王国の歌
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王国の歌 (おうこくのうた、英語: Kingdom Songs) ないしは賛美の歌 (さんびのうた) は、エホバの証人によって用いられる宗教歌の総称 (愛称) である。現在は 225曲が歌われている。このメロディーをオーケストラで編曲したものを王国の調べ (英語: Kingdom Melodies) という。
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[編集] 背景
当初、聖書研究者 (エホバの証人の当時の呼称) は一般に知られた歌や賛美歌を多く使用していた。爾来、彼らの集会で音楽を用いる習慣は多くの発展を重ねてきた。初期には、エホバの証人は有名なメロディー (中には、ベートーヴェンやハイドンのような有名な作曲家による曲もある) に独自の歌詞を付けたものも用いた。1930年代の終わりに、このうちの一つがドイツ帝国の国歌として歌詞を替えて歌われ、混乱が生じたため、地元の集会で歌う習慣は廃止されたが、1944年に再び導入された。この時以降、歌集全体をエホバの証人に特化したものにするよう、一層の努力が払われるようになった。こうして、今日では曲・歌詞ともに、すべてエホバの証人自身による作品となっている。
[編集] 初期の歌集
1879年、協会による最初の歌集 『花嫁の歌 (Songs of the Bride)』 が出版された。これは 144曲からなる歌集であった。次いで出版されたのは、1890年の 『千年期黎明の詩と賛美歌 (Poems and Hymns of the Millennial Dawn)』 で、151編の詩と 333曲の歌が収録されていた (そのほとんどは有名な作家の作品)。これに続いたのは 1896年2月1日号の 『ものみの塔 (The Watchtower)』 誌で、協会のメンバーの作詞になる 11曲が掲載された。さらに別の歌集が 1900年に出版された。81曲の歌が掲載され、その多くは一人の人物の作品であった。1905年には、1890年に出版された 333曲を収録した楽譜付きの歌集が発表された。この歌集は英語以外の数ヶ国語でも出版された (主にダイジェスト版で)。1925年 には、特に子どもや若者のための歌集が出版された。この歌集は 『王国の賛美歌 (Kingdom Hymns)』 と呼ばれ、80曲の歌が収録されていた。1928年には、『エホバにささげる賛美の歌 (Songs of Praise to Jehovah)』 と題する歌集が出版された。この歌集には新旧織り交ぜて 337曲が収録された。彼らの信仰に反する教理を一層除外しようとする努力がなされている。
[編集] 最近の歌集
1940年代以降に出版された歌集を以下に挙げる:
- 1944年 『王国奉仕の歌の本 (Kingdom Service Song Book)』 62曲収録。
- 1950年 『エホバに賛美の歌 (Songs to Jehovah's Praise)』 91曲収録。様々な聖書的主題を扱っている。(邦訳、1955年)
- 1966年 『心の調べに合わせて歌う (Singing and Accompanying Yourselves with Music in Your Hearts)』 119曲収録。教団外に由来することが判明した曲は置き換えられた。(邦訳、1968年。邦訳版は1981年頃リニューアルされた)
- 『エホバに向かって賛美を歌う (Sing Praises to Jehovah)』 現在使用されている歌集で、225曲収録。1984年に英語版が発表され、その後の数年間に他言語でも出版された (邦訳は 1984年)。 さらに 2曲の歌のメロディーが変えられた。また、多くの歌で歌詞に変更が加えられている。
[編集] 歌について
225曲の歌は、クリスチャン奉仕の全側面を扱っている。歌の題名はすべて、聖書の聖句と関連付けられている。
王国の歌はバリエーションに富むものの、本質的に厳粛なものである。メロディーの楽想はさまざまである。マーチ風の曲もあれば、賛美歌風の曲もある。より快活な曲もある。王国の歌の音楽は、エホバの証人たちによって高く評価されている。
歌集には、作者の名前は掲載されていない。これは、協会による他の出版物の筆者が匿名とされているのと同様である。
エホバの証人たちは、宗教活動の一部として王国の歌に敬意を払い、それ以外の目的で用いないよう教えられている。
[編集] 用いられ方
通常、会衆の集会では三つの歌が歌われる。集会の始まりと終わりにはそれぞれ歌と祈りが捧げられ、また、集会の二つの部を分ける中間の歌が歌われる。歌は、集会のプログラムに合った主題の歌が選曲される。「神権宣教学校」・「奉仕会」・「ものみの塔研究」 の始まりの歌は、大抵 教団組織によって選ばれている。「ものみの塔研究」 で用いる歌は、研究で用いる号の 『ものみの塔』 誌上に掲載されている。「奉仕会」 で用いる歌は 『わたしたちの王国宣教』 に記載されている。一方、「公開講演」 で用いる歌は、通常 講演者自身が選曲する。王国の歌はまた、大会やベテル (教団の各国事務所) における行事等でも歌われる。
エホバの証人の結婚式は、(一般的なブライダル・マーチではなく) 関連した王国の歌を用いる典型的な儀式である。また、エホバの証人の葬式でも、適切な王国の歌が歌われることがある。
[編集] その他の特徴
- 英米の賛美歌集で一般的なチューンネーム (賛美歌#賛美歌の名前を参照) は、初期の歌集では用いられていたが、1944年以降の歌集には用いられていない。同じ韻律の曲で替え歌する習慣は早い時期に廃れたものと考えられている。
- 歌集中の歌の掲載順序は、ほぼ英語版での歌い出し (初行) のアルファベット順である。他言語の版も、225曲の全訳が揃っている場合は、英語版での歌番号を踏襲している。
- 英語版においては、1950年以降の歌集では thou (汝)、saith (のたまふ) 等の古風な言葉遣いが現代語に改められている。しかし日本語版では、他教団の賛美歌集と同様、文語調の歌詞が使用され続けている (口語調の歌は 1曲のみ)。
- 初期の歌集ではイエス・キリストに向かって語りかける歌詞の歌も多く見られたが、現在の歌集では無いに等しい。むしろ、エホバに向かって語りかける歌詞の歌が多い。(もっとも、イエス・キリストをメインテーマに扱った歌も数曲あり、イエス・キリストが無視されている訳ではない。)
- エホバの証人の主要な教義はほぼ王国の歌においても表明されている。しかし、最も特徴的な教義と思われている 輸血拒否 (血の神聖さ) を扱った歌はない。