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気動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

気動車(きどうしゃ)とは、人員・荷物もしくは貨物を積載する空間を有し、運転に必要な動力源として熱機関を搭載して自走する鉄道車両のことをいう。

日本語の「気動車」は、蒸気機関を搭載する蒸気動車に対しても、内燃機関を搭載する車両に対しても用いる。そのうち、内燃機関を動力とする車両を特に「内燃動車」と呼ぶこともある(現在ではあまり使われていない)。

現在の気動車では、一般に内燃機関の中でも熱効率と安全性に優れるディーゼルエンジンが動力として用いられている。そのため、日本では「ディーゼル動車」または「ディーゼルカー」(Diesel Car, DC) などと呼ぶことも多い。対して、欧州では動力分散方式の車両を「マルチプル ユニット」と呼ぶことから、気動車を「DMU」 (Diesel Multiple-Unit) と呼称する。

以下、特記ない限り、主に日本国内の事情に基づいて記す。

目次

[編集] 概要

[編集] 構造

何らかの熱機関を搭載し、燃料を燃焼させ、その熱エネルギーを機械的エネルギーに変換し、車輪を駆動させる。電車と同様に動力分散方式の鉄道車両に分類され、各車両の床下に内燃機関を分散配置し、それらを先頭車の運転台から一括して制御できる動力分散型総括制御方式を用いている。気動車の構造はその種類により全く異なるため、「気動車の分類」に掲載されている各記事も参照されたい。

現在営業運行に供されている気動車では、ディーゼルエンジン以外の熱機関を搭載したものは皆無である。このため、一般社会においては「気動車=ディーゼル動車」という認識になってきており、「内燃動車」「ディーゼル動車」「ディーゼルカー」などの細かい区分用語はあまり用いられなくなっている。

明治時代末期から、戦後間もない頃までは蒸気動車があったほか、大正時代から1950年代まではガソリンエンジンを動力とする「ガソリン動車」(「ガソリンカー」とも)も存在したが、いずれも経済性・安全性などの面から廃れた(日本においては禁止されている)。またガスタービンエンジンを搭載した「タービン動車」(「ターボトレイン」とも)も研究され、アメリカなどでは実用化されているが、日本では燃費の悪さと甲高い騒音、故障の頻発が嫌われ、更にオイルショックにも見舞われたため、試作車(キハ07 901キハ391-1)は製作されたが実用化されなかった。

車体は、床下に架装されるエンジンと変速機の重量・動揺に対応するため桁の強度を上げてあること、遮音、吸音に配慮されている以外は一般的な客車や電車と大きく変わるところは無い。

振り子式車両では、車体が傾斜した際、プロペラシャフトに大きなトルクがかかっていてもスムーズに伸縮できるように、一般的なスプラインではなく、ボールベアリングを数列並べた伸縮機構を持つプロペラシャフトを使っている。

主にホームの高さが低い線区で使われるため乗降口にステップを備えている車両が多いが、最近ではホームを嵩上げして、ステップをなくしたものも出てきている(JR四国1000形気動車など)。信楽高原鉄道の車両には、低床化を行なって段差をなくしているものもある。

[編集] 燃料

ディーゼル動車では軽油が用いられているが、資源量に限りがあるため今後はバイオディーゼルを使用する可能性もある。蒸気動車は蒸気機関車と同様、石炭を用いるのが一般的である。ガソリン動車は文字通りガソリンを使用する。

このほか、戦争の影響による石油の不足により石油燃料に統制がしかれていた1940年代には、ガソリンエンジンで木炭ガスや天然ガスを燃焼させた例もある。

[編集] 運用特性

直接的な運転経費では動力費や保守整備費用で電車に劣る反面、発電所変電所架線など電気系統の地上設備は不要である。輸送量が小さい路線において運用される場合、総合的に見ると経済的で環境負荷も少ない。

編成として機能する特急型を除き、気動車は多くの場合、1両毎での単独運転が可能である。多くが2両以上の車両によるユニット構成を採る電車と異なり、1両単位での編成組成が可能で、需要に応じて編成両数を柔軟に増減することも容易である。また電化設備の有無や変電所容量などに影響されず走行が可能なため運用面でも柔軟性が高い。

