気圧計
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気圧計(きあつけい)とは、大気の圧力を測定する器具のことである。気圧は天候の変化に対応する重要な測定項目として、ほとんど全ての気象観測点で観測が行われているため、用途に応じた様々な種類の気圧計が用いられている。また、レーザー干渉計・航空機・GPSなどでは、大気(空気)の圧力に伴う物性の変化(密度、屈折率等)を原因とする誤差を補正するため、その目的に応じた気圧計が用いられる。
地上からの高度と気圧の間には一定の関係があるため、高度計として気圧計と同じ構造のものが用いられる。
17世紀に気圧計の原理が確立されてほどなく、天候の悪化に先んじて気圧の変化(低気圧の接近)が起こることが発見された。これを応用した製品は晴雨計として船舶等に普及し、短時間に限られるとはいえ、それまで科学的手法の存在しなかった気象の予想が、誰にでも行えるようになった。
このことが社会にもたらしたインパクトの大きさは、現在でも、他の事象の象徴あるいは先行指標となるもの、及びその変化を指して「バロメーター」と呼ぶことにその名残を残している。
日本では、気象業務法及びその下位法令により、公共的な気象観測には、検定に合格した液柱型水銀気圧計、アネロイド型気圧計又は電気式気圧計を用いることとされている。
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[編集] 液柱型水銀気圧計
フォルタン水銀気圧計とも呼ばれる。一端を封じたガラス管の内部に水銀を満たして水銀槽に倒立させ、ガラス管の上部にトリチェリの真空を生じさせた構造である。水銀槽の液面にかかる大気圧とガラス管の内部の水銀柱の重さ(∝高さ)との釣り合いから気圧が測定できる。気象観測における基準器として用いられることが多い。
水銀槽の下部は、皮製の袋をネジで押し上げて液面の高さを調整できる構造になっており、水銀槽内の液面が象牙の針(気象庁の規格では、政治的な配慮から、平成14年以降「象牙」との材質指定をやめている)の先端に接するようにしたうえで、ガラス管に添えられた目盛りを読み取る。より厳密な測定には、温度及び重力加速度を用いた補正が必要である。このため、気温測定用のものと同等の附着温度計と呼ばれる[温度計]が付属する。
特殊な構造のものとしては、ガラス管上端にレーザーを用いた測距装置を備え、測定値の電気的な出力を行うものがある。
その原理上、非常に精度の高い測定が可能である一方、高価であること、全長が長く重量が重いこと、衝撃・傾斜に弱く運搬に適さないこと、測定に熟練を要すること等の欠点があり、日常的な観測、特に自動観測には使いにくい。
気象庁でも、地方官署における基準器としては使用しないこととしたため、国有財産としての使用期限を過ぎたものから順次払い下げを行っている。
気象観測用として、測定範囲は、少なくとも870~1050hPa(山岳用のものでは540~1050hPa)が必要とされ、許容される器差は、0.7hPaである。
[編集] アネロイド型気圧計
アネロイド(Aneroid)型気圧計は、内部をほぼ真空にした、円盤形又は円筒形の金属製密閉容器(空盒、ベローズ、チャンバー等と呼ばれ、主に洋白又はりん青銅で作られる。)をつぶそうとする大気圧と機構に内蔵されたばねの反発力との釣り合いによって気圧を測定するものである。水銀を用いないことから、ギリシャ語のa(否定の意味)とneros(湿った・液体の)を語源とするこの名を持つ。
小型軽量で構造及び取扱いが簡単なため、家庭用や携帯用として広く用いられており、温度計と兼用にした製品も多い。水銀気圧計と比較して精度が劣るとされるので、気象観測用として検定の対象となるものは、2個のベローズを対称に設けたり、バイメタルによる温度補償を行うことが多い。気圧と高度の対応目盛りが付いたものは、登山などにおける高度の測定に用いられる。
アネロイド型気圧計の一種として、指針の代わりに記録ペンを駆動し、ゼンマイなどの動力で回転するドラムに巻かれた記録紙に気圧の時系列を自動的に記録する自記気圧計がある。
気象観測用として、測定範囲は、920~1040hPa(自記気圧計は940~1040hPa)が必要とされ、許容される器差は、0.7hPa(自記気圧計は1.4hPa)である。
[編集] ブルドン管気圧計
ブルドン管気圧計はCの形になっている密閉容器が大気圧によって変形するのを利用して指針を動かすようにした圧力計である。1852年にフランスのBourdonが発明した。気圧計としての精度はやや低いが構造が簡単であり、現在も工場などで安価な圧力計として用いられている。
[編集] 電気式気圧計
近年では、半導体等を用いたセンサにより気圧を電気信号として出力し、デジタル信号として出力・記録することが行われている。センサには、静電容量式のものと振動式のものとがある。
集積回路の技術を応用して製造されたチップ型のものは、加工の精度が非常に高いため、精度や安定性の点で優れており、機器への組込みも容易なことから、広く使われるようになっている。
静電容量式のセンサは、シリコン等でできたチャンバーがコンデンサを形成しているもので、気圧による電極間の距離の変化を静電容量の変化として検出する。
振動式のセンサは、金属、シリコン等でできたチャンバーに水晶等の圧電素子から振動を加え、気圧の変化に伴って変化するチャンバー面の張力を共振周波数の変化として検出することで測定を行う。従来は円筒振動式気圧計と呼ばれる缶形のセンサが使われてきたが、近年はチップ型のものが普及してきている。
気象庁では、アメダス等の自動観測装置への組込み用として、1982年から円筒振動式気圧計を、1995年から静電容量式のセンサを用いた気圧計を採用している。
気象観測用として、測定範囲は、870~1050hPa(ラジオゾンデ用の場合、5~1040hPa)が必要とされ、許容される器差は、0.7hPa(ラジオゾンデ用の場合、気圧高度域ごとに6~10hPa)である。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- ヴァイサラ - 大気圧計メーカーのサイト