ねじ
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ねじ(螺子・捻子・捩子)は、円筒や円錐の面に沿って螺旋状の溝を設けたものであり、主として別個の部材の締結や、回転運動と直線運動との変換などに用いられる。溝を円筒または円錐の内面に設けたものを「めねじ」、外面に設けたものを「おねじ」と呼び、しばしば互いに組み合わされて使用される用いられる。らし(螺子)あるいはスクリューともいう。
ねじは今日ではあらゆる用途において大量に使用されているが、その多くはボルトやナット、木ねじに代表される締結用途と言えよう。その一方で、ねじは各種の機械の運動や位置決めなどで欠かせないものとなっている。
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[編集] 歴史
ねじの発祥については定かではないが、ギリシア時代には既に機械として使われていた事が知られている。 近代的なねじの製造法が確立したのは18世紀以降の事であり、イギリスのモーズレーによる旋盤を用いてのねじの精密複製技術の確立を経て、このモーズレーの弟子であったホイットワース(ウイットウォースとも)がねじの大量生産技術を確立したとされる。
日本には、1543年に種子島に漂着したポルトガル人の所有していた小銃とともにねじが伝来したとされ、それ以前にねじが使われていた証拠は発見されていない。 この種子島銃の複製のために日本で初めてねじが製作されたとするのが定説となっている。
[編集] 基本用語
ねじのつる巻き線状の稜線を成す突起を「ねじ山」、山と山の谷間を「ねじ溝」といい、山頂と谷底の間の面は「フランクfrank」と呼ばれる。 多くの場合にはねじのつる巻き線は1条であるが、複数のつる巻き線を有するねじも少ないながら製作されており、これら2条・3条といった複数のつる巻き線を持つものを総称して「多条ねじ」という。
ねじの軸を中心としてねじ山のつる巻き線に沿って一周した場合に、軸方向に進む距離を「リードlead」、隣り合うねじ山の軸方向の間隔を「ピッチpitch」といい、ピッチは一条ねじではリードに等しいが多条ねじではリードを条数で除した値となる。また、ねじ円筒の円周を底辺、リードを高さにとった直角三角形を考えた時に三角形の斜辺と底辺とがなす角を「リード角」という。この直角三角形は、ねじ円筒表面を平面上に展開した一部を切り取ったものに等しい。
ねじを軸方向に見た時、ねじのつる巻き線を右回りに辿ると遠ざかるものを「右ねじ」と言い、反対に右回りに辿ると近付く(左回りに辿ると遠ざかる)ものを「左ねじ」と言う。一般に使われるねじの大半は右ねじである。
ねじは、ねじ山の断面形状により、次のように分類される。
- 三角ねじ
- ねじ山の断面が三角形に近い形状のねじ。実際には頂部にわずかに平坦部もしくは丸みが付けられている。主として締結に使われ、最も一般的なねじ山形状である。
- 角ねじ
- ねじ山の断面が正方形に近い形状のねじで、ねじ山に強い力がかかる場合に利用される。主に動力伝達に使われ、例としてはジャッキや万力が挙げられる。
- 台形ねじ
- ねじ山の断面が台形になったねじ。角ねじよりも丈夫であり、正確な運動伝達を要する場合に用いられ、かつては旋盤等工作機械の送りねじ(親ねじ)に多用された。
- のこ歯ねじ
- ねじ山の断面が非対称形のねじで、主に軸方向に対して一方向にのみ力が働く場合に用いられる。
- 丸ねじ
- ねじ山の断面が半円形のねじで、電球の口金などに用いられる。
[編集] 製造法
