エルミート行列
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
数学においてエルミート行列(エルミートぎょうれつ、Hermitian matrix)とは、エルミート内積に関して自己共軛となる複素行列のことである。
目次 |
[編集] 定義
n 次複素正方行列 A に対し、随伴行列を A* で表すとき
- A = A *
を満たす行列 A をエルミート行列と呼ぶ。エルミート行列 A は複素ベクトル x, y とエルミート内積 (·, ·) に対し (Ax, y) = (x, Ay) を満たす。すなわち、エルミート行列はエルミート内積に関して自己共役な作用素(エルミート作用素)である。
[編集] エルミート形式・複素二次形式
n 次エルミート行列 A と n 次元複素ベクトル x, y に対し、f(x, y) = x*Ay とおくことにより定まる 2n 変数関数 f: Cn × Cn → C をエルミート形式という。
エルミート形式 x*Ay (A = (aij)) に対し、y = x = (x1, x2, ..., xn) とおくことにより、 n 個の複素変数 x1, x2, ..., xn に関する斉二次の多項式
が得られる。これをエルミート行列 A に対応する複素二次形式あるいはエルミート二次形式といい、A をこの複素二次形式の係数行列という。定義から A{x} = x*Ax であるが、エルミート内積 (·, ·) を用いれば A{x} = (x, Ax) = (Ax, x) などと表せる。
複素二次形式 A{x} の値は常に実数値をとる。また、あるユニタリ行列による変数変換で標準形
に変換できる。
エルミート行列と複素二次形式の実成分の場合の類似物として実対称行列と二次形式を捉えることができる。
[編集] 正値エルミート行列
エルミート行列 A は対応する複素二次形式 A{x} が正値(または正定値)(すなわち任意の x ∈ Cn に対し A{x} > 0)であるとき正値(または正定値)であるといい A > 0 で表す。同様に A{x} が非負値(または半正値)(すなわち任意の x ∈ Cn に対し A{x} ≥ 0)であるとき非負値(または半正値)であるといい A ≥ 0 で表す。
[編集] 性質
エルミート行列は次の性質を持つ。
- エルミート行列の固有値は全て実数である。
- 正値エルミート行列(対応するエルミート形式あるいは複素二次形式が正定値)の固有値は全て正の実数である。
- エルミート行列はあるユニタリー行列で対角化可能である。