マクロバランス
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マクロバランス(Macro Balance)は、経済上の主体である家計・企業・政府・海外の資金バランスのこと。
マクロ経済学において使用される用語である。
[編集] 概要
以下のモデルを想定する。
国民所得=消費+税金+貯蓄(1)
国民所得=消費+財政支出+民間投資+純輸出(2)
(1)(2)より
消費+税金+貯蓄=消費+財政支出+民間投資+純輸出(輸出-輸入)
(貯蓄)+(-民間投資)+(税金-財政支出)+(-純輸出)=0
となる。
家計収支+企業収支+政府収支+海外収支=0
という恒等式になるのである。海外収支がプラスの場合(輸入超過)は、海外主体(輸出超過国)が国民経済内で黒字を上げていることになるため、この国にとっては経常赤字を意味する。
本来、主体がそれぞれ生んだ価値を、それぞれの主体に配分するため、それぞれが得た価値と使用した価値の収支は当然、合計が0になるはずである。
マクロバランスは、それぞれの主体のいずれが貯蓄(資金余剰主体)し、いずれが投資(資金不足主体)しているかを表す指標であり、国ごと地域ごとに差がある。
以下は現実のマクロバランスである。
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1:国民所得
2:政府収支
3:企業収支
4:家計収支
5:海外収支
それぞれ、当時の国民所得を基準にどの程度の収支であったかを示している。誤差脱漏の関係で合算が0にならないが、現実は合算0になる。
1970年の日本は企業が高度経済成長末期において莫大な投資(資金不足)をしている状態である。その投資を支えているのは家計の貯蓄であり、典型的な投資経済である。
1998年においては、企業は債務返済に転換し、変わらぬ家計の貯蓄を、財政赤字(資金不足)が支えている状況である。
1998年のアメリカは、企業が積極的なIT投資を、家計が消費と住宅建設を行い、財政黒字に転換できるほどの好況が起きている。一方で、不足する貯蓄を補うため経常赤字(海外がアメリカ国内で貯蓄)になっている。
マクロバランスは、それぞれ互いに影響しあっている。例えば、98年の日本における家計の貯蓄と財政赤字はどちらがどう影響しあっているだろうか。財政が過剰に支出したために、家計は貯蓄をしなくてはならないのか、それとも家計の貯蓄を支えた結果、財政赤字になったのか。正しいのは後者である。その因果関係を知るにはその当時の景気状況が役に立つ。当時の景気状況はバブル後でも最悪の不景気であった。当然それまでの財政収支を続けようとすれば、企業が債務を返そうとする分、家計は貯蓄を圧迫されるはずであった。しかし、積極的な財政政策により、景気が格段によくなることは無くとも、不景気が深刻になるのを防ぐことが出来た。もし、過剰な財政支出が発端であれば、当時の景気は拡張的でインフレ傾向であったはずである。このことは債務を負い投資する(資金不足)主体が企業から政府へと代ったことを示している。
[編集] 意義
マクロバランスがどのような状況にあるかを知ることが国の経済構造を知るうえで重要である。また、どのような制度を構築するべきかをマクロバランスは示唆している。
例えば、上の図において日本とアメリカには顕著な差がある。それは、日本のほうが国民所得に占める各収支が大きいということである。これは、日本が傾斜生産の体制を構築する中で投資経済の傾向を強め、成長を早めるためにより多くの投資を行ったからである。
また、高度経済成長期の様に、小額の家計の貯蓄を吸い上げ企業に長期信用として貸し出すには、間接金融が最適となる。しかし、1998年のように財政による家計の下支えと企業の債務返済の時代においては、郵便貯金などの政府系金融機関による貯蓄吸い上げが最適となる。