糞虫
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スカラベの一種 Scarabaeus sp.
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センチコガネの一種 Geotrupes sp.
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糞虫(ふんちゅう)は、コウチュウ目(鞘翅目)・コガネムシ科、またはセンチコガネ科に属する昆虫のうち、おもに哺乳類の糞を餌とする一群の昆虫を指す。興味深い外見と習性を持つものが多い。
[編集] 糞虫の範囲
一般に糞虫と言われるのは、コガネムシ科に属する昆虫のなかで、糞を餌とするグループである。その大部分は、哺乳類、特に草食動物の糞を食べる。色は黒を中心とした地味なものが多いが、金属光沢があるものや、ビロードのような毛があるものなどがいる。また、ダイコクコガネやツノコガネ、エンマコガネ類などは小型ながら雄に角がある。
ファーブルが昆虫記の中でこの仲間に何度も触れ、その習性を詳しく調べたことはよく知られている。
[編集] 習性
新鮮な糞があると、匂いを嗅ぎつけてあちこちから集まってくる。多くのものはその場で糞を食べるが、地下に穴を掘り、糞を運び込むものもいる。
また、スカラベは、糞から適当な大きさの塊を切り取り、丸めると足で転がして運び去ることからフンコロガシ(糞転がし)、またはタマオシコガネ(玉押し黄金)とも呼ばれる。このとき、頭を下にして、逆立ちをするような姿勢を取り、後ろ足で糞塊を押し、前足で地面を押す。古代エジプトではその姿を太陽に見立て、神聖視していたという。
また、多くの種が子供のための食糧を確保する習性を持つ。センチコガネ類、エンマコガネ類は糞の下に巣穴を掘り、その中に糞を運び込み、幼虫一匹分の糞を小部屋に詰め、卵を産む。スカラベやダイコクコガネ類は、糞の下に部屋を作り、そこに運び込んだ糞を使って糞玉を作る。糞玉は初めは球形で、その上面に部屋を作り、産卵して部屋を綴じるので洋梨型か卵形になる。幼虫は糞玉内部を食い、そこで蛹になり、成虫になって出てくる。
成虫は糞玉を作り上げると出て行くものもあるが、ずっと付き添って糞玉の面倒を見るものもある。ファーブルの観察によると、ダイコクコガネの一種で、糞玉に付き添う成虫を取りのけると、数日のうちに糞玉はカビだらけになり、成虫を戻すとすぐにきれいにしたと言う。
[編集] 人間とのかかわり
糞虫は哺乳類の糞を分解する上で、重要な役割を持っている。地球上、それぞれの地域において、大型の草食哺乳類がおり、その糞を食う糞虫がいる。家畜を他地域に移植した場合、在来の糞虫では家畜の糞を処理できない場合がある。オーストラリアなどでは、そのために糞虫を持ち込んだことがある。
生態系における糞虫のもう一つの大きな役割は、種子分散である。哺乳類の糞に含まれる植物の種子は糞虫によって地中に埋められることで、発芽率が上昇する。
糞虫は形が美しいものも多く、コレクターも存在する。そういう人の家の冷蔵庫には、飼育のために糞が冷蔵保存されているという。