ねじの製造法は、切削による方法と塑性変形によるものとに大別できる。切削法としては、旋盤による切削(チェーシング)、(切削)タップや(ねじ切り)ダイスによるねじ製造、フライス切削、研削などが知られており、塑性加工の代表としてはねじ転造が挙げられる。また、とくに高い精度を必要としない場合には型成型も行われる。
旋盤によるチェーシングは、ねじ溝の形状を有するバイトを用い、主軸の回転に対してねじのリードに等しい送りを軸と平行に与えてねじ溝を生成するもので、比較的少量の生産に用いられる。近代的なねじ製造法としては最も古に確立したもので、一般には一本のねじ溝を複数回に分けて切削する必要がある事から大量生産に向くとは言い難いが、ねじ製造には欠かす事のできない手法である。
タップやダイスによる切削は、旋盤で行われるチェーシングに似るが、複数の切れ刃で同時に切削する事により一回の手順でねじ溝を生成できる点で大きく異なっており、最も容易なねじ製作法と言えよう。タップはめねじ、ダイスはおねじの製作にそれぞれ用いられ、タップは棒状、ダイスはリング状と形状こそ大きく異なっているものの、作用は基本的に同じである。切れ刃が完全に食いつけば、その後は回転力のみで軸方向に送られ、一般には切削終了後に逆転させて取り外す。
切削法がいずれも溝を掘り下げるのに対して、ねじ転造は塑性変形により山を盛り上げてねじを生成する。おねじと比較的小径のめねじに対して用いられ、とくに転造盤によるおねじの生成は、比較的高い精度での大量生産には欠かすことのできないものとなっている。おねじの場合には、ねじ山の形状を刻んだ複数のねじ型(ダイス)で材料を強力に挟み込み、間で回転させてねじ山を生成する。一般には、「ねじ転造」はこのおねじの転造加工を指す。めねじの転造は、切削タップと同様にねじ山の形状を刻んだ棒を穴に捻じ込みねじ山を生成するが、転造用のタップは、切削用のものとはねじ溝の切刃を持たない点で異なっている。 転造ねじの表面は、圧縮により硬化し、またダイスとの接触で磨き上げられ、美しく強度の高いねじができる。
[編集] ねじ規格
ねじはその構造上、互換性が非常に重要であり、早くから規格化が進められた。その主なものを以下に示す。なお、ねじ規格において、その規定にメートル単位系を用いたものを「メートルねじ」、インチ単位系を用いたものを「インチねじ」と呼ぶ。一般にインチねじでは、ねじのピッチは「軸方向1インチあたりの山数」で表される。
- ISOメートルねじ
- 国際標準化機構ISOで規定された汎用のメートル三角ねじ。接頭記号「M」で識別される。ねじ山の角度60°。日本やヨーロッパ各国で広く使われている。JISにおいては、呼び径に対するピッチの細かさによって、標準的なピッチの「並目」と、それより細かい「細目」とに分けて規格票が作成されている。
- ユニファイねじ
- 国際標準化機構ISOで規定されたインチ三角ねじ。接尾記号「UN」で識別される。ねじ山は角度60°。汎用として、呼び径に対するピッチの細かさにより「並目」(UNC)、「細目」(UNF)、「極細目」(UNEF)が規定される他、航空宇宙機器用(UNJ)がある。日本では航空機などごく一部での採用にとどまるが、アメリカで広く一般的に使われている。JISには並目と細目のみが導入されている。
- ウィット(ウィットワース)ねじ
- イギリスで規格化された、ねじ山の角度55°のインチ三角ねじ。イギリス人ホイットワースWhitworthにより1834年に世界に先駆けて考案された。JISにおいては1965年に廃止されている。日本では主に建築分野で使用される。
- (イギリス)管用テーパねじ
