間原理(にんげんげんり)とは、物理学、特に宇宙論において、宇宙の構造の理由を人間の存在に求める考え方。"宇宙が人間に適しているのは、そうでなければ人間は宇宙を観測し得ないから"という論理を用いる。これをどの範囲まで適用するかによって、幾つかの種類がある。
人間原理を用いると、宇宙の構造が現在のようである理由の一部を解釈できるが、これを自然科学的な説明に用いることについては混乱と論争があり、未だ多数には認められていない。
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[編集] 奇跡的な宇宙
この宇宙は奇跡的にバランスよくつくられている。物理定数がわずかでも違えば生命はもとより、原子や恒星さえ存在できない。自然法則が違っていたら、3次元でなかったら、多くの可能性の中で、宇宙はなぜこのように人間のような高度な生命を生み出すのに適した構造をしているのか?それは偶然なのか?こういった疑問に応えるために人間原理は利用される。
[編集] 大数仮説
ポール・ディラックは1937年、以下のように幾つかの基礎的な物理定数から求められる無次元数に10の40乗(またはその2乗)という値が現れることに気づいた。
これに対してディラックは、これらは偶然成り立っているのではなく、常に成り立っていると考えた。しかしこの考えに従えば、時間の経過につれて物理定数さえ変化していることになる。大数仮説は広く受け入れられることはなかった。現在でも物理定数が変化する可能性は残されているが、実証は困難である。
[編集] 弱い人間原理
大数仮説が成立する時に人間が存在している不思議さを、人間の存在による必然と考えたのがロバート・H・ディッケである。ディッケは宇宙の年齢が偶然ではなく、人間の存在によって縛られていることを示した。それによれば、宇宙の年齢は現在のようなある範囲になければならないという。なぜなら、宇宙が若すぎれば、恒星内での核融合によって生成される炭素などの重元素は星間に十分な量存在することができないし、逆に年をとりすぎていれば、主系列星による安定した惑星系はなくなってしまっているからである。このように宇宙の構造を考える時、人間の存在という偏った条件を考慮しなければならないという考え方を弱い人間原理と呼ぶ。
[編集] 強い人間原理
ブランドン・カーターはこれをさらに進めて、生命が存在し得ないような宇宙は観測され得ず、よって存在しない。宇宙は生命が存在するような構造をしていなければならない。という強い人間原理を示した。
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