自衛隊生徒
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自衛隊生徒(じえいたいせいと)とは、自衛隊において、専ら教育訓練のみを受ける曹予定者のことである(自衛隊法施行規則(昭和29年総理府令第40号)第24条第2項参照)。若年時から教育を施して、技術部門における中堅となる曹を養成するための制度である。「少年自衛官」の俗称もある。従来の自衛隊生徒はそれぞれ三等陸士、三等海士、三等空士の階級に指定され、学年とともに昇任していった。なお、自衛隊生徒は平成19年度をもって海・空自生徒募集が打ち切られ、陸自は平成20年度末に防衛大学校の高校生版のような学校改変が決定した。それまで少年工科学校は陸自生徒の募集を続ける。
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[編集] 沿革
1955年(昭和30年)4月に、陸上自衛隊で生徒教育制度が設けられ、1955年4月7日に要員区分に応じて、施設学校・通信学校・武器学校の各生徒教育隊へ合計140名が3等陸士として入隊した。1959年(昭和34年)4月に課程を修了して120名が3等陸曹に任じられた。1959年(昭和34年)8月15日に生徒教育隊(武山駐屯地)に集約され、更に1963年(昭和38年)8月15日以降は少年工科学校で前期教育が行われるようになる。
陸上自衛隊生徒は1961年(昭和36年)4月採用の第7期生から、神奈川県立湘南高等学校通信制過程卒業資格を取得できることとなった(授業料は給料から差引となる)。
隊紙「朝雲」によると、平成20年度末生徒制度改編が確定し、3等陸士、3等海士、3等空士は廃止されることになった。生徒制度は技術曹の一部門として残るが、自衛官ではなく防衛大学校のような学生となることが決まっている。校名変更は「防衛工科学校」が有力になっている。
[編集] 概要
[編集] 制度の特色
自衛隊生徒は、中学校卒業者から採用される非任期制隊員で、3等陸・海・空士に採用される。任用権者はそれぞれ、陸上幕僚長、地方総監(第1術科学校が呉地方隊の区域にあるので実際には呉地方総監のみ)又は航空幕僚長である。
4年間の課程修了時に3等陸・海・空曹に昇任すると共に、高等学校卒業資格を得ることができる(陸自生徒は少年工科学校卒業時に高卒となる)。一部の者は本人の努力により防衛大学校へ進むことも可能である。一時期は「生徒枠」といわれる推薦枠が存在。
なお、自衛隊生徒は男子のみを対象とした制度である。2005年現在、自衛官・防衛大学校学生等の採用区分において性別による受験資格制限があるのは、自衛隊生徒のみである。これは女子の受け入れ設備が整備されていない事に一因を発する。年齢制限により、高等学校卒業者は採用されることはなく、中学校卒業者のみによって構成されるものである。
自衛隊生徒出身者が従事する業務の種類は次の通りである。課程では技術部門の教育に力が入れられ、主に技術部門の幹部となる者が多い。
[編集] 昇任
採用後、概ね次の年数で昇任する。
- 採用時:3士(3等陸士・3等海士・3等空士)
- 1年6月:2士(2等陸士・2等海士・2等空士)
- 2年:1士(1等陸士・1等海士・1等空士)
- 3年:士長(陸士長・海士長・空士長)
- 4年(修了時):3曹(3等陸曹・3等海曹・3等空曹)
[編集] 補職
補職は次の通りである。
- 陸上自衛隊:少年工科学校(神奈川県立湘南高等学校通信制と技能連携)。陸上自衛隊の場合、前期教育は少年工科学校で、中期教育は要員区分に応じて富士学校・高射学校・航空学校・通信学校・武器学校・施設学校で、後期教育は各部隊で部隊実習の形で行われる。
- 海上自衛隊:第1術科学校付(広島県立西高等学校通信制と技能連携)
- 航空自衛隊:航空教育隊生徒隊(私立科学技術学園高等学校通信制と技能連携)
なお、海上自衛隊では一時期、生徒教育のために、少年術科学校を設けていた(少年術科学校参照)。
[編集] 服制
一般の自衛官の制服については、「軍服」を参照。
- 陸・海・空生徒問わず、曹候補者徽章を着用する。
- 陸上自衛隊生徒:一般の陸士と同様の制服を着用する。但し、ネクタイはえんじ色。
