静止衛星
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静止衛星(せいしえいせい)とは、人工衛星の一種。赤道上空の高度約35,786kmの円軌道を、地球と同じ自転周期で公転している衛星のことを指す。このため地上からは、空のある一点に静止しているかのように見える。このような性質から、放送衛星・通信衛星・気象衛星などに用いられる。1963年7月にアメリカ合衆国が打ち上げた通信衛星・シンコム2号(Syncom-2)が世界初の静止衛星である。
静止衛星の軌道を静止軌道とよぶ。実際には、地球の重力場が一様ではない事と、太陽や月の引力の影響があるため、静止衛星の位置は少しずつずれてゆく。それを補正するために静止衛星は定期的に軌道制御をする必要がある。軌道制御には東西方向の制御と南北方向の制御がある。軌道制御を怠ると、傾斜軌道となる。東西方向には、アジア付近の場合、インド洋方向に力が働いている。
衛星の実際の寿命は概ね燃料で定まり、寿命末期には静止軌道からさらに高度の軌道に上昇させ廃棄し、軌道を空けることが国際条約により定められており従前のように、廃棄された衛星が大気圏で燃え尽きたり、地上に落下することは稀有となった。
静止軌道上は、静止衛星が世界各国で打ち上げられて同じ軌道上に並ぶ為、人工衛星の過密地帯になっている。以前は衛星ごとに経度2度分の間隔を空けることになっていたが、現在は同一経度に複数の衛星が投入されて運用されるようになっている。軌道投入時には特に注意を要する。衛星の軌道割り当てに関しては国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)が調整を行なうことになっている。二つの国が同一経度に静止衛星を投入した場合、最初にITU-Rに通報した国の衛星が優先される。通信衛星の場合、電波干渉の問題が調整できれば、同一軌道にて複数国の衛星が運用されることもありうる。
静止衛星とそれを利用した衛星通信のアイデアは、SF作家のアーサー・C・クラークが1947年に最初に着想した、と言われている。彼は後に、この件で特許を取らなかったことを「失敗だった」と語った。またクラークは1979年に、静止衛星から地球上にケーブルを垂らして荷物を持ち上げる軌道エレベーターを題材にした(アイデア自体は彼の物では無いが)SF小説『楽園の泉』を発表している。