自動空気ブレーキ
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自動空気ブレーキ(じどうくうきぶれーき)は、鉄道車両で使用される空気ブレーキ方式の一つである。
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[編集] 概要
自動空気ブレーキとは(単に自動ブレーキともいう)、鉄道の編成各車に連なる貫通ブレーキとしてブレーキ管(BP)を用いる空気圧指令式のブレーキ方式である。無電源で制御可能であり、列車分離時に編成各車に自動的にブレーキがかかることから「自動空気ブレーキ」と命名された。従前の編成指令用の空気ブレーキは直通空気ブレーキや蒸気ブレーキや真空ブレーキだった。しかし直通ブレーキは列車分離が起こった場合に、ブレーキ力が抜け、ノンブレーキになるという欠点がある。それを改善するためにアメリカのウェスチングハウスが考えた方式であり、現在、世界の鉄道の客貨車や電車の常用ブレーキとして最も広く普及している標準的な空気ブレーキ方式である。現在、常用ブレーキとしては使われなくなった日本の電車でも、非常ブレーキには、この自動空気ブレーキの原理が用いられている。
このブレーキ方式の制御原理とは、指令圧力が低くなると逆に制御圧力が高くなるという逆比例特性の流量増幅弁、即ち、ブレーキ制御弁(単に制御弁、または三動弁、動作弁、分配弁ともいう)を用いた点にある。制御の流れは、(1)指令圧力としてブレーキ管に圧縮空気(490kPa)を常時加圧する。(2)ブレーキ時にブレーキ管圧力を減圧する。(3)ブレーキ制御弁を介し、制御対象であるブレーキシリンダに対して圧縮空気を込める、というものである。ブレーキ作用としては、常用ブレーキの無駄時間短縮用に急ブレーキ作用、非常ブレーキ用に急動作用がある。
このブレーキ方式に用いる主な構成部品として、ブレーキ制御弁がある。
その多くは自動空気ブレーキそのものの発明者であるジョージ・ウェスティングハウスが興したアメリカ・ウェスティングハウス・エアブレーキ社(Westinghouse Air Brake Co.:WH社、あるいはWABCOとも。現Wabtec社)の手によって開発されたものであり、客車用のP弁、貨車用のK弁を出発点として、電車用のM弁、客車・電車の長大編成・高速化に対応したU自在弁などが同社の手で生み出され、これらは真空ブレーキに長く固執したイギリスを除く世界各国に広く普及した。
なお、電車用については、AMUブレーキなどの形式名で呼ばれることがあるが、この場合は「Automatic air brake / Motor car / type U universal valve(電動車用U自在弁自動空気ブレーキ)」の接頭語となり、「M」は電動車を示し、制御車の場合はControl carから「C」に、付随車の場合はTrailer carから「T」にそれぞれ置き換えられるほか、使用弁の種類によって末尾の「U」が「M」や「F」、あるいは「A」など[1]に変化する。
WH社以外の手によるブレーキ制御弁としては、M弁の簡易性とU弁の高性能を折衷して日本で開発されたA弁や、M弁対抗として総合電機企業としてのウェスティングハウスのライバルであるゼネラル・エレクトリック社が開発したJ弁[2]などが存在する。
従前の二圧力式制御弁の場合、主要部品として、貨車用のK制御弁や旅客車用のA制御弁、常用ブレーキ用に補助空気だめ、その後、非常ブレーキで併用するための付加空気だめが設けられ、配管や空気ダメが増加した。この種の制御弁では、繰返しブレーキで込め不足による保安度低下や滑り弁の固渋による故障といった課題を抱えている。気動車のブレーキ事故の多くもこの種の二圧力式制御弁に集中している。
そこで、現在では、三圧力式制御弁という現代的な自動空気ブレーキ方式が普及している。この方式は、信頼性や保安度が高く、ダイヤフラム弁で省保守、低コスト、階段ブレーキや階段緩めが可能、といった特徴がある。この現代的な自動空気ブレーキ方式の構成部品には、三圧力式制御弁として代表的なE制御弁、基準圧力用の定圧空気だめ、常用ブレーキと非常ブレーキとに併用できる供給空気だめ、これに空気源の元空気だめがある。
E制御弁を搭載する車両は、例えば201系電車(JR東日本)、キハ54形気動車、キハ183系~185系特急形気動車(JR北海道、JR四国、JR九州)、コキ100系貨車(JR貨物)などがあり、その数は数千両に達する。
また、電磁自動空気ブレーキ方式とは、編成各車のブレーキ応答の向上と均等のため、空気圧指令式の自動空気ブレーキに電磁弁指令を併用した方法である。電磁直通ブレーキと異なり、ブレーキ系統を重複させずに済むこと(電磁直通ブレーキは編成分断・電源遮断時を考慮して自動ブレーキなどを保安装置として併設する必要がある)、従来の自動ブレーキ車とも併結可能なことから、電磁直通ブレーキが一般化した後も、一部私鉄の電車で近年まで採用され続けた。また、国鉄でも気動車はこれを採用している。
さらに現在の電車では、ブレーキの制御をすべて電気的な信号により行う電気指令式ブレーキが一般的である。また、ほとんどの車両で非常ブレーキの回路には自動空気ブレーキの原理が使用されている。
[編集] 自動ブレーキ弁
機関車において自動ブレーキを制御するためには、運転席にある自動ブレーキ弁(自弁)を使用する。自弁には「緩め」「運転」「保ち」「重なり」「常用ブレーキ」「非常ブレーキ」の各位置があり、運転士がこの位置を変えることでブレーキを取り扱う。
[編集] 緩め
元空気ダメの圧縮空気(主に890kPa)を直接ブレーキ管に込める位置である。列車のブレーキを急速に緩める時やブレーキ管の貫通確認に使用する。
[編集] 運転
ブレーキ管に圧縮空気(490kPa)を込める位置である。運転中は常にこの位置に自弁を置き、牽引車両に圧縮空気を込めている。機関車のブレーキが緩むのは自弁が「運転」位置であることに加え、単弁(単独ブレーキ弁)も「運転」位置であることが必要である。
[編集] 保ち
機関車のブレーキを保ったままブレーキ管に圧縮空気を込めて牽引車両のブレーキを緩める位置である。下り坂において機関車のブレーキを残して速度を押さえながら走行する時や、ブレーキ緩解時の衝動を無くすために使用される。
[編集] 重なり
ブレーキ管の圧力を保持するための位置である。ブレーキ管の減圧も増圧も行わない。「常用ブレーキ」位置により減圧後、この位置に置く。車両間のブレーキ管のつなぎ目からわずかに空気がもれるため、実際には少しずつブレーキが強くなる。これを防ぐ為の方法として補給制動がある。
[編集] 常用ブレーキ
ブレーキ管の圧力を大気に排出し、牽引車両にブレーキを作用させる位置である。この位置に置く時間によって減圧量、すなわちブレーキ力が変わってくる。
[編集] 非常ブレーキ
ブレーキ管の圧力を急激に大気へ排出することで、牽引車両に非常ブレーキを作用させる位置である。直ちに停止しなければならない状況が発生した時に使用する。