- 海上自衛隊生徒:一般の隊員とは別箇の制服を着用する。制服は濃紺色又は白色で、短ジャケット型長袖詰襟とし、内側にカラー留めボタン5個をつけ、前面中央に錨の浮き彫りを施した金色のボタン7個を一行につける。ズボンは、淡灰色のズボン吊り付き長ズボンとして、両脇に各1個の隠しポケットをつけ、裾口はシングルとする。甲階級章のV字形線及び桜花の色は金色とする(一般の海士は赤色)。また、冬服上衣、冬服ズボン、第一種夏服上衣、第一種夏服ズボン及び階級章に係るものを除き、海曹と同じものを着用する。ここには、帝国海軍の海軍飛行予科練習生の制服の影響が強く見られる(軍服 (大日本帝国海軍)参照)。
- 航空自衛隊生徒:冬服上衣の肩章の縁、冬服上衣の袖について両そでの下部及び正帽の天井の周縁に各々銀色の線をつける。
[編集] 3士制度
自衛隊法上は、3等陸・海・空士の階級に指定される自衛官を自衛隊生徒に限定はしておらず、同法第36条第1項は3等陸・海・空士を含めて任期の定めを置いている。もっとも、3等陸・海・空士の階級は自衛隊生徒に採用された者の階級としてのみ運用されており、一般隊員として入隊した者には2等陸・海・空士の階級が指定されている。また、自衛隊生徒の任用等に関する訓令第2条により、自衛隊生徒については自衛隊法第36条第1項の適用が排除され、非任期制隊員となっている。
[編集] 関連法令
- 自衛隊法施行規則(昭和29年総理府令第40号) 第24条第2項
- 自衛隊生徒の任用等に関する訓令(昭和30年8月15日防衛庁訓令)
[編集] 出身の著名人
- 小川和久 - 国際政治学者・軍事アナリスト(陸上自衛隊生徒第7期)
- 折口雅博 - グッドウィル・グループ代表取締役会長兼CEO(陸上自衛隊生徒)
- 神浦元彰 - 軍事ジャーナリスト(陸上自衛隊生徒中退)
- 武論尊(史村翔) - 漫画原作者(航空自衛隊生徒第9期)
- 本宮ひろ志 - 漫画家(航空自衛隊生徒第9期中退)
- 三淵啓自 - デジタルハリウッド大学教授
(陸上自衛隊生徒⇒防衛大学校に進学、スタンフォード大学院にて博士号取得後、米オムロン研究員を得て、現職)
- 柴岡 三千夫 - 学校法人タイケン学園理事長
- 筒井信雄 - 西宮市市議会議員
(陸上自衛隊少年工科学校⇒大阪大学工学部⇒アンダーセンコンサルティングを経て現職)
- 池野成雄 - 株式会社バンガードシステムズ代表取締役社長
- 吉田敬三 - 写真家、オリンパスギャラリー
- 中村ケイジ - 作家 歴史群像大賞奨励賞受賞(陸上自衛隊生徒卒業後に大阪工大進学、のちに作家として活躍)
- 若宮清 - ジャーナリスト 早稲田大学社会システム工学研究所客員研究員
(ジャーナリスト。早稲田大学社会システム工学研究所客員研究員。兵庫県生まれ。少年工科学校卒業後、早稲田大学文学部入学。東海大学(台湾)入学・卒業。エジプト国立カイロ大学留学。早稲田大学大隈記念大学院公共経営研究科卒業。中国、台湾、フィリピン、韓国など、アジア諸国に太い人脈を持ち、その幅広い知見からの報道・著作を手がける。また、北朝鮮拉致被害者家族帰還の足がかりになった北京会談を設営した人物でもある。 『中国人の99.99%は日本が嫌い』(ブックマン社)『真相―北朝鮮拉致被害者の子供たちはいかにして日本に帰還したか』(飛鳥新社) )
- 畑 満秀 - バルセロナ・アトランタ・シドニー・アテネ五輪カヌー日本代表監督 日本ウェルネス専門学校長
(1948年福井県生まれ。陸上自衛隊少年工科学校、大正大学卒業 カヌー選手としてミュンヘン・モントリオール五輪、世界選手権に出場、日本体育協会公認カヌーA級コーチ)
- 太田 龍 - 宮崎県現職市議会議員
- 犬伏秀一 - 航空自衛隊生徒18期出身、現在東京都大田区議会議員
- 安部隆志 - 陸将補・西部方面総監部幕僚長、少年工科学校卒⇒防衛大卒⇒現職
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 自衛隊生徒(防衛省公式ページ)
- 陸上自衛隊少年工科学校(公式ページ)
- 海上自衛隊第1術科学校(公式ページ)
- 航空自衛隊航空教育隊生徒隊(公式ページ)
- 逸見勝亮「自衛隊生徒の発足-1955 年の少年兵」