錯体
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錯体(さくたい、complex)、もしくは錯塩(さくえん、complex salt)、とは、配位結合や水素結合によって形成された分子性化合物の総称である。狭義には、金属原子を中心として、周囲に配位子が結合した構造を持つ化合物(金属錯体)を指す。ヘモグロビンやクロロフィルなど生理的に重要な金属キレート化合物も錯体である。また、中心金属と酸化数と配位子の電荷が打ち消しあっていないイオン性の錯体は錯イオンと呼ばれる。
金属錯体は、有機化合物・無機化合物のどちらとも異なる多くの特徴的性質を示すため、現在でも非常にさかんな研究が行われている物質群である。
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[編集] 名前について
錯体とは「複雑な化合物」というニュアンスで命名された。錯化合物や配位化合物などといった呼び方もあるが、最近はあまり使われていない。英語で単にcomplexといった場合は、あくまで錯基を問題にするケースが多く、この場合の訳語は錯体である。一方、化合物として扱うニュアンスが強い場合は、錯塩と呼ぶことが一般的らしい。
[編集] 性質
よく研究されるのは、光(吸光・発光)、電気、磁気、触媒などの特性である。近年ではこれらの性質を複合した機能錯体(例えば、光電子移動・光磁性制御・電気化学触媒など)の研究も盛んである。
[編集] 構造的特性
金属錯体の中心原子は、2から12程度までの多様な配位数をとる。特に、配位数4の際にとる四面体型錯体や、配位数6の際の八面体型錯体の例など、高い対称性を示すことが多い。
[編集] 分光学的特性
多くの金属錯体は特有の美しい色を持つ。これは金属原子のd軌道が配位によって分裂し、このエネルギー差が可視光領域の光エネルギーと一致するためである(詳しくは結晶場理論および配位子場理論を参照)。またこの色は金属の価数や配位環境を反映して様々な色に変化する。
ある種の金属錯体は、配位環境によって、光学活性体となり、キラルな化合物となる。
[編集] 構造
錯体は特有の色を持つことが多いため、反応の進行はUV-Vis スペクトルで確認することが多い。厳密な錯体の構造決定は通常X線構造解析によって行われる。また、必要に応じて赤外分光法 (IR) や核磁気共鳴 (NMR)、電子スピン共鳴 (ESR) なども利用される。
[編集] 機能
有機化学の分野で錯体は化学反応を制御または促進させる触媒として非常によく用いられている。また、生体中に存在する酵素の活性中心にはアミノ酸に取り囲まれた金属錯体が存在し、重要な役割を果たしている(赤血球中のヘモグロビンなど)。またシスプラチンはDNAに強く配位することによって抗癌剤として作用する。
色素増感型の太陽電池における光吸収層、すなわち色素として、ルテニウムのビピリジン錯体(またはその誘導体)が主に用いられている。
[編集] 合成
多くの場合、金属塩と配位子から新しい錯体を合成する。中心金属は典型金属・遷移金属を問わずあらゆる種類が用いられる。配位子も多様なものが用いられるが、特にポルフィリンを用いた例が極めて多い。
[編集] 新しい錯体
古典的な錯体とは若干異なる、超分子と呼ばれる物質群がナノテクノロジーの材料のひとつとして注目されている。
[編集] 主な錯体
- アンミン錯体 - テトラアンミン銅錯体
- [Cu(NH3)4]2+
- シアノ錯体 - ヘキサシアノ鉄錯体
- [ Fe(CN)6]4−
- [Fe(CN)6]3−
- ハロゲノ錯体 - テトラクロロ鉄錯体
- [FeCl4]−
- ヒドロキシ錯体 - アルミン酸
- [Al(OH)4]− (または [Al(OH)4(H2O)2]−)
[編集] 関連項目
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