除斥期間
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除斥期間(じょせききかん)とは、法律関係を速やかに確定させるため、一定期間の経過によって権利を消滅させる制度。民法に規定はなく、解釈によって認められている。消滅時効と効果が似ているが、上記制度趣旨から、中断は認められず(ただし異論が強い)、援用されずとも裁判所の職権によって権利消滅を判断できるという差異が認められている。また除斥期間は権利発生時から進行し(消滅時効は権利行使が可能となった時点)、遡及効果も認められない。
単に除斥(じょせき)と言う事もあるが、法律用語としての除斥は、一定の要件を有し手続の公正さを失わせる恐れのある者を、その手続における職務執行から当然に排除することを指すため、本項とは意味が異なっている。
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[編集] 判決例が認めた除斥期間の例
- 不法行為に基づく損害賠償請求権に関する20年の期間制限
- 1989年12月21日 最高裁第一小法廷判決、民集43巻12号2209頁
[編集] 除斥期間の進行の停止を認めた判例
- 1998年6月12日最高裁第二小法廷判決、民集52巻4号1087ページ
- 不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する前六箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から六箇月内に右不法行為による損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法一五八条の法意に照らし、同法七二四条後段の効果は生じない。
[編集] 除斥期間の起算点をずらした判例
- 2004年4月27日最高裁第三小法廷判決、民集58巻4号1032頁 三井鉱山じん肺訴訟
- 民法724条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から進行する。
- 2004年10月15日最高裁第二小法廷判決、民集58巻7号1882頁 関西水俣病訴訟
- 水俣病による健康被害につき,患者が水俣湾周辺地域から転居した時点が加害行為の終了時であること,水俣病患者の中には潜伏期間のあるいわゆる遅発性水俣病が存在すること,遅発性水俣病の患者においては水俣病の原因となる魚介類の摂取を中止してから4年以内にその症状が客観的に現れることなど判示の事情の下では,上記転居から4年を経過した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点
- 2006年6月16日最高裁第二小法廷判決、民集60巻5号1997頁 北海道B型肝炎訴訟
- 乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染しB型肝炎を発症したことによる損害につきB型肝炎を発症した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となるとされた事例
[編集] 制度としての除斥期間の問題点
除斥期間とは、民法はもとより、その他の法律にも、明文規定の存在しない制度である。すなわち、あくまで概念的解釈によって認定された制度である。このため、除斥を時効と同等に扱うか否かでは、各裁判所によって判断が分かれているのが現状である(裁判所の職権及び解釈によって権利の有無が判断されるため)。また、除斥期間を明文化して民法に盛り込み、除斥の正当性を求める声もあるが、この場合、時効との兼ね合いが発生し二重基準になるため、時効の正当性が失われる、という問題点も存在している。