俺の尻をなめろ
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『俺の尻をなめろ』(おれのしりをなめろ)は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したカノン形式の声楽曲。1782年にウィーンで作曲された。歌詞はドイツ語。6声の『俺の尻をなめろ』(Leck mich im Arsch)K.231(382c)と3声の『俺の尻をなめろ、きれいにきれいにね』(Leck mir den Arsch fein recht schön sauber)[1] K.233(382d)の2曲がある。ただし、後者は偽作とされている。
作曲の経緯を示す資料は残されていないが、親しい友人たちとの内輪の集まりで、大勢で歌って盛り上がるために作られたものであろう。K.231は6声のカノンなので、モーツァルトも含めて最低6人の人間が「俺の尻をなめろ」と合唱したものと想像される。
これらの曲の歌詞は、19世紀の研究者には無視されてきたが、20世紀の後半になってから一般に知られるようになり、現在では録音も行われている。
目次 |
[編集] 1782年のカノン
1782年には、次のように6曲のドイツ語のカノンが残されている。なお、カッコ内の数字は第6版のケッヘル番号。
- 彼女は死んだ(Sie ist dahin)K.229(382a)ハ短調
- 幸いなるかな、幸いなるかな(Selig, alle selig sie)K.230(382b)ハ短調
- 俺の尻をなめろ(Leck mich im Arsch)K.231(382c)変ロ長調
出版時の歌詞は「愉快に暮らしましょう」(Laßt froh uns sein) - 俺の尻をなめろ、きれいにきれいにね(Leck mir den Arsch fein recht schön sauber)K.233(382d)変ロ長調
出版時の歌詞は「わたしゃ酒が何より一番」(Nichts labt mich mehr als Wein) - 夏の暑さに俺は食う(Beider Hitz im Sommer, eßich)K.234(382e)ト長調
出版時の歌詞は「飲んで、食って、身が保つ」(Essen, Trinken, das erhält den Leib) - 泡立つ酒がグラスに光るところ(Wo der perlende Wein im Glase blinkt)K.347(382f)二長調
1、2、6曲目にはもともとの歌詞は残っておらず、のちに楽譜が出版されたときに歌詞が付けられた。3、4、5曲目の歌詞は一行しか残っておらず、出版社が無難な歌詞を付けて出版した。『俺の尻をなめろ』以外の曲も、もともと歌われたときは下品な歌詞だったかもしれない[2]。
音楽学者ヴォルフガング・プラートは、1988年に4曲目と5曲目はモーツァルトの真作ではなく、Wenzel Johann Trnkaの作であると発表している[3]。
[編集] 1788年のカノン
1788年にも同様に下品な歌詞のカノンが作曲された。ここでは3曲を挙げる。
- 戦記を読むなんて俺にはとても(Difficile lectu mihi mars) K.559 ヘ長調
- おお、お前ばかなパイエルよ(O du eselhafter Peierl) (K.559a)ヘ長調[4]
カノン『おお、お前ばかなマルティンよ』K.560は歌詞の「パイエル」を「マルティン」に変え、ト長調にしたもの。 - お休み、お前はほんとのおばかさん(Bonna box! bist a rechta OX)K.561 イ長調
1曲目はラテン語もどきの歌詞で、友人を引っ掛けるために作られた。友人のテノール歌手で発音のおかしいパイエルが歌うと、ドイツ語で「俺の尻をなめろ」と聞こえてしまう。また「jonicu」という単語があり、ドイツ語の「陰茎」を想像させる。2曲目は、1曲目のあとでパイエルをからかうために歌われたもので、やはり「俺の尻をなめろ」という箇所がある。3曲目は、ラテン語、イタリア語、フランス語、英語、ドイツ語で「お休みなさい」と歌いながら、最後に「ベッドに糞をして」「尻をなめろ」という歌詞で終わる。
[編集] 参考文献と註
- 石井宏『モーツァルト大全集 歌曲・カノン全集』(CDの解説)、ユニバーサルミュージック社、2006年
- かつて世界初の『俺の尻をなめろ』が録音されたとき、石井宏は解説を依頼されたが、できあがった原稿をレコード会社に拒否されたという。
- 海老澤敏ほか『モーツァルト事典』東京書籍、1991年
- 本記事でドイツ語の歌詞の日本語訳は、おおむねこの書籍に従った。
- カノン (Mozart con grazia による解説)
- CD “Mozart Unexpurgated”(オーストラリア・TALL POPPIES TP-009)
- このCD盤では、大半の歌詞が英語に訳されて歌われている。解説書には原語のドイツ語詞と、歌われている英語訳詞が併記してある。日本に輸入盤が入ったときは『お下品モーツァルト』と呼ばれた。直訳すると「未校閲のモーツァルト」となる。
[編集] 註
- ^ 直訳すれば「俺の尻をなめろ、上等に正しく美しく清潔に」となる。
- ^ 前掲の石井宏の解説による説。
- ^ プラートは筆跡研究で名高い音楽学者。Plath, Wolfgang: Echtheitsfragen bei Mozart. Teil II: Wenzel Trnka und die angeblichen Mozart-Kanons KV 233 (382d) und KV 234 (382e), in: Opera incerta: Echtheitsfragen als Problem musikwissenschaftlicher Gesamtausgaben. Kolloquium Mainz 1988.
- ^ 前掲の『モーツァルト事典』では、K.559aの成立時期を1785~1787年とし、K.560は1788年としている。