かつて日本国有鉄道(国鉄)の気動車は、特急形車両を除いて制御段、制御信号及びブレーキシステムが統一されており、急行用・通勤用を問わずすべて相互連結運転可能な互換設計になっていた。そのために編成中の1両1両が違う形式で組成された気動車列車も珍しくなかったし、現在でも旧型の気動車を使用した列車には、通勤用のキハ40系と急行用のキハ58系の混成編成などのように、違う形式による編成も少なくない。しかし、互換性を過度に重視したシステム構築は車両性能改善の制約にもなり、JR移行後はその傾向が弱まっている。

しかし、実際には気動車の運転免許(甲種内燃車運転免許)を有する乗務員が必要となることや、保安設備(ATSATC)の互換性などから、営業用の気動車が通常運行されていない区間に臨時列車として入線することは少なくなっている。

そのほか、直流電化交流電化の境界付近にある村上駅酒田駅でも、普通列車は製造コストのかさむ交直流電車の代わりに気動車を採用している。また、現在は富山ライトレールとなった富山港線では日中の列車にワンマン運転が可能な気動車を使用していた。使用頻度の低い事業用車「East i-D」など)には電化区間と非電化区間が混在する地域では電車より採用例が多い場合もある。

[編集] 走行性能

現代の日本の気動車は、ほぼすべてがトルクコンバータを介して動力伝達する「液体式変速機」を用いており、トルクコンバータのトルク増幅機能によって低速域の牽引性能を確保すると共に、直結段での変速によって、広い速度領域でエンジン性能の有効活用を図っている。

ディーゼルエンジンの特徴として全域でフラットトルクであるため、起動時のトルク過大による空転の心配が無いことと、出力が回転数にほぼ比例して上がるため、高速域での牽引力は、同出力の直流直巻きモーターを上回ることがあげられる。

ただし内燃機関は過負荷・過回転への耐性が低く、過負荷に対する耐性が高い電気モーターではあたりまえに見られる「短時間定格」、いわゆる定格オーバーでの運転が不可能である。2段変速(トルコン+直結1段)などのようにギアリングが悪い場合にはエンジン出力を有効に使えず、登坂速度等は電車より劣ることになる。

気動車の低速域での加速度は一般に電車より高い。しかしながら、電車のモーターは右下がりのトルク特性で、起動時から同じ加速度を維持できるのに対し、気動車ではエンジン回転数が増すにつれ加速度が急激に減少するのが一般的で、そのため、上の段に変速する必要がある。

従って気動車の高性能化に際しては過大出力とも言える機関の搭載を要するが、これにはエンジン技術の他にも車両床下への搭載性、更には経済性などの制約を伴う。かつてはこれに加え、エンジン性能の有効利用を可能とする多段変速機の改良・発達が滞っていた実情もあり、日本の気動車の性能向上を大きく妨げた。

1980年代末以降、極端な予算不足もあって、何が何でも国鉄内製という悪しき前例を断ち切り、民生用高性能エンジンの採用と、電子制御の発展に伴う多段型変速機の実用化で気動車の性能改善は飛躍的に進んだが、5段変速程度では走行性能が機関出力に左右される基本的な傾向は変わらず、高出力化には車両搭載性、そして経済面での制約が依然として存在する。

[編集] 日本の気動車の略史

詳細は日本の気動車史を参照

日本の非電化鉄道路線では、1872年(明治5年)の鉄道創業から長らく蒸気機関車が牽引する客車列車を主力としていた。運転経費の低減とフリークエンシー向上に効果のある「自走式車両」の開発も試みられ、1905年に蒸気機関を搭載して自走する蒸気動車が出現したが、1910年代までに限られた両数が製造されたのみで一般化はしなかった。

その後、1920年にはガソリンエンジン動力の「ガソリンカー」が出現、列車本数頻発や運行コスト低減のメリットから1930年代には国鉄・私鉄を通じて広く普及した。ディーゼルエンジン動力の「ディーゼルカー」は日本では1928年に出現したが、エンジン技術の未発達から戦前にはほとんど普及しなかった。

ガソリンカー・ディーゼルカーの運行は第二次世界大戦中の燃料不足により一時衰退したが、1950年代以降は燃料供給の改善とディーゼルエンジン技術の発達、ガソリンカーの火災危険性に対する危惧などの理由から、ディーゼルカーが隆盛を極めることになった。

