防災無線
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
防災無線(ぼうさいむせん)は、人命に関わる通信を確保するために整備された専用の無線通信システムである。公衆通信網の途絶・商用電源の停電の場合にも使用可能なように整備されている。今後、日本の防災無線は有事や大規模災害に備え、防災無線のデジタル化を推進し、全国瞬時警報システムとして整備されることになる。
目次 |
[編集] 防災無線の系統と目的
[編集] 市町村防災行政無線
市町村防災行政無線は、市町村が整備するものである。
- 移動系 : 防災情報を収集するため自動車へ搭載・持ち運び可能な移動局と役場などの基地局とで通信するもの。普段は一般行政事務の連絡に使用されている。
- 同報系 : 屋外スピーカー・地域によっては戸別受信機で、住民に対して防災情報を周知するもの。普段は住民に対しての広報にも使用可能である。
- テレメーター系 : 観測点と指令所を結び、降水量・河川の水位測定などのデータを収集するために使用するもの。
[編集] 都道府県防災行政無線
都道府県防災行政無線は、都道府県庁と市町村役場・県出先機関・防災関係機関との間を結ぶものである。車両搭載用及び携帯用の移動系、各施設に端末として設置される固定系、河川管理に使用されるテレメーター系がある。
[編集] 地域衛星通信ネットワーク
地域衛星通信ネットワークは、全国の地方公共団体と防災関係機関とを衛星通信(スーパーバードB)で相互に結ぶものである。地上系無線の障害・回線不足に備え、また、都道府県防災行政無線の一機能として整備されている。
[編集] 消防防災無線
消防防災無線は、総務省消防庁と全都道府県とを結ぶものである。電話・ファクシミリによる相互通信・消防庁からの一斉指令が行われている。
[編集] 中央防災無線
中央防災無線は、内閣府・中央省庁26機関・指定公共機関(NTT・NHK・電力会社等49機関)・防災関係機関(東京災害医療センター等9機関)を結ぶものである。
[編集] 地域防災無線
地域防災無線は、病院・学校・電気・ガス等の民間の生活関連機関と地方公共団体の防災関連機関との直接の通信を確保することを目的とした移動無線通信である。交通や他の通信手段の途絶した場合に備えて整備されている。
[編集] 防災相互通信用無線
防災相互通信用無線は、消防・警察・海上保安庁などの間で災害現場で直接交信し情報交換・作業打ち合わせを行い、円滑に防災活動を行うための移動無線通信である。
1974年の水島臨海石油コンビナートにおける石油流出事故で、対策に当たった諸機関が相互に連絡を取れず混乱した事を教訓に設置が開始された。
[編集] 防災無線のデジタル化
2002年より、電波の有効利用のための防災無線のデジタル化が開始された。
次のような多機能化が可能である。
- 複数チャネル化 : 時分割多重化により複数局の同時使用、時分割複信での運用で基地局よりの一斉指令中も端末局からの緊急通報が可能。
- データ通信 : 簡易動画・静止画像による遠隔監視、ファクシミリ・文字情報の通信も可能。
- 衛星測位システム : GPS(グローバル・ポジショニング・システム)により、撮影時刻及び位置を自動記録した静止画像を送信可能。
次のような問題点も指摘されてる。
- 各自治体が巨額の財政赤字に苦しむ中で多額の費用がかかるため、期限までに整備が完了しない恐れがある。
- 使用可能なアナログ方式の設備を破棄しなければならない。(業務用無線機としては新しいものが多い)
- 面積が広い又は山間部の市町村では、周波数帯の変更により基地局の増設が必要となる。
- 移動系無線機の大重量化を招き、機動性の低下をきたす恐れがある。
- 伝送速度:32kbps以上は現在の技術では伝送速度が遅すぎて現実には使い物にならない。
[編集] デジタル地域防災無線
- 使用周波数帯 : 260MHz帯
- 伝送速度 : 32kbps以上
- 変調方式 : π/4シフトQPSK
- アクセス方式 : 時分割多元接続(TDMA)
- 通信方式
- 基地局-移動局:周波数分割複信(FDD)
- 移動局-移動局:時分割複信(TDD)
- 搬送波周波数間隔 : 25kHz
- 多重数 : 4多重
[編集] デジタル同報系防災無線
- 使用周波数帯 : 60MHz帯 (54~70MHz)
- 通信方式 : 時分割多重・時分割多元接続・時分割複信
- 変調方式 : 16値直交振幅変調(QAM)
- 空中線電力 : 10W以下