海底ケーブル
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海底ケーブル(かいてい・けーぶる、Submarine cable)は、海底に敷設または埋設された電力用または通信用の伝送路一般を指す。水圧の耐張力と耐水性に優れているのが特徴。近年は国際通信ネットワークの伝送路としての認識がほぼ一般的である。以降、通信部門について記述する。
[編集] 概要
海底ケーブルは19世紀の帝国主義、資本主義の発展と伴い世界中に敷設されてきた歴史を持つ。初めての実用的な海底ケーブルは1850年、イギリスのドーバーとフランスのカレーの間に開設され、翌年に開局。以降、様々な研究が重ねられ、大西洋横断ケーブル(1858年)、太平洋横断ケーブル(1964年)が完成したが、20世紀の初頭は無線ブームによりその価値が低下した面もあった。今日、世界の海に張り巡らされた海底ケーブルは国際間の電話やファクシミリ、テレビ中継においてインテルサットの静止衛星経由に比べエコーが気にならない高品質が認められる。これは衛星に比べ距離が短くて済むという利点により生じている。但し、ケーブルを敷設する際に膨大なコストが掛かる点がデメリットである。
通信技術としては同軸ケーブルと光ファイバーケーブルが利用されている。両者を比較した場合、光は現在の国際通信の主役となっている。架空または地中ケーブル同様に、どちらも伝送のために数十キロ単位(同軸は数キロ単位)で、中継器と呼ばれる信号の増幅装置を設置する必要がある。同軸ケーブルは中継機用の電力送信の伝送路も持つ。通信線を保護するために耐水性のPEが巻かれ、また水圧や海流による擦れに対しては通信線の周囲をワイヤーを何重にも巻くことで対処している。勿論、絶縁処理も施されている。
2地点間を結ぶだけでなく障害発生時にも継続的に利用できるように、ケーブルルートをリング状に構成する点など、ノード面においても他のケーブルと同一の工夫がされている。日本の周囲は、内通信用に沿岸部を接続している内陸ケーブルと、外洋ケーブルが張り巡らされている。海底ケーブルは沖縄具志頭、神奈川二ノ宮など日本国内7箇所ある海底ケーブル陸揚(りくあげ)局で終端され、日本国内の通信伝送路に接続される。
海底ケーブルの敷設と補修は、海底ケーブル敷設船という特殊船が利用される。19世紀のグレート・イースタン号(英)や20世紀のKDD丸(日)が世界的に知られている。敷設についてはそのまま敷設する型と埋設する型がある。海中は共同資源である点から埋設について厳しい制約がある。沿岸部の浅海域では、ソナーで位置を確認しながら埋設機により掘り起こしケーブルを敷設。地すべりや底引網、投錨による破損に備えている。
ケーブルが傷ついたり切断してしまった場合は、ケーブルの両端から海底ケーブル敷設船で引き上げ、船上で切れている部分をつなぎ合わせ、再び沈める作業が行われる。過去のケーブル障害はキンク(日本語に直すと敷設時の水圧折り曲げ)が一般的であったが、敷設技術の向上により減少している。鮫がケーブルを噛むシャークバイトと呼ばれるケースもあるといわれる。
日本における国際海底ケーブルは、TPC-1 (Trans Pacific Cable)で、1964年に開通し、電話回線128回線が実現された。その後のTPC-2(1975年、電話回線:845回線)に続き、TPC-3(1989年、容量:560Mbps)では、初めて光ファイバが用いられ、TPC-4(1992年、容量:1Gbps)、TPC-5CN (Cable Network:環状)(1995年、容量:10Gbps)が建設され、日米間の通信とともに、アジア地域と欧米との中継を含めたバックボーンとして重要な役割を担った。
日本に接続されるその他の国際海底ケーブルには、APCN(10Gbps 陸揚国:韓国、香港、フィリピン、台湾、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア)や、インド洋を経由するSEA-ME-WE3(40Gbps 陸揚国:韓国、中国、台湾、香港、マカオ、フィリピン、タイ、ブルネイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インド、インドネシア、ミャンマー、オーストラリア、スリランカ、パキスタン、オマーン、アラブ首長国連邦、ジブチ、トルコ、サウジアラビア、エジプト、キプロス、ギリシャ、イタリア、モロッコ、ポルトガル、フランス、英国、ベルギー、ドイツ)などもある。
その後、インターネット時代を迎え、より大容量な海底ケーブルへと進化した技術には、WDM(Wavelength Division Multiplexing:光波長多重)や光ファイバがあげられる。これら技術によって、China-US CN(2000年、容量:80Gbps)、Japan-US CN(2001年、容量:400Gbps)へと飛躍的な大容量化が実現された。
TPC-1、TPC-2などの退役した同軸ケーブルは地震研究などに転用されている。
欧米のネットバブルにより、従来の通信事業者主体からプライベートケーブルと呼ばれる非通信事業者系ケーブルが登場した結果、インターネット時代といえども供給過剰ともいわれる一方、国際的な更なるブロードバンド化に伴う需要の受け皿にもなっている。