助動詞
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助動詞(じょどうし)は品詞のひとつで一般に動詞などに付属してその意味を限定・修飾する。
伝統的な国文法でいう「助動詞」は、語尾や接尾辞と見なされるべきものである。他の言語の助動詞に当たるものは国文法では「補助動詞」と呼ばれ、「-ている」や「-ておく」がこれに当たる。
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[編集] 日本語の助動詞
国文法でいう「助動詞」は、動詞・形容詞などの単語の後について述語を構成し、細かな意味を付加する言葉である。付属語であるが助詞と異なり活用する。
活用の様式は多岐にわたっており、動詞の活用をするもの、形容詞に近い活用をするもの、形容動詞に近い活用をするもの、独自の活用様式を持つものなどがある。
同様に用いられるものに補助動詞(聞いてみるの「みる」、立っているの「いる」など)、補助形容詞(赤くないの「ない」)があるが、独立の文節の後につくものなので上記の語とは区別する。
[編集] 口語
接続 | 意味 | 活用形 | 活用の型 | 備考 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | ||||
未然形 | 受身 尊敬 自発 可能 |
れる | れ | れ | れる | れる | れれ | れろ れよ |
下一段型 | 五段動詞とサ変動詞に接続する。 |
られる | られ | られ | られる | られる | られれ | られろ られよ |
下一段型 | 上一段・下一段・カ変動詞に接続する。 | ||
使役 | せる | せ | せ | せる | せる | せれ | せよ せろ |
下一段型 | 五段動詞とサ変動詞に接続する。 | |
させる | させ | させ | させる | させる | させれ | させよ させろ |
下一段型 | 上一段・下一段・カ変動詞に接続する。 | ||
打消 | ない | なかろ | なかっ なく |
ない | ない | なけれ | ○ | 形容詞型 | 動詞と動詞型活用の助動詞に接続する。 | |
ぬ ん |
○ | ず | ぬ(ん) | ぬ(ん) | ね | ○ | 特殊型 | 動詞と動詞型活用の助動詞に接続する。 | ||
推量 意志 勧誘 |
う | ○ | ○ | う | う | ○ | ○ | 不変化型 | 形容詞・形容動詞と未然形の最後が「ろ」「ょ」で終わる助動詞に接続する。 | |
よう | ○ | ○ | よう | よう | ○ | ○ | 不変化型 | 五段活用以外の動詞と下一段型の助動詞に接続する。 | ||
未然形 終止形 |
打消推量 打消意志 |
まい | ○ | ○ | まい | まい | ○ | ○ | 不変化型 | 五段活用以外の動詞と下一段型の助動詞に接続する。 |
連用形 | 希望 | たい | たかろ | たかっ たく |
たい | たい | たけれ | ○ | 形容詞型 | 動詞と動詞型の助動詞に接続する。 |
たがる | たがら たがろ |
たがり たがっ |
たがる | たがる | たがれ | ○ | 五段型 | 動詞と動詞型の助動詞に接続する。 | ||
過去 完了 存続 確認 |
た だ |
たろ だろ |
○ | た だ |
た だ |
たら だら |
○ | 特殊型 | 用言と「そうだ」「む」以外の連用形のある助動詞に接続する。 | |
丁寧 | ます | ませ ましょ |
まし | ます | ます | ますれ | ませ まし |
特殊型 | 動詞と動詞型の助動詞に接続する。 | |
様態 | そうだ | そうだろ | そうだっ そうで そうに |
そうだ | そうな | そうなら | ○ | 形容動詞型 | 動詞と形容詞・形容動詞の語幹に接続する。 | |
終止形 | 伝聞 | そうだ | ○ | そうで | そうだ | ○ | ○ | ○ | 形容動詞型 | 用言に接続する。 |
推定 | らしい | ○ | らしかっ らしく |
らしい | らしい | らしけれ | ○ | 形容詞型 | 用言と助詞に接続する。ただし形容動詞は語幹に接続する。 | |
連体形 | 比況 例示 推定 |
ようだ | ようだろ | ようだっ ようで ように |
ようだ | ような | ようなら | ○ | 形容動詞型 | 用言と下一段型の助動詞と助動詞「た(だ)」と格助詞「の」に接続する。 |
体言助詞 | 断定 | だ | だろ | だっ で |
だ | な | なら | ○ | 形容動詞型 | 体言と一部の助詞に接続する。 |
丁寧な断定 | です | でしょ | でし | です | です | ○ | ○ | 特殊型 | 体言と一部の助詞に接続する。 |
[編集] 文語
種類 | 活用形 | 活用の型 | 接続 | 意味 | 備考 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |||||
受身 | る | れ | れ | る | るる | るれ | れよ | 下一段型 | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 受身・尊敬 | |
