女子高生コンクリート詰め殺人事件
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女子高生コンクリート詰め殺人事件(じょしこうせいコンクリートづめさつじんじけん)は、1988年11月~1989年1月、東京都足立区綾瀬で起きた猥褻誘拐・略取、監禁、強姦、暴行、殺人、死体遺棄事件の通称である。事件番号は平成2う1058。
この事件は、加害者が全て少年(未成年)であったこと、犯罪内容が重大・悪質であったこと、犯行期間も長期におよび、少女が監禁されていることに気づいていた周囲の人間も被害者を救わなかったこと、などの点で社会に大きな衝撃を与えた。
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事件の経過
数名の少年が女子高校生を41日間にわたり仲間の自宅2階の居室に監禁し、レイプ行為や苛烈な暴行を繰り返した挙句、被害者は死亡。死体の処理に困った加害者達は遺体をドラム缶に入れてコンクリート詰めにして東京都江東区若洲の埋め立て地(現在の若洲海浜公園敷地内)に遺棄した。なお、ドラム缶には、長渕剛主演のドラマ「とんぼ」のビデオが入れられた。被害者少女が、この事件に遭ったことで当ドラマの最終回が見られなかったことを最後まで悔いていたことに対するものであったが、加害者少年によると、「被害者の供養とかそういう思いというより、化けて出られたりしそうで怖かったから」だと言う。
1989年(平成元年)3月29日、別の事件で逮捕された際の取調中の加害者の供述により、被害者の遺体が発見されたことから事件が発覚した。この経緯は以下の通りである。 上述の「別の事件」で、少年グループの家宅捜索が行われ、そこから女性の下着が出てきた。 このことから、取調べの刑事が(「下着泥棒でもしたのだろう」と思いながらも)、主犯の少年Aに対し、「お前、人を殺しちゃダメじゃないか」と問うた。いわばカマをかける形であった訳であるが、これに対しAは「すいません、自分が殺りました。」と答え、質問した刑事が驚いてしまったと言う。 主犯の少年Aは、留置場で幻聴・幻覚に悩まされており、自白を考えていた矢先の出来事であった。
- 犯人が被害者の死亡に気づいたのは同年1月5日。この日はまだ平成元年ではなく昭和64年であった。
裁判
主犯格の4名は刑事処分相当として家庭裁判所から検察庁へ送致(逆送)され、刑事裁判にかけられた。
東京高等裁判所の判決は、主犯格の少年は懲役20年、他の少年はそれぞれ懲役5年以上10年以下、懲役5年以上9年以下、5年以上7年以下というもの。 その他3人の少年が少年院に送致された。
事件の背景
事件現場となった家庭は、両親が共働きで留守がちであったこと、家庭内暴力で、子供を恐れていたことから、自宅二階六畳間居室が不良交友仲間のたまり場と化していたと見られている。
少年たちのその後
反省したものの、刑務所で日を送るうちに精神を病んでしまった少年もいる。 出所した男性の1人は2004年(平成16年)5月19日に再び監禁致傷事件を起こし、6月4日に逮捕された。
反響・影響
マスメディアの反応
この凶悪事件の主犯格の4名とも未成年者であったことなどから、大々的に報道された。
少年法では事件の犯人が少年の場合、実名を報道することを禁止しているが、当時、一部の報道機関が少年らの実名を報道したため論議を呼んだ。実名報道した週刊文春(担当だったのは当時社員だった記者勝谷誠彦、記事を通した当時の編集長は花田紀凱)は理由として、「事件があまりに凶悪であるため」、「野獣に人権はない」と説明している。この報道をきっかけに週刊文春は売上部数ナンバー1になり、犯罪の低年齢化に伴う少年法論議に火をつけた。
識者の反応
評論家赤塚行雄はこの事件を「狂宴犯罪」と呼んだ
一般の反応
犯人が少年であったことから、同年代の子供を持つ親に計り知れない衝撃を与えた。市川一家4人殺人事件の被疑者が、この事件の判決を知り「自分はこの事件の被疑者らと比べるとまだまともだ」と述べていた。ちなみにこちらの事件の被疑者は死刑が確定となっている。
2000年以降
2003年、事件を元にしたノンフィクション・ノベル『十七歳、悪の履歴書』が出版された。 翌2004年、映画「コンクリート」が『十七歳、悪の履歴書』を原作にこの事件を“モチーフとして”[1]映画化された。この映画の公開をめぐっては、事件の残虐性、そもそも映画にする必要があるのか?などの意見がネットを中心に多数湧き上がり、劇場にも上映反対意見が多数届いた。 その影響で5月29日から予定されていた公開は中止されたが、その後、別の劇場で7月3日から9日の一週間だけ公開された。 製作者側によれば、大手レンタルチェーン店にもこの映画のビデオ・DVDを取り扱わないよう意見が多数寄せられたという[2]。なお、この映画のビデオ・DVDはレンタル用としてはR-15に指定されている。
またこの事件をもとにヴィジュアル系バンドのガゼットがアルバム「NIL」の最後の「体温」という曲を作っており、ルキは雑誌のインタビューでその関連についてコメントしている。
参考書籍
- 『うちの子が、なぜ!―女子高生コンクリート詰め殺人事件』佐瀬 稔 (著)草思社 ISBN 479420390X (1990/10)
- 少年たちがなぜ残虐な犯罪に走ったか、背景をさぐる。
- 『かげろうの家 女子高生監禁殺人事件』横川 和夫 (著), 保坂 渉 (著)株式会社共同通信社 ISBN 476410251X (1990/11)
- 『女子高生コンクリート詰め殺人事件―彼女のくやしさがわかりますか?』門野 晴子 (著), おんな通信社 (編) 社会評論社 (1990/12)
- 被害者の立場にたった著作。
- 『少年の街』藤井誠二 教育史料出版会 ISBN 4876522308 (1992/06)
- 少女が監禁・暴行されているのを知っていながら何もしなかった少年たちが少なからずいた。ルポライターの藤井が彼らを取材。
- 『殺人現場を歩く』蜂巣 敦 (著) ミリオン出版 ISBN 4813010814 (2003/07)
- 『十七歳、悪の履歴書-女子高生コンクリート詰め殺人事件』渥美饒兒 作品社 ISBN 4878935723 (2003/08)