大夕張ダム
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大夕張ダム(おおゆうばり-)は北海道夕張市(空知支庁)南部東町地先、一級河川・石狩川水系夕張川上流部に建設されたダムである。
夕張川沿岸農地のかんがいを目的に北海道開発局によって建設された農業用ダムで、農林水産省が管理していた堤高67.5mの重力式コンクリートダムである。1991年(平成3年)より当時の建設省(現・国土交通省)によって多目的ダムである夕張シューパロダム(ゆうばりしゅーぱろ-)の建設が進められており(後述)、2013年(平成25年)に完成すると完全に水没して姿を消す。現在は国土交通省北海道開発局札幌開発建設部が管理を行っている。ダムによって出現した人造湖はシューパロ湖と呼ばれる。
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[編集] 沿革
夕張川下流地域に灌漑用水を供給し、農地開発を促進させる事を目的に北海道開発局農業水産部(農林水産省所管)が国営夕張地区土地改良事業の中心として1962年(昭和37年)に夕張川上流部に建設した。下流の川端ダム等と連携して農業用水を供給する他、発電も行う。この発電事業(二股発電所)は北海道営発電事業として建設されたものであるが、共同事業者として三菱鉱業株式会社(現・三菱マテリアル株式会社)が出資しており、三菱大夕張・南大夕張炭鉱等に電力を供給していた。
ダム湖の名前はシューパロ湖と呼ばれるが、「シューパロ」の語源はアイヌ語で「本当の」を意味する「シ」と、「鉱泉の湧出する所」を意味し夕張の語源となった「ユーパロ」の合成であり、「夕張川本流」を意味する。ダム右岸部のシューパロ湖上に鉄橋が架橋されているが、この橋は三弦橋と呼ばれる。旧・下夕張森林鉄道線夕張岳線森林鉄道の鉄道橋として使用されていた。橋の形式はトラス橋であるが、三弦橋は他のトラス橋と異なり四角錘を幾つも組み合わせたタイプである。現存する鉄道専用橋としてこの形式が採用されている橋は全世界で三弦橋だけであり、橋梁工学的に極めて貴重な橋梁である。
なお、直下流には清水沢ダムが建設されているが、これは二股発電所の逆調整池としての機能も果たしている。逆調整池とは発電用の水を放流する際、下流の河川の水量が急激に増加しないように調整し、一定の水量を放流する役割を持つ調整池の事であり、大規模な水力発電所の下流に建設される事が多い。この清水沢ダムは元来北海道炭礦汽船(北炭)の自家発電用として建設された民間企業所有ダムであったが、炭鉱の閉山と共に北海道企業局へ移管されている。
[編集] 夕張シューパロダム建設事業
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現在、大夕張ダムの直下流155m地点に、国土交通省・農林水産省・北海道企業局ほかによる共同事業「夕張川総合開発事業」として夕張シューパロダムが建設されている。堤高110.6mの重力式コンクリートダムで、完成すれば大夕張ダムは63年間にわたったダムの役割を終えることとなる。
[編集] 経緯
夕張地域は夕張メロンを始め稲作、牧畜等農業が次第に発展していった。これに伴い農業用水の不足が次第に顕在化していった。この為、農林水産省は農業用水の更なる確保を図る為1980年(昭和55年)、既設大夕張ダムを13.3m嵩上げする再開発計画を立案した。ところが翌1981年(昭和56年)、台風12号が北海道を襲い石狩川流域は観測史上未曾有の大水害を経験した。夕張川においても各所で堤防が決壊、夕張市や江別市等で大きな被害を齎した。
これを受け、北海道開発局石狩川開発建設部は石狩川水系の治水計画である「石狩川水系工事実施基本計画」の再検討を行い、この中で「夕張川総合開発事業」を策定。柱として夕張川に治水ダムを建設する計画を立てた。又、札幌市等の人口の増加に伴う水需要増大や工業用水確保等の要請もあり、検討の末農林水産省の大夕張ダム嵩上げ計画に参入する形で、多目的ダム建設事業として事業計画を拡大。この結果、既設大夕張ダム直下流155m地点にダム建設を計画することになった。これが夕張シューパロダム建設事業である。
