M-3SIIロケット
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M-3SIIロケット(ミュー3エス2)は、日本の文部省宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部)が製作した3段式の固体燃料ロケット。
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[編集] 概要
M-3SIIは世界でも稀な、惑星間軌道へ探査機を投入できる全段固体燃料ロケットである。
1981年(昭和56年)に東京大学宇宙航空研究所が改組されて発足した宇宙科学研究所では、1986年(昭和61年)のハレー彗星大接近における国際共同調査を行うことを決定した。しかし、惑星間軌道に探査機を載せるには、地球の重力を離脱する速度が必要とされ、既存のM-3Sでは明らかに力不足であり、新たなロケット開発が急務であった。
1段目のみM-3Sからの流用であるが、そのほかは全て新設計された。1985年(昭和60年)にさきがけとすいせいの打ち上げに成功し、1995年(平成7年)までに8回の打ち上げが行われ、うち計7機の探査機と人工衛星を打ち上げに成功した。特にさきがけの打ち上げに際しては、当時の航空宇宙開発関係者にあった「全段固体燃料のロケットのみで、地球の重力圏を脱出することはほぼ不可能」という既成概念に対するISASの挑戦という意味合いも込められた打ち上げであった。そして打ち上げの成功により、M-3SIIは世界初の「燃焼の制御が困難である全段固体燃料ロケットによる地球重力圏の脱出」を成し遂げると共に、海外の航空宇宙開発関係者から注目されることとなる。
近年開発された大型ロケットには珍しく、海側に傾けたレールランチャーにより斜めに発射されるが、これはロケットの打ち上げに失敗した場合、いち早く海側に投げ落とすことで発射台の被害を最小限に抑えるためで、予算の少ない研究所が開発してきたロケットに共通する技術的特徴である。
1996年(平成8年)2月21日に打ち上げられたJ-IロケットにはM-3SIIが流用されている。
大型の補助ブースタ(ラムダ4Sの第一段目を改良)、第一段目・第二段目より太いハンマーヘッド型ノーズフェアリングに代表される独特の外観と、華々しい打ち上げ実績とが相まって、今でもファンが多い。
[編集] 仕様
括弧内は参考としてM-3Sのもの。
- 全長 - 27.8m(23.8m)
- 直径 - 1.41m(1.41m)
- 重量 - 61t(48.7t)
- 低軌道打ち上げ能力 - 770kg(300kg)
なお、補助ブースタの頭頂部に、キノコ状の突起が付いている。これは「さきがけ」打ち上げ直前に第一段目の能力不足が判明したため、音速突破時の衝撃波を緩和し、空力的改善により打ち上げ能力を確保するために急遽付加されたノーズコーンである。
[編集] 打ち上げ積荷
名称 | 命名前 | 打上げ年月日 | 目的 |
---|---|---|---|
さきがけ | MS-T5 | 1985年1月8日 | ハレー彗星探査機 |
すいせい | PLANET-A | 1985年8月19日 | ハレー彗星探査機 |
ぎんが | ASTRO-C | 1987年2月5日 | X線天文衛星 |
あけぼの | EXOS-D | 1989年2月22日 | 磁気圏観測衛星 |
ひてん | MUSES-A | 1990年1月24日 | 工学実験探査機 |
ようこう | SOLAR-A | 1991年8月30日 | 太陽観測衛星 |
あすか | ASTRO-D | 1993年2月20日 | X線天文衛星 |