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ADHD - Wikipedia

ADHD

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。

ADHDは多動性、不注意、衝動性を症状の特徴とする発達障害の一つと言われているが、DSM-IV-TRでは行動障害に分類されている。じっとしている等の社会的ルールが増加する小学校入学前後に発見される場合が多いが、発症は生まれつきであるとされている。DSM-IV-TRによる正式名は注意欠陥・多動性障害 (AD/HD: Attention Deficit / Hyperactivity Disorder) 。

目次

[編集] 概要

注意力を維持しにくい、時間感覚がずれている、[1]様々な情報をまとめることが苦手などの特徴がある。日常生活に大きな支障をもたらすが適切な治療と環境を整えることよって症状を緩和することも可能である。脳障害の側面が強いとされしつけや本人の努力だけで症状などに対処するのは困難であることが多い。診断は多くの精神疾患と同様に問診等で行われADHDに特化した生物学的マーカーや心理アセスメントは開発中であり一般的でない。DSM-IV-TRでは症状に従い、以下の3種に下位分類がされる。

  • 多動性・衝動性優勢型
  • 混合型
  • 不注意優勢型 (ADD)

一般にADHDとして扱われるADDは、多動性が少ない不注意優勢型である場合が多い。子供ではICD-10による多動性障害(たどうせいしょうがい、Hyperkinetic Disorders F90)の診断名がひんぱんに適用される。 学童期までの発症率は1-6%で男子の方が女子よりも高い。[2][3]

[編集] 症状

集中困難・過活動・不注意などの症状が通常7歳までに確認されるが、過活動が顕著でない不注意優勢型の場合、幼少期には周囲が気付かない場合も多い。

ADHDを持つ子供は飽き易くすぐに新奇な刺激を求める傾向にある。 ADHDを持つ子供は、重要なこととそうでないことの区別をすることは出来、一時的には正常に機能できる。しかし識別する力が健常の子供よりも早く尽きてしまい、無視するべき刺激にすぐ反応してしまい、新しいものや面白そうなものに見境なく飛びついてしまう時がある。正常な子供はおもちゃを観察したり意見を述べたりしながら一つのおもちゃで長く遊ぶが、ADHDを持つ子供はすぐに他のおもちゃを手に取る傾向がある。

更に、何かの作業が中断されると、元に戻るのに正常な子供の何倍もの時間がかかるか、(また別の)次の対象に関心を移してしまう。

[編集] 楽しいことをしている時でもミスが多い

世間ではADHDを持つこどもは好きなことは上手いといわれるが、実際にビデオゲームで実験してみると興味を持っているものには熱中しつつも衝動的でミスをすることが多く、友人と泣いたり喧嘩したりする傾向がある。そのためひとりで遊ぶことを好む傾向にある。

正常な子供でもつまらない作業時には能率が落ちるがADHDの子供はそれに加えて新しい物に飛びつきたい衝動を抑えることが出来ずミスを普通よりも遥かに多く起こす。以上のことから何かに熱中していても飽きていても他の子供から浮いて見えることが多い。

[4] 年齢が上がるにつれて見かけ上の「多動」は減少するため、以前は子供だけの病気で成人にはないとされていたが、近年は成人の症例も報告されている。遺伝的な形質であるため症状は育て方や本人の努力で完治することはないともされている。ただ、子供のADHDでさえ曖昧な点も多く、日常生活に支障をきたす精神的な特性を何でもかんでも障害に含めるべきではないとする意見も存在し、成人にADHDを認めるべきかどうかは医師によって考え方がまちまちである。

[編集] 独自の時間感覚

予期、予想、計画等には時間感覚の使用が不可欠だが、この時間感覚は7-8歳頃に特に発達する。例えば健常者は前からボールが飛んで来た時、そのコースを大まかに予想し対処する計画を立てるがADHDを持つ者の中にはボールがすぐ前に来た時に急に対処しようとすることが多い。この場合「普通」のヒトは「傍を通り過ぎるボール」を無視して作業を続行するが、ADHDを持つヒトは「突然現れた」ボールに対処しようとするので気が散っているように見える。[5]

[編集] 成人のADHD

ADHDを持つ児童のうち3分の1から3分の2が症状を残したまま成人するが、[6]成人では見かけの多動が減る傾向があることと成人のADHDへの理解が少ないことから診断と治療が行われないことが多い。

成人においては、時間が守れない、物の整理や情報の管理ができない、大切なことを忘れる、見通しをつけるのが苦手で、衝動的に行動してしまう、注意力を持続することができない等、日常生活をきちんとこなす能力に欠陥が現れるとされる。先延ばしも問題になる場合が多い。本人が努力しようとしている場合でも、人と同じように行動できないことが多く、周囲の理解や本人自身の理解もないことが原因で、劣等感からうつ病不安障害などの二次障害を生じる危険性が高い。ただし、基本的な障害をかかえた上での社会適応は環境に依存する。またこれら欠点を持つことと同時に、優れたアイデアを思い付く能力や、興味のある対象に対する強い集中力、大胆な行動力を示す場合もあることも知られており、これらの能力を積極的に生かすことで社会的に成功している人もいる。向いている職業は、エンターテイナー及びその他芸能関係、企画、さらには、内科医や精神科医など。