- 気密性を必要とする管の接続に使われるねじ山の角度55°のインチ三角ねじで、テーパおねじとテーパまたは平行めねじの組み合わせで使用され、テーパねじにおけるテーパは。イギリスで規格化されたもので、JISにも導入され、日本でも広く使われている管用ねじである。その後ISOにより国際標準化された。ISOではテーパおねじ、テーパめねじ、平行めねじをそれぞれ接頭記号「R」「Rc」「Rp」で識別するが、JISの当該規格がISOに準拠する以前はテーパねじ(おねじ・めねじ共)を「PT」、平行めねじを「PS」とそれぞれ呼んでおり、現在でも慣用的に旧式の呼称が用いられる事がある。また、殆どの場合R・Rc・Rpと、PT・PSとは同義であるが、一部にISOには規定されていない呼び寸法がある。
- アメリカ管用ねじ
- 管の接続に使われるねじ山の角度60°のインチ三角ねじ。テーパねじと平行ねじとがあり、テーパねじにおけるテーパは。日本では一般用管用テーパねじ「NPT」や気密管用テーパねじ「NPTF」(共に接尾記号)が時折使用される。
[編集] ねじの呼び方
ねじを規定する要素には、巻きの方向、条数、ねじ溝の形状、径およびピッチとがあり、通常これらの要素を並べる事で表される。例えば「左2条、直径8㍉㍍・ピッチ1㍉㍍のISOメートル三角ねじ」「右1条、直径1/4インチ・(インチあたり)20山のユニファイ(並目)ねじ」という具合である。一般に、ねじが「右1条」である旨は省略される。規格化されたねじの場合、それぞれの規格毎に表示の仕方が定められており、それによれば先の二つの例はそれぞれ「L2N M8×1」「¼-20 UNC」となる。
ねじの径は、対応するおねじ外径の基準寸法で呼ぶのが普通である。この寸法はしばしば「呼び径」と呼ばれる。
[編集] ねじ部品
[編集] 各部の名称
おねじ部品において、ねじの先端を「先」と言い、ねじ部分とそれに続く(多くはねじと同径かそれ以下の)円筒部を合わせて「軸」と言う。軸の終端に設けられたより太い部分は「頭」と呼ばれ、頭と軸の境目を「首」という。
おねじ部品の頭やめねじ部品において、締め付けた際に荷重を受ける面を「座面」と言い、おねじ部品においては、ねじ先から座面までの部分を総じて「首下」と呼ぶ。
[編集] おねじ部品の頭部形状と工具連結部
おねじ部品の頭部形状は実に多様であり、用途などにより使い分けられている。頭部形状の主なものは以下の通りである;
- 皿
- 上面が平坦な円錐の形
- 丸皿
- 上面に丸みを持った皿形
- 平
- 背の低い円筒形
- 丸平
- 上面が丸みを帯びた平頭
- なべ
- 上面の角に丸みを付けた平頭
- 丸頭
- 半球に近い形
- バインド
- 径が大きく上面に丸みの付いた形。座面に窪みを設ける事もある。
- トラス
- 丸頭よりも大径で、背の低い形
- プレジャ
- 丸頭とトラス頭の中間的な形
- チーズ
- 側面にわずかに傾斜のついた平頭
- 六角
- 正六角柱形
- 四角
- 正四角柱形
また、おねじ部品の一端、多くは頭部頂面に、しばしば工具で回すための穴や溝が設けられている。
その主なものには「すりわり」や「十字穴」、「六角穴」がある。六角や四角といった角型の頭部はそれ自体がレンチを掛ける部分となる。
- すりわり
- 一文字の溝。板や先を平たくした棒など単純な形状の工具で容易に回す事ができる。俗に「マイナス」と呼ばれているものである。
- 十字穴
- 一般に「プラス」と呼ばれる形状のプラグをあてがうための十字型のくぼみ。最も一般的な「フィリップス(ヒリップス)形」など数種が知られている。この「フィリップス形」の名は、アメリカのフィリップス・スクリュー社が1933年にJ.P.Thompsonの発明した特許を買い取り発売したことに由来する。プラグ先端と十字穴とのくさび角の一致のために穴に押し付けると滑らなくなことから自動ねじ締め機に適合し、急速に普及した。
