ソクラテスの思い出
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ソクラテスの思い出(Memorabilia、Apomnemoneumata、Recollections、Memoirsなど)はクセノポンによるソクラテス流哲学に関する記述の中でもっとも長く有名なもの。彼の弁明に対する擁護をするのではなく彼の抵抗を説明しているクセノポンによるソクラテスの弁明やプラトンによるソクラテスの弁明より以前のソクラテスに関する弁明である。レウクトラの戦いでスパルタが敗北したことが仮定されている記述があることから、完成したのは早くとも紀元前371年であると考えられる。
二つの部に分かれる。最初に、ソクラテスへの非難に対する直接的な弁明を行う。この節では、広義の宗教に当たるソクラテスへの形式的な非難に直接的に関する問題について議論するのみならず、ソクラテスへの政治的な非難についても取り組んでいる。この非難には、ソクラテスがアルキビアデスやクリティアスを堕落させたという非難や、若者に民主主義を軽蔑させたという非難を含んでいる。これらの非難は、クセノポンによる『ソクラテスの弁明』プラトンによる『ソクラテスの弁明』においては取り上げられていない。紀元前399年のソクラテスの裁判の時の非難ではなく、数年後にアテネのソフィストであるポリュクラテスによって書かれた『ソクラテスへの告発』において作られた非難に応えているとよく議論される。しかし、ポリュクラテスの作品は失われ、復元されたとされる資料は信頼できない。ソフィストであるポリュクラテスにクセノポンが逐一応答していたという仮定は、従来低い尊敬しか与えられていなかったクセノポンの文才について多くを駆り立てるかもしれない。ポリュクラテスは、クセノポンによるソクラテスの取り扱いが実際のソクラテスを反映するか、あるいはその大部分がソクラテスに関する文学的な討論の結果であるフィクションであるかを、討論する際における一つの項目である。
本の残りは、いくつかのソクラテスの教えに則った物語的な注目を持った、ソクラテスが友達・ライバル・および有名なギリシャ人と対話を行う短いエピソードにより作られる。これはソクラテスの幅広い対話者への有用性を示すことを意味する。プラトンの書籍の読者は、しばしばこの書籍の一部を見つけることができる。しかし、クセノポンにとっての目標は、ソクラテスが最初の哲学者であることを示すことでなく、またプラトンがそうしたように自分自身の哲学のオリジナルであるとすることでなく、ソクラテスが成功し、正直であり、また賢い教師であることを示すことである。