発疹チフス
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発疹チフス(ほっしんチフス, epidemic typhus)とはRickettsia prowazekiiの感染を原因とする感染症。感染症法における四類感染症である。人口密集地域、不衛生な地域に見られ、衣服に付くシラミが媒介することから、冬期、または寒冷地で流行が見られる。例えば、1812年のナポレオンのロシア遠征などである。第一次世界大戦のロシアでは3000万人が罹患し、10%が死亡した。
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[編集] 原因
リケッチアの一種であるRickettsia prowazaekiiの感染を原因とする。コロモジラミ(Pediculus humanus)またはアタマジラミにより媒介される。自然感染したムササビが発見されたため、人獣共通感染症の可能性が指摘されている。
[編集] 疫学
日本では第二次世界大戦中から戦後にかけて流行したが、1955年以降報告されていない。20世紀初頭にはそのほか世界各地でもみられたが、現在ではアフリカ、南米の高地といった寒冷地を中心に発生する。
[編集] 症状
潜伏期は1から2週間。発熱、頭痛,悪寒、手足の疼痛などで突発し、高熱、全身に広がる発疹が特徴的症状である。皮疹は体幹の斑状の紅斑や丘疹からはじまり次第に手足に広ってゆく。手掌、足蹠をおかさないとされる。重症例では点状出血様になる。致死率は年齢により異なり、20歳まででは5%以下であるのに対して、加齢に伴い増加し、60歳以上では100%近くなる。発疹チフスの初感染から回復したヒトに発生する再発型リケッチア症があり、これはブリル病と呼ばれる。
[編集] 診断
病原体の培養は成功しない。血清学的には蛍光抗体法などによって診断され、スタンダードである。また遺伝子工学的にはポリメラーゼ連鎖反応によって診断可能であり、感度・特異度・診断までのスピードのどれをとってももっとも優れているが、コンタミネーションに気をつける必要がある。世界的に見ると、本症の流行地においてはこのような高価な最先端の方法は行いづらいという問題がある。
[編集] 治療
テトラサイクリン、ドキシサイクリンが用いられる。クロラムフェニコールも有効であるが副作用が強く、日本では一般に用いられない。ただ、発疹チフスときわめて類似する皮疹を呈する髄膜炎菌性敗血症、さらには髄膜炎との鑑別が困難な場合、クロラムフェニコールにも選択の余地はある(テトラサイクリンは血液脳関門を越えない)。
[編集] 予防
予防にはシラミを少なくすることが有効である。流行中の地域では、ドキシサイクリンまたはクロラムフェニコールによる予防効果が示されている。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 高島郁夫、熊谷進編 『獣医公衆衛生学第3版』 文永堂出版 2004年 101頁 ISBN 4830031980
- 山西弘一監修、『標準微生物学 第9版』、医学書院、2006年、ISBN 4260104535
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