[編集] 目的
ダムは2006年(平成18年)現在本体工事に着手している。当初は2004年(平成16年)完成予定であったが完成予定が大幅に遅延している。これは水没世帯数が289戸に及ぶ事から反対運動が強く、補償基準妥結までに多くの時間を要したことが進捗遅延の大きな要因である。この為水源地域対策特別措置法第9条指定対象となり、補償額の国庫補助嵩上げ等の対策が施された。完成予定は2013年(平成25年)の春を予定しており、現在は国道452号の付け替えとダム建設の為に夕張川の流れを変える転流工の工事を実施している。
目的は昭和56年台風12号における洪水にも耐えられる夕張川・石狩川の洪水調節、慣行水利権分の用水補給及び夕張川の流量を一定量に維持して生態系の保全を図る不特定利水、北海道営の水力発電(認可出力:26,600kW予定)、千歳市・江別市・恵庭市・北広島市・南幌町・長沼町・由仁町4市3町への上水道供給、及び前記の4市3町に加え夕張市・岩見沢市・栗山町・追分町6市5町の農地に対するかんがいである。
竣工後は大夕張ダム(その後は、貯砂ダムとして機能する)は勿論、貴重な三弦橋も水没する。夕張シューパロダム建設によって出来る新しいシューパロ湖は、湛水面積1,400haで雨竜第一ダムの朱鞠内湖に次いで日本第2位、総貯水容量427,000,000トンも徳山ダム(揖斐川)、奥只見ダム・田子倉ダム(只見川)に次いで日本第4位となり日本屈指の大人造湖が誕生。完成すると北海道最大、国内最大級の多目的ダムとなる。
[編集] ダムへの疑問と期待
だが一部の市民団体や日本共産党などからは、このダム計画に対して疑問の声を挙げている。特に利水について石狩湾沿岸工業地域の利水が当初予定に比べ過大な見積もりではないか、さらに景気減速後工業地域の水需要は減少しているのではないかという指摘があり、「水余り」であるという疑問の声がある。また、事業の長期化によって事業者である北海道などの負担費用が増大している事に対しても、「税金の無駄遣い」として非難している。この他ダム堆砂への懸念や、三弦橋水没に対する批判もある。三弦橋水没については具体的対策がないのが現実であり、このまま事業が進行すれば地球上からこの型式の橋梁は消滅する。「水余り」や事業費増大による財政圧迫については事業主体者である国土交通省の説明責任が必要であるとの認識が共同事業者である北海道庁からも出されており、より説明を果たす事が求められている。
一方で治水について近年の地球温暖化による豪雨災害の続発を受け、早期の整備が必要とする意見も多い。加えて財政破綻を来たし財政再建団体に指定された夕張市への短中期的な経済的効果(ダム建設による莫大な固定資産税収入によって財政が回復し、地方交付税交付金不交付団体に指定された自治体は多い。また水力発電所が建設されるため電源三法に基づく電源立地交付金などの補助が期待される)や、道内最大・日本屈指の規模を誇るダム及び新・シューパロ湖の観光地化や夕張市・富良野市間の国道アクセス整備など、新しい観光地としてのダムへの期待を持つ住民の声もある。道内では金山ダムや豊平峡ダムの様に毎年数十万人の観光客を誘致するほど観光地化した北海道内のダムもあり、これらのダムは何れも国土交通省が積極的に開放している「地域に開かれたダム」施策の結果である。
「夕張川治水の安定化」・「夕張市再生の切り札」としての賛成意見と、「不要な公共事業で税金の無駄遣い」・「自然破壊」としての否定意見が入り混じりながらも夕張シューパロダムは2013年の完成に向けて、建設を進めている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 国土交通省北海道開発局 『石狩川水系夕張川河川整備計画』。2005年
- 国土交通省北海道開発局 札幌開発建設部 大夕張ダム管理事務所
- 国土交通省北海道開発局 石狩川開発建設部 夕張シューパロダム総合建設事業所
- 財団法人日本ダム協会 『ダム便覧』 大夕張ダム
- 財団法人日本ダム協会 『ダム便覧』 夕張シューパロダム
- ふるさと大夕張
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