- 六角穴(ヘクス・ソケット)
- 断面が正六角形の棒を差し込むための穴。
- 四角穴(スクエア・ソケット)
- 断面が正方形の棒を差し込むための穴。「ロバートソン形」と呼ばれるねじ回しでは先端にわずかなテーパが付けられており、ねじ回し上でねじを水平に保持できる。カナダでは電気工事用の標準ねじとして採用されている。日本でも建築現場で筋交い固定金具用として標準化されている。
- ヘクスローブ穴
- 六角星形の穴。トルクス(TORX)やその改良版である「トルクス・プラス」(ともに商標)が知られている。専用の工具で回す。また、トルクス穴にマイナスドライバー等の差し込みを防止する突起を設ける場合があり、これは「中心ピン付きトルクス」と呼ばれる。
[編集] ねじ部品の呼称
ねじ部品には、用途や機能、形状により様々な呼称がある。
[編集] 汎用呼称
- ビス(「ねじ」の意のフランス語visから)
- 比較的小さなおねじ部品。とくにすりわりや十字穴を持つもの。
[編集] 用途による呼称
- ボルトbolt
- 一般にレンチを用いて強く締め付けられるおねじ部品。多くの場合、ねじ先にはとくに仕上げがなされない。
- 止めねじ(セットスクリュー set screw)
- ねじの先端部でものを固定・位置決めするためのおねじ部品。一般に先端部は用途に応じた形状に仕上げがされる。
- ロックナット
- おねじのねじ込まれためねじをおねじに固定するために後からねじ込まれるナットのこと。
[編集] 機能による呼称
- タッピングねじ(タッピンねじ)
- ねじ先に切れ刃形状を持ち、めねじの造成能力を備えたおねじ部品。
- ドリリングねじ(ドリリングタッピンねじ)
- ねじ先に切れ刃を持ち、ねじ穴の造成能力を備えたおねじ部品。
- ねじインサート
- めねじに挿入され、より小径のめねじとして機能するコイル状の部品。
[編集] 形状による呼称
- キャップスクリューcap screw
- 頭のついたおねじ部品。
- いもねじ
- 頭の無い全ねじのおねじ部品。多くは、一方の端にすりわり又は六角穴を持つ。主に止めねじとして使われる。
[編集] その他
- 木ねじ
- 木材に対して釘の代わりに用いられる特殊なおねじ部品。先を尖らせ、その最先端までねじ山が設けられる。無穴地もしくは錐穴に直接ねじ込まれ、対応するめねじは無い。通常、金属製。
[編集] ねじ部品の呼び方
個々のねじ部品を特定するのに必要な要素としては、「ねじの呼び」「部品形状」「材質」があり、またおねじではこれに「長さ」が加わり、これらを並べて呼ばれる。おねじ部品を呼ぶ際の長さ寸法は「呼び長さ」と呼ばれ、一般論として、頭のついたねじでは首下、頭のないねじでは全長やねじ部の長さなどが使われる。呼び長さは一般にはねじの呼び径のすぐ後に置くが、文脈上呼び長さを表す数値である事が明らかである場合には乗算記号×を用い「呼び径×呼び長さ」のように略記される。
[編集] ねじ関連部品
- 座金(ワッシャー)
- 平座金(平ワッシャー)
- ばね座金(スプリングワッシャー)
- 歯付き座金
- 球面座金
[編集] 補足事項
- ねじに限った事ではないが、円筒など円であることを示す際には、一般に直径を表す数値の前に丸に左下がりの斜線を入れた直径記号を付ける。この記号はギリシャ文字φΦ(ファイ)に見立て、しばしば「パイ」と呼ばれる。例えば「8」はメートル単位系であれば直径8mmの円を表し、日本においては「まる・8」「8㍉まる」「8パイ」などと読まれる。
- ねじに限った事ではないが、日本ではインチ単位について、慣用的に1/8インチを一単位として分・厘で呼ぶ事が多い。この場合、例えば、1/4インチは「2分」、3/16インチは「1分5厘」となる。