急性胃腸炎
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急性胃腸炎(きゅうせいいちょうえん)とは、急性に発症する胃腸症状を主体とした症候群である。ICD-10のコードはA09。
主にウイルス感染を原因として、嘔吐・下痢を主症状とする。類似した病名として感染性腸炎(A09)、嘔吐下痢症(この病名ではコードなし)があるが、大部分が重複する概念であり、分類は明確ではない。いずれも単一の疾患ではなく、様々な原因・病態を含む症候群である。
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[編集] 原因
殆どは感染性腸炎で、中でもウイルス性のものが圧倒的に多いが、一部に細菌性のものがある。病原体に汚染された食物が原因であれば食中毒であるが、例えば黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンによる食中毒は、症状がウイルス性腸炎と極めて類似するため、急性胃腸炎と診断される可能性がある。
感染性腸炎の原因となるウイルス、細菌には以下のようなものがある。
[編集] ウイルス
[編集] 細菌
[編集] 感染経路
ほとんどのものは患者の便、または吐物中に病原体が存在し、その病原体が別のヒトに経口感染する(糞口感染)。
実際に糞便が直接口に入ることはまずない。糞便の処理の際に手指や環境に付着した病原体が、食器や哺乳瓶の乳嘴、手指を介して口に入り、感染すものと考えられている。
[編集] 症状
下痢、嘔吐が主症状で、腹痛や発熱、倦怠感を伴うことも多い。各症状の出現頻度には患者年齢や病原体による差もあるが、個人差が極めて大きいのも急性胃腸炎の特徴である。症状の持続期間も個人差が大きい。
[編集] 治療
嘔吐は1日以上続くことは少ない。このため、症状が軽症であれば経口での水分摂取を薦めることで十分である。
嘔吐の程度が強く経口摂取が十分にできない場合、経静脈輸液(いわゆる点滴)が必要となる。特に小児などではアセトン血性嘔吐症(自家中毒)の合併が多く、こちらにも急速輸液が有効である。
嘔吐の持続期間が長く経口摂取できない状態が続く場合や、下痢が重篤で経口での水分摂取が追いつかない場合、明らかな脱水がみられる場合は、入院して絶飲食とし、十分量の輸液を継続する必要がある。
ウイルス感染が圧倒的に多いため、病原体ごとに特異的な薬剤というものは存在せず、また使用する必要もない。脱水さえ回避できれば症状は自然軽快するからである。
細菌性腸炎の場合でも、よほど重篤な場合を除いては、抗菌薬の投与は必要ない。細菌性腸炎は実質臓器の細菌感染や敗血症と異なり、自然軽快傾向が強いからである。
代表的な止痢薬であるロペラミドは乳幼児では腸閉塞を合併しうるため使用に注意が必要であり、細菌性腸炎では病原体の排泄を遅らせ重症化させる危険があるため禁忌である。特に腸管出血性大腸菌感染症にロペラミドを投与することは、溶血性尿毒症症候群を誘発する恐れがあると考えられており(エビデンスは不十分)、避けるべきである。
[編集] 予防
急性胃腸炎の病原体の多くは人体外でも長時間生存できるため、院内感染の予防のためには標準感染予防策に加えて接触感染予防策を講じる必要がある。
自宅ではガウンや手袋の着用は困難であるが、トイレから出た後、食事前、乳幼児のオムツ交換の前後などこまめに手を洗うことが必要である。紙オムツはビニール袋で密封するなどして廃棄しする。患者の便により汚染された衣服などは、漂白剤に浸けおき洗いするなどして消毒すべきである。
[編集] 関連項目
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