競争入札
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競争入札(きょうそうにゅうさつ)とは、売買・請負契約などにおいて最も有利な条件を示す者と契約を締結するために複数の契約希望者に内容や入札金額を書いた文書を提出させて、内容や金額から契約者を決める方法。主として国や地方公共団体などの公的機関などが行うことが多い。競争入札には一般競争入札と指名競争入札がある。入札によらずに行う契約を随意契約という。国および地方公共団体の契約は原則として一般競争入札によらなければならない。(会計法第二十九条の三第一項、地方自治法第二百三十四条第二項)指名競争入札及び随意契約は法に定められた場合のみ行うことが出来る。(会計法第二十九条の三第三項、第四項及び第五項、地方自治法施行令第百六十七条、第百六十七条の二)競争入札では、予定価格内最廉価格の入札を落札としなければならない(会計法第29条の6)。尚、競争入札を行なっても落札しない場合等は随意契約に移行することができる(予算決算及び会計令第99条の2、第99条の3、地方公共団体は地方自治法施行令第167の2第8号)。
正しく運用すれば、予算の無駄が無く、極めて公平かつ透明な制度となる反面、契約締結に長期間を要し(官報で公告する場合は入稿から公告まで2週間、公告から入札まで国土交通省の標準日数で41日[1]、合計55日要する。技術提案等を詳細に検討する場合はさらに日数を要する[2]。)、手続きが煩雑で、小規模事業者には参入しづらいデメリットがある。談合が常態化すると競争入札のメリットが全く生かせないため、談合防止策が極めて重要となる。
近年、国や地方公共団体の会計制度の透明性を確保する目的で会計法および地方自治法が改正され、入札方法を指名競争入札から一般競争入札に移行する動きが加速している。
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[編集] 一般競争入札
[編集] 概要
入札情報を公告して参加申込を募り、希望者同士で競争に付して契約者を決める方式を一般競争入札と言う(会計法第29条の3)。各省各庁の長は参加資格を定めることが出来(予算決算及び会計令第72条)、参加資格を定めた場合は、随時申請を受け付けて審査して名簿に登録しなければならない。また、契約担当官等(地方事務所の所長など)は、各省各庁の長が定めた参加資格の他に、さらに必要な資格を定めることが出来る(予算決算及び会計令第73条)。
物品の製造・販売、役務の提供、物品の買受け(詳細は営業品目一覧による)については、総務省主務で全省庁統一資格審査が行われている。それ以外の契約については、各省庁独自の資格審査が行われている。審査に通ると、企業希望等に応じて等級付がなされ、営業品目別、地域別に名簿登録される。入札公告時に予定価格に応じて契約の等級が決定され、それと同じ等級で登録されていなければ、入札に参加できない。これにより、契約の規模と企業規模等とバランスが取れるように配慮されている。
コンクリート加水問題や、山陽新幹線コンクリート落下問題などを受けて制定された公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)を受け、単純な価格競争から価格以外の要素も考慮した総合評価方式も2005年度から行われている。
[編集] 手続きの流れ
公告に先立って、入札の方法や審査基準等について、審査会を開いて事前に決定する。その際、透明性を高めるため、外部の有識者を招聘する場合もある。
公告方法については、法律に具体的規定がなく、各官庁の掲示板への掲示だけで済ませる事例もあるが、新聞や官報を用いて広報性を高めるよう財務省通達で指導されている[1]。昨今では、Webページも活用されている。
公告を見て応募する場合は、まず、入札公告に記載された方法で入札説明書その他の資料(図面、仕様書等)を入手する必要がある。入札説明書に記載された要領に則り、入札参加資格確認申請書類を提出する。
申請書の提出期限の後、再び、審査会を開いて入札参加資格確認申請書類を審査する。入札参加資格確認申請書類に技術資料(同種工事の実績、配置予定技術者の資格、その他、業務遂行能力を審査する資料)が含まれる場合は、この時に、事前に決めた配点基準に従って技術資料を審査し、評価点を決定する。事前の審査に外部の有識者を招聘した場合は、この時点でも外部の有識者を招聘することが多い。以上の審査結果に基づいて、申込者に対して、入札参加の可否を通知する。入札参加を拒否された業者は、異議申し立てを行うことが出来る。
以前は、入札に先立って参加者が一同に会した現場説明会が開かれていたが、現在は、談合防止のため、現場説明会を開かないことが多い。現場説明会を開かない場合、仕様書等に不明点があれば、参加者が発注官庁に対して個別に問い合わせることになる。
入札参加を認められた者は、入札期限までに、入札書を郵送または持参するか、電子入札の手続きを行う。以前は、参加者が一同に会して入札を行っていたが、現在は、談合防止のため、このような手続きを行う。
契約担当官等は、開札日(通常は入札期限の翌日)に、複数の職員立ち会いのもと、入札書の開札を行う。総合評価方式の場合は予定価格以内で評価値(評価点を入札金額で除した値)の最も高い入札書を、価格評価方式の場合は予定価格内最廉価格の入札書を、落札として決定する。同点の場合は、くじ引き等で落札者を決定する。
[編集] 指名競争入札
発注者側が指名した者同士で競争に付して契約者を決める方式を指名競争入札と言う。各省各庁の長は参加資格を定めなければならない(予算決算及び会計令第95条)が、一般競争入札と同じ場合は、資格内容、名簿とも一般競争の物を準用できる。
次の場合にだけ例外的に指名競争入札が認められる。
- 契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争に付する必要がない場合(会計法第29条の3第3項、地方自治法施行令第167条第1項第2号)
- 一般競争に付することが不利と認められる場合(会計法第29条の3第3項、地方自治法施行令第167条第1項第3号)
- 契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合(会計法第29条の3第5項)
