バルカン人
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バルカン人(-じん、もしくはヴァルカン人、Vulcan)はアメリカのSFテレビドラマ『スタートレック』シリーズに登場する、架空の種族(異星人)である。母星はバルカン。
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[編集] 概要
『スタートレック』シリーズを通じて登場する異星人で、尖った耳と高い知性を有するヒューマノイド、論理的で自制心が非常に強いという特徴で描かれている。長く種族間で磨き上げたテレパシー能力があり、触れた相手と精神的にも接触する事ができる。心臓の位置が人類と逆の位置にあり、血液が銅を元とする緑色で、母星の高重力に適応しているために強靭な身体機能(筋力、瞬発力は人間の三倍とされている)を持っている。寿命は二百数十年である。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
地球人とのファーストコンタクトは2063年4月5日であり、これが地球人初の異星人との接触となる。恒星間航行を習得した人類(地球人)の先輩格にあたる種族で、技術的な成熟過程にあった人類に精神的な成熟を要求し、恒星間航行を2151年まで指し止めた歴史もある。
感情的な反応を強力な自制心で押さえ込む事を、強い思想的信条(宗教的戒律?)としており、非常に論理的である事を尊ぶ。儀式による精神性の追求を行い、宇宙探査も彼等にして見れば、他種族との交流によって自らの精神性を高める修行の一つである様だ。その為、ヴァルカン船は攻撃力も防御力もあまり無い。論理的であるが非情では無く、人類の事は感情的で未成熟な種族と見なす事も多い半面、活力に溢れた魅力的な種族とみなすこともある。論理的でない相手・事象には「非論理的だ」と言うのが有名である。また歳を重ねる事も、経験により更に高次な論理的精神を有する事が出来ると考え、人間の様に加齢に対する嫌悪感は全く無く、寧ろ肯定的に捉えている。
『スタートレック』シリーズの世界では、その論理的な判断力が副長スポックの要職や学究的姿勢が科学士官に打って付けという暗黙の了解もあるらしい。カーク船長と(ハーフ・ヴァルカン人の)科学士官スポックのコンビ(宇宙大作戦シリーズ)は有名だが、これもアーチャー船長と科学士官/副司令官のトゥポルという前例があってこそ、という説が出ている。精力的で機知に富む地球人と精神性と論理を尊ぶヴァルカン人の組み合わせは、興味深い相互作用効果を生むようだ。熱血漢のカークが思わず漏らしたスラング(例えば「光子魚雷をぶちまけろ!」など)にスポックが「船長、その表現は非論理的です」などというやりとりも面白い。
人指し指と中指・薬指と小指をくっ付け、中指と薬指の間と親指を開いて、相手に掌を見せ、「長寿と繁栄を」というヴァルカン式挨拶(ヴァルカン・サリュート)は有名で、スタートレックファンなら常識だが、しばしば他のSF作品などの中でも、パロディとして登場している。また、片眉を吊り上げて否定的驚きを表す事もありスポックがよくしていた。更にヴァルカン・アタック(Vulcan nurve pinch, ヴァルカン神経掴み)と呼ばれる、首の付け根の辺りを強く掴んで神経を圧迫する事で相手を気絶させる攻撃が出来る。戦闘を好まないヴァルカン人にとっては、止むを得ない時にのみ使用するようだ。このヴァルカン・アタックは人間では習得が難しいようだが、TNGに登場するアンドロイドであるデータが簡単にやってのけたので、スポックが「やるね」と言っている。
ロミュラン人とは古い血縁関係にあるが、ロミュラン側は非常に感情的で攻撃的である(後述)。
[編集] シリーズ中でのヴァルカン人の描写
ポンファーと呼ばれる7年毎の発情期があり、本来感情を抑制する事を尊ぶヴァルカン人にとっては、自己嫌悪や屈辱的な気分に襲われる事もあるようだが、それ以上に身を焦すような焦燥感を含む苦痛を味わい、生殖活動(精神的な接触も含まれるようだ)を行わないと、苦しみの内に死ぬ事もある。このため7歳の時に婚姻した相手と交わるか、船内娯楽設備のホロデッキと呼ばれるバーチャルリアリティで性的な葛藤を処理する事になる(VOYのトゥボックは、妻に会えないのでポンファーの時期をホロデッキで過ごした。更にトム・パリスやハリー・キムにポンファーの時に出来た娘から年齢を計算されている)が、特定の異性に熱烈に迫る傾向が強過ぎて、ホロデッキで処理する事が出来ない場合もある。この期間のヴァルカン人は感情的で少々危険ですらある。なおこの期間が過ぎれば(多少の自己嫌悪は残るものの)元に戻る。
元来、ヴァルカン人は感情的な部分を強く持っており、非常に好戦的ですらあった。しかし哲学者スラクの提唱したイディック(Idic)という思想に基いて、テレパシーを用いた精神融合により感情をコントロールする術を学んだとされる。血気盛んな青年期には感情が暴走する傾向も強いため、このイディックを学ぶ事が必須とされ、論理を否定する者にはヴァルカン・マスターと呼ばれる長老的人物がイディックを教える事になる(VOYのトゥボックもこの経験がある)。また高齢になるとベンダイ症候群という病気(一種の加齢による精神障害)等によって、感情の抑制が効かなくなる事もある。
なお、このイディックに不信を抱き、ヴァルカン人と袂を別ったのが、後のロミュラン人とされている。
この生来の感情は、人類のそれよりも遥かに強烈な物で、TNGのピカード艦長は惑星間平和調停の付いている最中の、ベンダイ症候群で感情の抑制が効かなく成り始めていたヴァルカン大使サレク(スポックの父)の感情を抑えるべく、イディックの真髄とも云える精神融合を行い、そのあまりに強烈な感情に翻弄され、危うく人格を破壊される寸前にまで追い込まれた。無事で済んだのはピカードが長年の訓練によって習得した自己抑制の結果であって、普通の人間なら、あまりの感情の強さに死に至る危険のある行為ですらあった。
自室でも瞑想(日本の座禅と考え方が近い)や、論理的思考力を養うゲーム等をしている。また、精神融合をするにもこの瞑想をして精神をより研ぎ澄まさなければならない(精神融合が諸刃の剣の為)。
[編集] 発想の由来
スター・トレック・シリーズはそれ自体、ハリウッドがアメリカの歴史を、アメリカ大陸発見以前も含め宇宙SFとして描いたものであるから、登場する宇宙人の多くも実在する民族を発想の原典にしている。
ヴァルカン人はその挨拶から分かるように、ユダヤ人をモデルにしている。この指のつけ方はユダヤ人の伝統的挨拶である。
その他にも非常に知的である点、欧米の白人よりは感情を表に出さない点、しかし元来非常に感情的であったとされる点(ユダヤ人は紀元後70年、132年にローマ帝国に対し反乱を起こし、そのせいで祖国を失っている)等、実在のユダヤ人を参考にしている点が多く見られる。
どの民族もそうであるようにユダヤ人にも多様でいろいろな人がいるが、スター・トレックのヴァルカン人を見ると、ハリウッド(ユダヤ人が多く働いている)が、ユダヤ人をどう見ているか、どう見られたいかがうかがえて興味深い。