らる | られ | られ | らる | らるる | らるれ | られよ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 | ||||
る | れ | れ | る | るる | るれ | ○ | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 自発・可能 | |||
らる | られ | られ | らる | らるる | らるれ | ○ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 | ||||
使役 | す | せ | せ | す | する | すれ | せよ | 下一段型 | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 使役・尊敬・謙譲・助動詞「る」の代用 | 上代文法では「しむ」のみが使役を表していた。 |
さす | させ | させ | さす | さする | さすれ | させよ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 | 使役・尊敬・謙譲・助動詞「らる」の代用 | |||
しむ | しめ | しめ | しむ | しむる | しむれ | しめよ | 用言の未然形 | 使役・尊敬・謙譲 | 中古になり「す」「さす」の発達に伴い一事消えかけたが、中世になり再び使われるようになった。 | ||
過去 | き | せ | ○ | き | し | しか | ○ | 特殊型 | 連用形 | 直接過去・詠嘆 | カ変に接続するときはこし・こしか・きし・きしか、 サ変に接続するときはせし・せしか・しきの形でしか接続しない。 |
けり | けら | ○ | けり | ける | けれ | ○ | ラ変型 | 間接過去・回想・詠嘆 | 上代では過去完了を表していたが転じて中古では間接過去を表すようになった。 | ||
完了 | つ | て | て | つ | つる | つれ | てよ | 下一段型 | 連用形 | 完了・強調・確認・存続・並立 | 人為的な場合に使う。 |
ぬ | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね | ナ変型 | 自然発生的な場合に使う。 | |||
たり | たら | たり | たり | たる | たれ | たれ | ラ変型 | 完了・存続 | 現代語の接続助詞「たり」はこの助動詞から転じたものである。成立にはいくつか説があり、「~てあり」から転じたとも言われているが、「り」利用範囲の狭さから生まれものというのが通説となっている。 | ||
り | ら | り | り | る | れ | れ | 四段の命令形とサ変の未然形 | 中古になり「たり」の発達に伴い使われる事が少なくなった。 | |||
丁寧 | す | ○ | ○ | す | す | ○ | ○ | 四段型 | 連用形 | 丁寧 | 「さうらう」から転じて。使用例も稀で、ほとんどの教科書・参考書には載っていなく、文章に出てきたとしても尊敬の「す」で訳されてしまうことがある。 |
推量 | む(ん) | ま | ○ | む(ん) | む(ん) | め | ○ | 四段型 | 未然形 | 未来推量・意思・仮定・当然・適当・勧誘・希望・婉曲・反語 | 現代語の助動詞「う」はこれから転じたもの。意味が非常に多いが、基本は推量・意思・勧誘であり他はこの発展と考える事が出来る。 |
むず | ○ | ○ | むず | むずる | むずれ | ○ | 推量・意思・当然・適当・婉曲 | 成立は中古の口頭語と言われ、清少納言も『枕草子』の中で手紙などでは決して使うべきでないと記している。(そもそも清少納言は言語の乱れをよく批判しているので、書かれるのは当然といえる。) | |||
まし | ませ | ○ | まし | まし | ましか | ○ | 特殊型 | 推量・反実仮想・反実希望・ためらい | 「ませば(ましかば)~まし」で反実仮想を表す。 | ||
けむ(けん) | けま | ○ | けむ(けん) | けむ(けん) | けめ | ○ | 四段型 | 連用形 | 過去推量・過去伝聞 | 「らむ」よりも過去を表す。 | |
らむ(らん) | ○ | ○ | らむ(らん) | らむ(らん) | らめ | ○ | 終止形とラ変型の連体形 | 現在推量・仮定・伝聞・婉曲・反語 | 「けむ」よりも現在を表す。 | ||
らし | ○ | ○ | らし | らし らしき |
らし | ○ | 特殊型 | 推量・推定 | 中古以降はあまり使われなくなり、上代語として扱う参考書も若干ある。 | ||
めり | ○ | めり | めり | める | めれ | ○ | ラ変型 | 推量・婉曲 | 「目あり」から転じたもの。 | ||
べし | べく べから |
べく べかり |
べし |
べき べかる |
べけれ |
○ | ク活用型 | 推量・意思・可能・当然・命令・勧誘・適当・予定 | これの派生系が「べらなり」である。 | ||
べらなり | ○ | べらに | べらなり | べらなる | べらなれ | ○ | ナリ活用型 | 推量 | 中古に一時的に見られたもので省略する教科書や参考書も多い。 | ||
打消 | ず | ず な ざら |