- 少額を理由に指名競争に付する予定価格の限度は表の通り
- 随意契約によることができる場合(予算決算及び会計令第94条第2項)
- 工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しない(地方自治法施行令第167条第1項第1号)
種類 | 国 | 都道府県及び市町村 | 根拠条文 |
---|---|---|---|
工事又は製造 | 500万円 | − | 予算決算及び会計令第94条第1号 |
財産購入 | 300万円 | − | 予算決算及び会計令第94条第2号 |
物件借入 | 160万円 | − | 予算決算及び会計令第94条第3号 |
財産売払 | 100万円 | − | 予算決算及び会計令第94条第4号 |
物件貸付 | 50万円 | − | 予算決算及び会計令第94条第5号 |
それ以外 | 200万円 | − | 予算決算及び会計令第99条第6号 |
ただし、WTO政府調達協定を履行するため、一定金額以上は、無条件に一般競争入札とする必要がある。また、際限なき拡大解釈を防止するため、指名競争の限度額を定めている場合もあるが、それらは各省庁の独自基準に過ぎない。2005年に発覚した橋梁談合事件を受け、各省庁の独自基準についても、限度額が引き下げられている。
指名競争入札には、様々な種類があるが、その詳細は表のとおり。
種類 | 名簿登録 | 事前選定 | 通知方法 | 申込 | 絞込 |
---|---|---|---|---|---|
一般競争入札 | 各省庁の規定による | 無 | 公告 | 有 | 無制限 |
公募型指名競争入札 | 必須 | 無 | 公告 | 有 | 10者程度または無制限 |
工事希望型指名競争入札 | 必須 | 有 | 個別通知 | 有 | 10者程度または無制限 |
通常指名競争入札 | 必須 | 有 | 個別通知 | 無 | 10者程度 |
随意契約(参考) | 不要 | 有 | 個別通知 | 無 | 1〜数者 |
[編集] 手続きの流れ
一般競争入札と同様に、入札の方法や審査基準等について、審査会を開いて事前に決定する。通常指名競争入札と工事希望型指名競争入札においては、客観的基準に基づいて、通常指名競争入札では10者程度、工事希望型指名競争入札20者程度、指名対象業者を選定する。
公募型指名競争入札では、一般競争入札と同様に公告を実施する。工事希望型指名競争入札や通常指名競争入札では、公告は行われない。
公告を見て応募する場合、または、通知を受けて参加を希望する場合は、一般競争入札と同様に、入札参加資格確認申請書類を提出する。
申請書の提出期限の後、一般競争入札と同様、再び、審査会を開いて入札参加資格確認申請書類を審査する。公募型指名競争入札や工事希望型指名競争入札では、指名予定業者数(10者程度)を超えていた場合には、事前に定めた審査基準に基づいて序列をつけて、指名業者を絞り込む。ただし、2002年より公募した条件さえ満たすのであればすべての業者を指名する方式も採用されるようになった。
これ以下の手続きは一般競争入札と変わらないので省略する。
[編集] VE方式
発注する工事目的物の内の一部について、発注者は「標準案」として参考として提示するにとどめ、実際どのように施工するのかの提案を応札者に求める方式。技術的な工夫の余地が大きいと考えられる工事に採用される。
公共工事の品質の確保の促進に関する法律の施行前から行われてきた方式で、もっぱら品質確保よりもコスト縮減に重きを置いた方式とされている。
技術資料に当該部分についての提案を記載させ、発注者はそれを審査する。また、審査の際には提案業者から詳細についてヒアリングなども行うことがある。なお、提案内容は標準案と比較して工事目的物の本来想定した機能・品質が損なわれないことが前提となっているため、それを満たさない提案については不採用となりうる。審査の結果、入札参加資格通知の時に併せて提案の採否を通知し、採用された業者はその提案内容に基づき積算し、不採用とされた業者は発注者提示の標準案に基づいて積算して、それぞれ入札に臨む。このまま価格競争で入札が行われる場合もあれば、提案内容に点数を付けて金額との総合評価を行う場合もある。
[編集] 低入札価格調査制度
次の場合は、次点の入札を落札として良いこととなっている(会計法第29条の6、地方自治法施行令第167条の10)。
- 契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められる
- 公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあって著しく不適当であると認められる
ただし、国の契約について、この規定を適用できるのは予定価格が1000万円以上に限られる(予算決算及び会計令第84条)。各省各庁の長は、必要に応じて、契約の内容に適合した履行がされないこととなるおそれがあると認められる場合の基準を作成する(予算決算及び会計令第85条)。契約担当官等は、この基準に該当する事例があった場合、履行可能かどうかの調査をしなければならない(予算決算及び会計令第86条)。この調査を低入札価格調査と言う。
ダンピング受注対策として低入札価格調査制度を適切に活用するよう、国の機関に対して国土交通大臣と財務大臣の連名で通達[2]され、地方自治体に対して国土交通省総合政策局長と総務省自治行政局長の連名で通達[3]されている。
[編集] 脚注
- ^ 財務省通達『契約事務の適正な執行について』(昭和53年4月1日付蔵計第875号)
- ^ 「公共工事の入札及び契約の適正化の推進について」(平成14年10月31日付国総入企第35号財計第2471号)
- ^ 「公共工事の入札及び契約の適正化の推進について」(平成14年10月31日付国総入企第36号総行行第203号)
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 公共調達の適正化について(財務省)
- 統一資格審査申請受付サイト
- 国土交通省入札情報サービス - 一般競争入札公告、入札結果が掲載されている。
- 公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針(国土交通省)
- 公共工事の入札及び契約の適正化の推進について(国土交通省)