ウェザリング
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ウェザリング(weathering)は、模型における塗装技法のひとつ。もともとのWeatheringという語の意味は「風化」。
[編集] 概要
模型を製作する際、普通に仕上げの塗装のままでは、「塗りたて」の状態できれいすぎて実感的でない事がある。そこで、風雨にさらされた実物の外観を模した「汚れ」「風化」などの表現を加える技法があり、これをウェザリングと呼ぶ。
映画・映像の特撮分野では古くから行われてきたものであり、例としてサンダーバードでは、特殊撮影用のミニチュアモデルにウェザリングを施すことで、実感的に見せることに効果を上げており、その手法は「サンダーバードの秘密」などとして紹介されたことがある。
日本ではかつて「汚し塗装」という訳語が当てられていたために「とにかく汚せばいい」と誤解されることもあったが、本来は風雨の及ぼす影響(日光による退色とホコリ、雨だれの痕や錆、木々や乗員の接触による傷や剥がれ、排気のススや灼け、戦闘による損傷、他)を再現する事で、模型に実物の様なリアリティを与えるのが目的である。よってウェザリングを行うに当たっては、実物がどのような環境で使用されていたかを研究観察する事が重要である(実物の存在しないSFのメカニズムやロボットなどは、それがどんな環境に置かれて使用されるものであるかを想像し、それに近い実在の機械を参考にする事が多い)。また塗装に限らず、腐食や破損など、器物の損傷状態を加工工作によって表現することもウェザリングの一部と言える。
[編集] 技法
ウェザリングの技法には多種多様な方法がある。
- 実物を観察し、その状態に似せて絵画を描くように模型上に汚れや風化を再現する方法。目的によって、軽い汚しにとどめる場合や、実物以上に汚れを強調する場合など、さまざまなケースがある。
- 塗装を行った表面を、部分的に磨いたりはく離させたりすることで、均一さを失わせて実感的に見せる方法。
[編集] 具体的な手法
- ドライブラシ
- 乾いた筆の意味。主にエッジ部分や凸部に施し凹凸形状のハイライトを強調する技法。毛先が短く硬い塗料含みの少ない筆を使う。地色より明るい色の塗料を筆先に少量付け、紙などでかすれるまで拭い取ってから、擦りつける様に塗料を乗せていく。またこの応用でエッジ部分の傷や塗料の剥れを表現する「チッピング」と呼ばれる技法もある。乾燥の遅いエナメル系塗料が主に用いられるが、ラッカー系や水性アクリル系でも可能。
- ウォッシング
- ドライブラシと逆にケガキ線や凹部に施し凹凸形状のシャドーを強調する技法。薄めた暗い色の塗料を全体に塗り、表面の余分な塗料は溶剤を含ませた布やティッシュペーパー、綿棒などで(洗う様に)拭き取る。凹形状部分に塗料が残り陰影が強調される。ラッカー系塗料などで下地塗装を行ってから、既存の塗装を侵さないエナメル系塗料を用いて行われることが多い。またパネルラインなどに薄めた塗料を流し込んで強調する「スミ入れ」 も類似の技法である。
- パステル
- 画材用ハードパステルを用いるが、非常に多様な色調のものが販売されている利点があり、ホコリや土汚れ、錆や排気のススの表現に、それぞれ適した色調のものを用いる。紙やサンドペーパーに擦り付けて粉状にしてから筆でぼかすように塗りつけて使用する(最初から粉状の物も市販されている)。塗料と違い乾燥したつや消し状態が得られる事が大きな利点だが、そのままでは定着せず手で触れると取れたり指紋が付いたりするため注意を要し、画材用定着材などを用いて定着させることもある。
- エアブラシ・イラストレーションの手法で、塗料を微細な霧状に薄く吹き付けて、パステルと同様の効果を得たり、パネルラインなどに合わせてマスキングを施し明度を変えた(暗ければ凹み明るければ出っ張って見える)同系色をマスク面ギリギリに薄く吹き付けることでヒルマ汚しと呼ばれる特撮用プロップ独特の風合いを得ることも出来る。
- フィルタリング
- 様々な色を薄めて塗り重ねることで、周囲からの映り込みを表現したり色味を増やしたりして表情を持たせる技法。
- ペインティング
- 絵画の手法を使い、雨だれ、錆、塗料の剥がれ、泥はね、ひび割れ等を模型上で描写する。塗料はラッカー系だけでなくアクリル絵具やオイルステインなど効果が出せるものは何でも使い、手間はかかるが、よりスケール感の合った表現で現実味を持たせることが出来る。面相筆が主流だが、爪楊枝、スポンジ等筆以外のものを使用することもある。