特に1953年の液体式変速機実用化は、気動車による長大編成組成を可能とし、国鉄での著しい気動車普及の原動力となった。蒸気機関車牽引列車に比して優れた居住性と走行性能を活かし、気動車による準急急行列車が出現、更に1960年には特急列車も登場した。戦後しばらくの間、国鉄線は主要幹線でも電化率が低かったこともあって、気動車は全国で広範に用いられるに至った。

1970年代までには5,000両を超える大量の気動車増備が図られ、日本国有鉄道は世界最多の気動車保有数を誇った時期もあった。しかし、同時期に主要幹線の電化が進展したことで気動車の地位は徐々に後退、一方で、極端な車両標準化施策により、気動車技術の発達も停滞した。

その後の1980年代以降、第三セクター鉄道向け軽量気動車の開発や新型エンジンの出現、電子制御式多段変速機の実用化などの技術改良から性能は大きく改善されたが、運用路線は主として地方の非電化亜幹線とローカル線に限定されるようになっている。

コスト削減のため、電気鉄道でありながら気動車を走行させるほうが安上がりと、気動車列車のみにする例も出現した。名古屋鉄道の一部路線(現在は路線廃止)、近江鉄道(現在は電車運転)、くりはら田園鉄道肥薩おれんじ鉄道といった例がある。

[編集] 現状

現在、JR各社では亜幹線・ローカル線を中心に運用され、非電化区間は気動車の独擅場である。客車列車は既に定期普通列車運用から完全撤退しており、少数の寝台列車ディーゼル機関車牽引で残存しているに過ぎない。北海道においては、道内発着の夜行列車を「気動車で寝台客車を挟み込む」といった編成で運行している。

国鉄継承の旧型車両から、JR移行後新製の車両まで、多彩な形式が存在する。なお、国鉄時代には気動車の荷物車郵便車も存在したが、JR移行後は、少数の事業用車両をのぞいてほとんどが旅客車である。

[編集] 現代の気動車・高性能化とレールバス

キハ201系は450PS のエンジンを1両に2基搭載する
キハ201系は450PS のエンジンを1両に2基搭載する
バスタイプの外観を持つレールバス(樽見鉄道ハイモ180-200)
バスタイプの外観を持つレールバス(樽見鉄道ハイモ180-200)

エンジンの高出力化と変速機の性能改善は著しく進展した。21世紀初頭の現在では、11~15リッタークラスの6気筒エンジンで定格460PS を発生する例もあり、各社が新製する2基エンジン搭載型気動車(多くは特急列車用)は電車と遜色ない走行性能水準に到達した。北海道旅客鉄道(JR北海道)の通勤形気動車キハ201系のように、電車と併結して協調運転を行う機能を備えた気動車も出現した。

車体を傾斜させることによりカーブを高速で通過できる機能を持った「振り子式車両」は、かつてはプロペラシャフトの伸縮の制約から気動車では不可能と見られていたが、1990年頃からスプラインに変わるボール式伸縮機構の採用によりその制約を克服した「振り子式気動車」が実用化された。曲線区間での高速運転を実現し、非電化幹線での大幅な高速化に寄与している。

一方、第三セクター鉄道や地方の非電化私鉄、またJR各社では、従来の国鉄型気動車よりも小型軽量で製造・運用コストの低い標準規格化車両が多く導入されている。これらについては「レールバス[1]と呼ばれることもある。富士重工業の「LE-CarLE-DC」シリーズ、新潟鐵工所の「NDC」シリーズの車両が該当したが、1980年代~1990年代にかけて製造されたバスのような外観の車両は1990年代後半以降廃れ、本来の鉄道車両的な特性へと回帰しつつある。

更に現在では、道路鉄道線路の両方を走る事が可能な、鉄道車両とバスを兼ねる車両の研究開発もJR北海道などを中心に進んでいる。これについてはデュアル・モード・ビークル (DMV) を参照のこと。

  1. ^ 西ドイツ国鉄のシーネンオムニブスにヒントを得、小規模輸送用にバスの部品を流用して昭和20~30年代に製造された、国鉄のキハ01系南部縦貫鉄道のキハ101・102形などは、日本における「レールバス」の始祖である。また、山鹿温泉鉄道ではボンネットバスに鉄輪をつけた、文字通りの「レールバス」を走らせていた。

