パロキセチン
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パロキセチン(塩酸パロキセチン水和物、Paroxetine)は、イギリスのグラクソ・スミスクライン社(旧 スミスクライン・ビーチャム)で開発された選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である。 同社より「パキシル」という商品名で発売されている。
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[編集] 効果と対象
気持ちを楽にして、意欲を高める。気分を落ち着ける。主にうつ病やパニック障害に処方され、その他には強迫神経症・月経前不快気分障害・摂食障害にも用いられる。
この薬は、血中に取り込まれて脳に運ばれると、脳内セロトニン神経に存在するセロトニンの再取り込みを阻害することで、脳内シナプス間隙に存在するセロトニン濃度が高まり、神経伝達能力が上がる。その結果として気分を落ち着かせ、気持ちが楽になる。
過剰投与された場合、錯乱、幻覚、せん妄、痙攣が現れることがある。
[編集] 用法
飲み始めから2週間程度は副作用が強いため(個人差が大きく、数日で副作用がなくなる人から1ヶ月程度副作用が続く人もいる)、通常は1日10-20mg(大抵の場合10mg)から始まり、1週間から2週間ごとに10mgづつ増やす。減らす時はその逆である。
症状や程度にもよるが、1日40mg以下の範囲内で、毎日夕食後に経口服用する。効果が実感できるようになるまでの期間に個人差が大きく、1週間から1ヶ月程度かかる。
うつ病によりパキシルを服用している場合、うつ病が治ってからもしばらくの間は少量のパキシルを服用し続けることが必要である。急に薬を止めると、気分や体調が悪くなったり、何らかの拍子にフラッシュバックのようにうつ状態が再発する(これは俗に揺り戻しと言われている)可能性がある。医師の指示なく薬をやめることは危険なので、医師の指示通りに服薬することが大切である。
また、パキシルはあくまでもうつが治るのを助ける薬であって、うつそのものを治す薬ではないということに注意する。薬を続けることはもちろん必要だが、それ以外にも、患者自身が旅行やスポーツ、読書といった気分転換をする方法を見つけ、実践してみることも大切である。ただし周囲の人間が患者に旅行やスポーツなどを薦めることはうつ病治療に逆効果になる事が多いので注意が必要である。
[編集] 副作用
発生する可能性のある主な副作用を挙げる。個人差が大きい薬なので、全く副作用を出さない人もいれば、かなり当てはまる人までいる。
- 自殺、自殺念慮
- 頭痛・眠気・めまい・日中の倦怠感
- 吐き気・胃痛(副作用が出ても多くは2週間程度でおさまるが、それを越えてもおさまらない場合はパキシルが合わない体質である可能性がある)
- 口腔内の渇き(従来の抗うつ薬よりは症状が軽い)
- 便秘・下痢(従来の抗うつ薬よりは症状が軽い)
- 性欲の低下
- 発疹・かゆみ
- 排尿困難
- 光をまぶしいと感じる
- 錯乱、幻覚、せん妄、痙攣
- 発汗等(寝汗など)
以下は、まれではあるが特に重い副作用である。
また投薬中止時(特に突然の中断時)に以下の様な副作用が報告されている。
- めまい
- 知覚障害
- 睡眠障害
- 激越
- 不安
- 嘔気
- 体の震え
- 発汗等(頭がシャンシャンするなど)
これらの副作用は以前から報告が有ったが2003年に取り扱い注意項目として追加された。
頭痛や眠気、吐き気などは、アルコールと一緒に飲むと起きやすくなるために、お酒を飲む人は飲む前に医師に相談しておいた方がいい。
また妊娠中の女性の場合は、服薬を始める前にその旨を医師に伝えておく必要がある。
[編集] 処方例
全ての症状に言えることとして、パキシルの効果は実感できるまでに時間がかかるために、安易に効果がないと決め付けず、最低でも2ヶ月程度は様子を見ることが必要である。 また、ここに挙げるのは一例である。状況、重症度、年齢などによって処方は変化する。ここに書いてある処方例と違うからといって、それが間違っているとは限らない。 及び Wikipedia は概説に留まる百科事典であり、精神医学の専門書ではない。ここに記載するものは一般的知識のものに限り、入院など重症の場合の取り扱いについては割愛する。そのようなものは精神医学書などの専門書や臨床医の判断を参考にし、もしもパロキセチンの服用を必要とする患者の場合は自身が信頼できる医師の処方ないし指示に必ず従うこと。
[編集] うつ病
- 基本は10-40mg程度を夕食後または就寝前に経口投与。初期は1日10mgまたは20mgから。
- 効果が出てくるまで時間のかかる薬なので、安易に別の薬に変えようとしない。しかし2ヶ月や3ヶ月経っても症状の改善が見られない場合、SNRI系の薬など薬理学的に違う性質の薬を投与してみることも考慮する。