うつ病PTSDアスペルガー症候群でも類似の症状を呈する場合もあり、正式にはADHDに理解の深い医師により診断される必要がある。

[編集] 原因

遺伝的な要素が指摘され、一卵性双生児ではきわめて高い頻度で一致し、血縁者に共通してみられることも多い。 下記の形質的特徴の結果ワーキングメモリーに機能阻害がみられることが障害の本質であるとの見解が有力視されている。[7]

[編集] ADHD の神経基盤

健康な前頭前野は行動を注意深く選定し大脳基底核(basal ganglia)は衝動性を押さえる働きを持つがADHDのケースではそれがうまく作動していない。

[編集] 視床および大脳皮質をコントロールする回路と多動性・独自の時間感覚

大脳皮質運動関連領野と大脳基底核を繋ぐ運動系ループ回路の異常とADHDについて大まかにまとめる。 健常者の場合大脳皮質が何かをしようと計画した場合あらかじめ(大脳)基底核の領域のうち使う必要のある場所よりややや広範囲にシグナルを送りその部分を抑制、後改めてシグナルを送り物事を実行する。この場合必要ない脳の領域(基底核内)は抑制されている為衝動は制御される。ADHD患者の脳ではこの仕組みが機能していない。また抑制と実行のシグナルのギャップが運動に於けるタイミングにも関与している。これについては良く分かっていないがADHDを持つ人間の独自の時間感覚との関わりも指摘されている。遺伝子COMTは実行機能と関わっている為関与が指摘されている。[8]

[編集] 海馬・学習・短期記憶と衝動性

海馬(hippocampus)は学習と記憶に関わっているが、その肥大は短期記憶の不全を起こし、衝動性と新奇刺激を求める行動に関わっている。遺伝子DAT1は衝動性、短期記憶(ワーキングメモリー)、感情やモチベーションのコントロールと関わっている為、海馬の働きとDAT1には関連性が指摘されている。DRD4は新奇なことを求める性質に関わっている。

扁桃体の萎縮(もしくは生れつき小さいこと)による機能不全は、攻撃的な行動と関わっている。これは遺伝子MAOAが関与している可能性がある。[9][10][11]

[編集] 前頭前野、大脳基底核のドパミン機能異常について

  • DRD4は新奇なことを求める性質に関わっている。
  • DAT1は衝動性、短期記憶(ワーキングメモリー)、感情とモチベーションのコントロールと関わっている。これは海馬の肥大が短期記憶の不全を起こすこと、それが衝動性や新奇刺激を求める行動に関わっているということと一致する。一説には神経伝達制御物質であるドパミントランスポーター(DAT)の欠損により脳内の ドパミン量が減少し興奮や過活動が起こると考えられている。[12] ドパミントランスポーターやドパミンレセプターなどのドパミン機能関連遺伝子の対立遺伝子の型がドパミンの伝達に影響を与えるという仮説もある。[13]ドパミンの他ノルアドレナリンなどの不足も関連する可能性が指摘されている。
  • COMTは実行機能と関わっている。
  • MAOAは攻撃的な行動と関わっている。これは扁桃体萎縮または生れ付き小さく機能不全を起こすことと一致している。

[14][15][16]

[編集] てんかんとの関わり

ADHDを持つ児童のうち約3割が脳波異常、特にてんかんに似た脳波を記録することが確認されている。[17]

[編集] 心理・社会的要因

クライエントの年齢が若いほど、また症状が重いほど、構造化した環境の整備や明確な意味を持つ刺激(例:具体的な指示を小分けして出す)が必要になる。

ADHDを持つ児童は高いOD(行為障害)発現率を持つなどして健康な児童よりも育てにくく、それらが互いに悪循環をもたらす場合もある。[18]

[編集] 診断

DSM-IVではMRIや血液検査等の生物学的データを診断項目にしていない。

[編集] 治療法

覚醒水準を引き上げることで症状を防ごうという理由で、治療には中枢神経興奮薬が用いられる。日本では一般に、塩酸メチルフェニデート(薬剤名「リタリン」)が使用される。しかし、これらは基本的に依存性を有する覚醒剤であり、依存性が懸念されることも多い。一方で処方に従っている限り薬剤耐性はつきにくく依存の心配はないという報告もなされている。思春期以前の児童に関しての投薬も依存の危険はないとされる。

メチルフェニデートは前頭前野皮質のノルエピネフリントランスポーター(NET)に作用し細胞外ドパミンの濃度が上昇、治療効果をもたらすという仮説がある。[19]