[編集] メーカーの寡占化

かつては日本の主要な鉄道車両メーカーのほとんどが気動車製造を手がけていたが、1960年代以来大手メーカーは電車製造に重点を置くようになり、メーカーの淘汰が進んだ。1970年代以降、日本における気動車の大多数は新潟鐵工所と富士重工業の2社で製造されるようになっていた。

しかし、2002年に新潟鐵工所が経営破綻し、さらに富士重工業も鉄道車両製造事業からの実質的撤退を発表した。その後石川島播磨重工業の出資により新潟トランシス株式会社が設立され、上記2社の鉄道車両製造事業の一部を承継した。現在、新潟トランシスの国内シェアは約8割に達する。そのほか日本車輌製造などでも製造されている。

[編集] 今後の課題

昨今ではディーゼルエンジンの環境に対する悪影響(大気汚染酸性雨地球温暖化)が強く指摘され、気動車やディーゼル機関車のエンジンにも環境対策を施す例が見られるようになった。鉄道における内燃車両の排気ガス対策は自動車船舶に比べても立ち遅れており、排気ガスの十分な換気が出来ない長大トンネル地下鉄への乗り入れも出来ない。

現在はエンジンの直噴化、ユニットインジェクターやコモンレールと電子制御インジェクターの組み合わせによる超高圧、多段燃料噴射の導入、自動車用エンジンで培われた熱効率向上など機関の改良が行なわれている。また DPF 取付や尿素による排気ガス浄化、燃料のバイオディーゼルへの移行といった環境対策技術も導入されつつあり、変速、駆動系の改良も進んでいる。

さらに燃料電池の導入による気動車の代替も考えられるようになってきており、2003年に JR東日本と鉄道総合技術研究所(JR総研)が共同で試作したハイブリッド気動車はその端緒であるという指摘もある。JR東日本では、日本初の営業用のハイブリッド気動車であるキハE200形の開発も進めている。

[編集] 気動車の分類

  • 機関の種類による分類
  • 変速機による分類 (詳細は、気動車・ディーゼル機関車の動力伝達方式の項を参照されたい)
    • 流体式(液体式とも) - トルクコンバータを使用して総括制御可能とした変速方式。比較的軽量なことが特徴。戦後の日本における主流。
    • 機械式 - 自動車のマニュアル車同様に、手動・足動式操作の変速機・クラッチを用いる原始的方式。日本では1950年代前半まで主流だったが、総括制御が不可能であるため、1960年代までにほぼ廃れた。しかし、海外では近年、電子制御による機械式変速機が開発され、流体式に比べ伝達効率が高い為、普及が進みつつある。デンマークでは実用化に向けて試験的に 200 km/h 運転も行われている。
    • 電気式 - エンジン動力で発電を行い、発生電力でモーターを駆動して走行する方式。大出力向け。日本では1930年代~1950年代に若干の例が見られたのみだが、保守点検が流体式に比べて容易なため、世界的には主流とする国が多い。また、近年、蓄電池と組み合わせて、減速時に発電して充電するハイブリッド車としての開発も進みつつある。

[編集] 俗称

日本の都市圏においては電車による運行が比較的早期から発達したことから、都市圏の住民や首都圏所在のマスコミに「鉄道車両 = 電車」という意識が定着してしまっている。そのため、気動車を誤って「電車」と呼んでいる場合も多い。近年は鉄道職員が案内放送において気動車列車を電車と呼称する例さえ見られる。

一方、非電化路線沿線や客車列車が遅くまで残っていた地域(特に北海道四国)では、蒸気機関車時代からの習慣そのままに汽車、または即物的にディーゼルなどと呼ばれる。また、年輩者の間では古い発音の「ジーゼル」と呼ぶケースもある。

なお、浅田次郎の小説・映画「鉄道員(ぽっぽや)」での台詞にある「キハ」は称号であるが、これは実際の鉄道員の言葉としても一般的ではない。

[編集] 列車番号

国鉄および JR各社では、気動車列車の列車番号は原則として末尾に D(ディーゼル)が付けられる。

[編集] 関連項目

他の言語
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