ず に ざり |
ず ぬ ざり |
ぬ ざる |
ね ざれ |
ざれ |
ラ変型・四段型・特殊型 | 未然形 | 打消 | 活用にはいくつか説かあるが此処ではあえて可能性のあるもの全てを記した。 |
打消推量 | じ | ○ | ○ | じ | じ | じ | ○ | 特殊型 | 未然形 | 打消推量・打消意思・不適当 | 助動詞「む」の打消に当たる。 |
まじ | まじく まじから |
まじく まじかり |
まじ |
まじき まじかる |
まじけれ |
○ | ク活用型 | 終止形とラ変型の連体形 | 打消推量・打消意思・打消当然・禁止・不適当・不可能 | 助動詞「まし」の打消に当たる。この助動詞の元の形が「ましじ」であることからも分かる。 | |
希望 | たし | たく たから |
たく たかり |
たし |
たき たかる |
たけれ |
○ | ク活用型 | 連用形 | 希望 | 口頭語では「たし」、文章では「まほし」が使われる。 |
まほし | まほしく まほしから |
まほしく まほしかり |
まほし |
まほしき まほしかる |
まほしけれ |
○ | シク活用型 | 未然形 | |||
断定 | なり | なら | なり に |
なり | なる | なれ | なれ | ナリ活用 | 体言と連体形 | 断定・存在・資格 | 現代語の「だ」に当たる。 |
たり | たら | たりと | たり | たる | たれ | たれ | タリ活用 | 体言 | 断定 | 主に使われたのは中世以降で、文章や和歌でしか使われない。 | |
伝聞 | なり | ○ | なり | なり | なる | なれ | ○ | ナリ活用 | 終止形とラ変型の連用形 | 伝聞・推定 | 「音(ね)あり」から転じたもの。 |
比況 | 如(ごと)し | ごとく | ごとく | ごとし | ごとき | ○ | ○ | ク活用型 | 連体形 | 比況・同等・例示 | 形容詞に含める場合もある。 |
ごとくなり | ごとくなら | ごとくなり ごとくに |
ごとくなり | ごとくなる | ごとくなれ | ごとくなれ | ナリ活用 | 連体形と体言 | 比況・同等 | 「ごとし」を形容詞と見る場合にはその補助活用と見られる。 | |
やうなり | やうなら | やうなり やうに |
やうなり | やうなる | やうなれ | やうなれ | ナリ活用 | 体言 | 比況・同等・例示・不確かな断定・願望 | 上代ではあくまでも「やう」と「なり」の形として使われていて、助動詞の形になったのは中世と言われている。 |
[編集] 上代文法
種類 | 活用形 | 活用の型 | 接続 | 意味 | 備考 | ||||||
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基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |||||
受身 | ゆ | え | え | ゆ | ゆる | ゆれ | ○ | 下一段型 | 四段・ナ変・ラ変の未然形 | 受身・尊敬 | 後に助動詞「る」になった。 |
らゆ | らえ | られ | ○ | ○ | ○ | ○ | 四段・ナ変・ラ変以外の未然形 | 後に助動詞「らる」になった。 | |||
尊敬 | す | さ | し | す | す | せ | せ | 四段型 | 四段・サ変の未然形 | 尊敬 | 後に助動詞「す」「さす」に吸収された。 |
推量 | ましじ | ○ | ○ | ましじ | ましじき | ○ | ○ | ク活用 | 終止形とラ変型の連体形 | 過去推量・過去意思 | 後に助動詞「まし」になった。 |
※なお言語とは時代によって変化するものであり時代によって助動詞の表す意味も変わってくる。この表は一時的でも使われていた意味は記しなるべく備考の欄に使われていた時期などを記した。
[編集] 英語の助動詞
英語では助動詞は動詞の直前に来る。また疑問文では主語と倒置される。不定詞とともに用いられるものと分詞とともに用いられるものがある。
[編集] 文の構成
○以下の3つの文が基礎です。 (肯定文)主語+助動詞+動詞の原形~. (否定文)主語+助動詞+not+動詞の原形~・ (疑問文) 助動詞+主語+動詞の原形~? ※文ちゃん法則より
[編集] 不定詞とともに用いられる助動詞
動詞の原形不定詞とともに用いられる助動詞には can, will, shall, may, must など(これらは文の法性Modalityを決定する意味で法助動詞Modal auxiliary verbとも呼ばれる)がある。
疑問文や否定文で無内容の助動詞 do を使うのは英語の珍しい特徴であり、他の言語には見られない。
[編集] 分詞とともに用いられる助動詞
分詞とともに用いられる助動詞にはbe(+現在分詞=進行形、+過去分詞=受動態)、have(+過去分詞=完了形)がある。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
日本語の品詞 |
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自立語 動詞 - 形容詞 - 形容動詞 - 名詞 - 代名詞 - 連体詞 - 副詞 - 接続詞 - 感動詞 |
付属語 助動詞 - 助詞 |