心理療法については、行動療法を薬物療法と組み合わせた場合に最も効果がみられる。[20]また本人の症状をコントロールすることよりも本人の特性にあった環境を整えることが重要である。

日本では発達障害者支援法が制定され、以前より支援体制は整ったものの、まだまだ発達障害を専門とする医師・医療機関が少ないため、診断や治療にはかなり苦労することが多い。最近は支援団体や自助団体が各地で設立され、インターネットの普及もあいまって、情報は入手しやすくなりつつある。

[編集] 学校生活への影響

ADHDとLD(学習障害)とを同時に罹患する子供は多いが、ADHDを持つ子供が必ずしもLDを発症するわけではない。またADHDは知能の低下をもたらさない。教室で教師は生徒がADHDをもっていても他動衝動をコントロールしていれば普通の生徒として評価することが判っている。[21]

[編集] 家庭での治療

家庭では、勉強をしているとき外的刺激を減らしたり、子供の注意がそれてしまった時に適切な導きを与えてやったり、ころあいを見計らって課題を与える、褒めることを中心にして親子関係を強化するなどが挙げられる。一例として「勉強しなさい」と言うよりも机の上にその子供の注意を引きそうな本をさりげなく置いておく、新聞や科学雑誌を購読する等。

[編集] 公的支援

公的支援は立ち遅れがちであったが、ADHD患者の支援は児童福祉の側面も持つため2005年に発達障害者支援法が成立した。これにより特別支援教育等の支援策に弾みがつくことが期待されている。国会審議については[1]栃木県では「とちぎ障害者プラン21」を策定、埼玉県では「彩の国障害者プラン21」を計画、千葉県では県議会が平成13年に「日本版ADA(障害者権利法)の制定を求める意見書」を可決した。[22]しかし成人では障害者自立支援法の検討や32条見直しなどにより個人の経済的負担が増えていくものと思われる。成人支援は一部の地域で限定的に行われている。

各都道府県の精神保健福祉センターはADAD専門ではないが、無料または低額で相談・職業訓練・デイケアー・病院等の紹介等各施設独自のサービスを提供している。[23]例として東京都の[2]でADHDのケースが見受けられた。

市町村の保健所でもADHDに限らず一般的な疾病のためのサービスや病院等の紹介が受けられることもある。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

[編集] 脚注

  1. ^ Dr. Barkley's ADHD Seminar Notes at Pendulum
  2. ^ 麦島, (2006). 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて 福岡県立大学人間社会学部紀要vol. 14, No. 2, 51―63
  3. ^ National Institute of Mental Health (NIMH)
  4. ^ Taking charge of ADHD. revised. R. Barkeley. (2005)
  5. ^ Dr. Barkley's ADHD Seminar Notes at Pendulum
  6. ^ http://www.fukuoka-pu.ac.jp/kiyou/kiyo14_2/1402_Mugishima.pdf 麦島, (2006). 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて]
  7. ^ [http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=1474811 Diamond, D. (2006). Attention-deficit disorder (attention-deficit/hyperactivity disorder without hyperactivity): A neurobiologically and behaviorally distinct disorder from attention-deficit/hyperactivity disorder (with hyperactivity). Dev Psychopathol. 2005; 17(3): 807–825
  8. ^ 大脳基底核の神経回路網:大脳基底核研究会
  9. ^ Brain Changes Mirror Symptoms in ADHD
  10. ^ 麦島, (2006). 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて 福岡県立大学人間社会学部紀要vol. 14, No. 2, 51―63
  11. ^ U of Virginia Health System
  12. ^ 脳の発達障害ADHD はどこまでわかったか?
  13. ^ Dopamine genes and ADHD.
  14. ^ Brain Changes Mirror Symptoms in ADHD
  15. ^ 麦島, (2006) 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて:福岡県立大学人間社会学部紀要vol. 14, No. 2,51―63
  16. ^ Assessing the molecular genetics of attention networks Fossella1, et al.(2004).
  17. ^ http://www.fukuoka-pu.ac.jp/kiyou/kiyo14_2/1402_Mugishima.pdf 麦島, (2006). 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて]p56
  18. ^ http://www.fukuoka-pu.ac.jp/kiyou/kiyo14_2/1402_Mugishima.pdf 麦島, (2006). 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて]
  19. ^ 曽良一郎、脳の発達障害ADHD はどこまでわかったか?p5
  20. ^ http://www.fukuoka-pu.ac.jp/kiyou/kiyo14_2/1402_Mugishima.pdf 麦島, (2006). 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて] page 55
  21. ^ 麦島, (2006). 注意欠陥多動性障害(ADHD)をめぐる動向:新たな研究法の確立に向けて 福岡県立大学人間社会学部紀要vol. 14, No. 2, p54
  22. ^ http://www.yoake.biz/topics/localgavaments.html 各地の地方自治体の取り組み]:ADHD/ADDネットワーク「夜明け」
  23. ^ 全国の精神保健福祉センター

[編集] 外部リンク

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