厩火事
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厩火事(うまやかじ)は落語の演目の一つ。 夫婦喧嘩の絶えない家を扱った話で、落ちの巧妙さは落語中トップクラスの出来。 別名を「厩焼けたり」ともいう。題名はネタになっている孔子の故事から。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
髪結いで生計を立てているお崎の亭主は文字通り「髪結いの亭主」。怠け者で昼間から遊び酒ばかり呑んでいる年下の亭主とは口喧嘩が絶えないが、しんから愛想が尽き果てたわけではなく、亭主の心持ちが分からないと仲人のところに相談を持ちかける。
話を聞いた仲人は、孔子が弟子の不手際で秘蔵の白馬を火災で失ったが、そのことを咎めず弟子たちの体を心配し弟子たちの信奉を得た話と、瀬戸物を大事にするあまり家庭が壊れた武家の話をする。そして目の前で夫秘蔵の瀬戸物を割り、どのように反応するかで身の振り方を考えたらどうかとアドバイスをする。
帰った彼女は早速実施、結果夫は彼女の方を心配した。感動したお崎が「そんなにあたしのことが大事かい?」と質問すると、 「当たり前だ、お前が指でも怪我したら明日から遊んでて酒が呑めねえ」
[編集] 虚構と現実の差
教訓本などにはよく偉人のエピソードが描かれているが、普通に考えればそんなに出来た人間はそうそういるものではない。多くの場合、後世に付け加えられたフィクションである。このほかにも、落語には『二十四孝』など教訓話が出てくる落語が出てくるが、どれも結果はこの話のような散々なものになってしまう。教訓話をまともに受け止めず、あえて茶化してしまうところに落語の秀逸なところがある。
[編集] 典拠など
『論語』郷党篇の「廄焚、子退朝曰傷人乎不問馬(厩焚けたり、子、朝より退きていわく、人を傷つけるか、と。馬を問わず)」が元になっている。なお、落語では「秘蔵の白馬」となっているが、原典では馬の種類などについての記述はなく、脚色が行われている。この噺は、江戸時代の心学講釈の面影を残すものであるともいわれている。