Β酸化
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β酸化(べーたさんか)とは脂肪酸のβ位を酸化して、アシルCoA(脂肪酸アシル-補酵素A複合体)からアセチルCoAを取り出し脂肪酸アシルの炭素を2個ずつ減らし、最終産物もアセチルCoAとなる酸化経路である。動物細胞では主たる脂肪酸の酸化経路である。植物細胞においては発芽中の種子の中で主に見られる。1904年ヌープによって発見された。
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[編集] β酸化反応および酵素群
β酸化反応は以下の5段階の反応からなる。β酸化は炭素数が偶数個の脂肪酸を酸化してアセチルCoA (CH3CO-S-CoA)に分解する。炭素数が奇数個である場合には、最終産物は炭素数3個のプロピオニルCoA(CH3CH2CO-S-CoA)である。したがって炭素数に関わらずβ酸化は機能する。なお下記の反応はin vivo内では酸化方向のみに起こるが、in vitroでは可逆的である。酸化を受けるβ位は太字で示す。
- CH3(CH2CH2)nCH2CH2COOH + SH-CoA + ATP → CH3(CH2CH2)nCH2CH2CO-S-CoA + AMP + PPi
- CH3(CH2CH2)nCH2CH2CO-S-CoA + FAD → CH3(CH2CH2)nCH=CHCO-S-CoA + FADH2
- CH3(CH2CH2)nCH=CHCO-S-CoA + H2O → CH3(CH2CH2)nCHOHCH2CO-S-CoA
- CH3(CH2CH2)nCHOHCH2CO-S-CoA + NAD+ → CH3(CH2CH2)nCOCH2CO-S-CoA + NADH
- CH3(CH2CH2)nCOCH2CO-S-CoA + SH-CoA → CH3(CH2CH2)nCO-S-CoA + アセチルCoA(CH3CO-S-CoA)
5.に至ったアシルCoAは再び1.の反応に戻り、nが反応サイクルごとに1つずつ減少していく。n=0になったときがアシルCoAそのものがアセチルCoAであるため、その段階で反応がストップする。なおβ酸化酵素群といわれる、上記の反応をになう酵素は以下の通りである。
- 脂肪酸チオキナーゼ(中鎖EC6.2.1.2. 長鎖EC6.2.1.3.)
- アシルCoA脱水素酵素(EC1.3.99.3.、EC1.3.99.2.)
- エノイルCoAヒドラターゼ(EC4.2.1.17.)
- β-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(EC1.1.1.35.)
- β-ヒドロキシアシルCoAチオラーゼ(EC2.3.1.16.)
[編集] β酸化の生理学的役割
β酸化は最終産物として大量のアセチルCoAを生産するが、アセチルCoAは様々な代謝系に用いられる汎用性に富んだ物質である。アセチルCoAのになう反応には以下のようなものがある。
このうち、主要代謝系がクエン酸回路の組み込みであり、パルチミン酸(C16)1分子の完全酸化により、ATP130分子が合成される。この代謝は真核細胞ではミトコンドリア内で、原核細胞では細胞質内で行われる。脂肪酸モル辺りのATP合成量が糖などより多いことが良く理解できる(グルコースの完全酸化では38分子程度)。
なお、炭素数奇数の脂肪酸より合成されるプロピオニルCoA(C3)は脱炭酸されてアセチルCoAとなり、上記の反応系に組み込まれる。また一部はアラニン合成に使用される。
[編集] β酸化の実際
脂肪酸は細胞内では遊離の状態ではほとんど存在せず、アシルグリセロールなどエステルの形で細胞内に存在している。それらのエステルはリパーゼ(ホスホアシルグリセロールではホスホリパーゼ)によって加水分解され、脂肪酸が遊離する。
遊離した脂肪酸はアシルCoA合成酵素によってアシルCoAとなり、ミトコンドリア基質(植物の場合、グリオキシソームという細胞内小器官の場合もある)に運搬され、β酸化を受ける。ミトコンドリア内膜はアシルCoAを透過しないため、カルニチン(膜中に保持される補因子様物質、ビタミンBTといわれていたこともある)が脂肪酸アシル運搬体の役割を果たす(動植物共通)。