- 医師の視点から論じた場合、投与初期の悪寒や吐き気などから投与初期で服薬を勝手にやめてしまう患者がいるため、慣れるまでの我慢と言って服薬を続けさせることが大切である。
- ただし強要するのは患者のストレスになるので本末転倒。促す程度にとどめる。
- 同様に患者の視点から論じた場合、最初が辛い薬なので多少の我慢は必要である。しかし副作用が辛い場合は、その旨を隠さず医師に話してみるといい。副作用を和らげる薬も追加で処方される場合がある。
- うつ病の場合、パニック障害や不安障害なども併発しているケースが多い。またこれはうつ病を治すと同時に軽減される可能性が高い。
- 治療初期の効きが悪いのと、副作用により一時的に不安症状が悪化することがあるため、治療初期にはベンゾジアゼピン系などの即効性かつ長期間持続する抗不安薬を一緒に投与するのも有効である。ただしそれらの薬の副作用や依存が強くならないよう注意する。
- 重症患者の場合、特に投与初期の不安増大によって自殺を試みるケースがあるために(後述する)、薬を増やす際は十分に注意する。
- 症状の軽減が見られてから最低でも6ヶ月はその量の投与を続け、回復後も少なくとも6ヶ月は減薬しつつ投与し続けることで、断薬・減薬症状を緩和する。
- 治療終了時は、6週間以上の期間をかけて減薬していく。
- 一般に、服用量が多いほど、減薬の期間も長くなる。
- 急に中断するとセロトニン濃度が急激に低下し、激しい不安感や悪心、混乱などに見舞われ、短期間の間にうつが再発する可能性が非常に高くなる。
[編集] パニック障害
- 基本は10-40mg程度を夕食後または就寝前に経口投与。初期は10mgまたは20mgから。
- 即効性のある薬ではないので、即効性と鎮静効果を持つ薬(ジアゼパムやロラゼパムなど)を頓服などとして一緒に処方すると非常に有効である。これらは治療終了、さらにはパキシル停止後も処方することがある。
- 即効性のある薬は一時的な強い不安を、パキシルは長期にわたる慢性的な不安症状を和らげるために使われる。
- 特に治療初期は一時的に不安感や混乱が強くなる可能性があるため、その間は上記の薬はほぼ必須である。
- 患者からの視点で論じた場合、パニック発作が起こった時、どうにかしたいという気持ちから衝動的に薬を大量に飲んでしまう可能性があるため、パキシルに限らず薬の保管には注意をする。
- 具体的に例を出すと、手元に1日分のみ出して残りは箱にしまって戸棚へ入れておく、など。薬を取るまでに段階を置かせることで、パニック時に大量服薬してしまう可能性を減らせる。
[編集] 不安障害・心的外傷後ストレス障害
- 強迫性障害には、2006年、本邦でも適応が追加となった。最大投与量は50mgまでであるが、投与開始時は少量からはじめ、投与終了時も漸減する点は、うつ病で使用する場合と同様、注意が必要である。
- 社会不安障害(SAD)や全般性不安障害(GAD)、外傷後ストレス障害(PTSD)にも、海外では効果が高いといわれているが、国内においては、現在臨床試験を進めており、未承認である。
[編集] 剤形
- 錠 — 10mg / 20mg
海外では40mgの錠剤などもあるが、日本では使われていない。
[編集] 流通名
主な国々での流通名を挙げる。
- Paxil…日本、アメリカ、カナダ、ブラジルなど
- Seroxat…オーストリア、ギリシャ、イスラエル、ポーランド、ポルトガル、イギリス、中国など
- Aropax…オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、ブラジルなど
- Pondera…ブラジルなど
- Deroxat…スイス、フランスなど
- Paroxat…ドイツなど
- Cebrilin…ラテンアメリカなど
[編集] 自殺を誘発する危険
パキシルは、その服用により自殺を試みる行動が増える傾向があることが確認されており、2006年5月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、医師に対して、服用者の慎重な観察を求める警告を発表した。 同年6月、日本の厚生労働省も、パキシルの添付文書に「若年の成人で自殺行動のリスクが高くなる可能性が報告されており、投与する場合は注意深く観察すること」との記載を加えるよう指導を行なった。
[編集] 参考
- ディヴィド・テイラー,キャロル・ペイトン編『症例で学ぶ精神科薬物療法―向精神薬の使い方』
- 精神障害の診断と統計の手引き(DSM-Ⅳ) 日本語版
- お薬110番
[編集] 外部リンク
- http://glaxosmithkline.co.jp/medical/excl/paxil/ - グラクソ・スミスクライン日本法人のパキシルのページ
- http://paxil.jp/index.html