マーズ・エクスプロレーション・ローバー
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マーズ・エクスプロレーション・ローバー (Mars Exploration Rover, MER Mission) とは、2003年にNASAが打ち上げた、ローバー(ロボット)を用いて火星の表面と地質を探る2機の無人火星探査機である。
このミッションは、NASAジェット推進研究所 (JPL) のプロジェクトマネージャー、ピーター・サイジンガーと、コーネル大学の天文学教授である主任研究者スティーブ・スクワイヤーズによって進められた。
マーズ・エクスプロレーション・ローバーは、成功した3つのミッション(1976年の2つのバイキング着陸船と1997年のマーズ・パスファインダー)を含めたNASAの火星探査プログラムの一部であり、ミッションの科学的目標は過去の火星に水の活動があった手がかりを持つ広範囲の岩石および土を探査し、その証拠を見つけ出すことである。
90日間の初期ミッションでは、ローバーの製作、発射、着陸およびオペレーティングにかかった総費用は8億2000万ドルにのぼる。 2006年12月現在もローバーは稼働中であり、火星に着陸してから3年近くも機能している。
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[編集] ミッションの経過状況
スピリットは2003年6月10日17時59分 (UTC) に打ち上げられ、2004年1月3日4時35分 (UTC) に火星のグセフ・クレーターに着陸した。オポチュニティは2003年7月7日15時18分 (UTC) に打ち上げられ、2004年1月24日1時5分 (UTC) に火星の反対側にあるメリディアニ平原に着陸した。 スピリットの着陸に続く1週間、NASAのウェブサイトでは今までのNASAのミッションを遥かに上回る17億もの訪問回数と、34.6テラバイトに及ぶデータ転送(画像や動画などのダウンロード容量と考えられる)を記録した。
2004年1月21日、ディープスペースネットワーク (DSN) とスピリットとの通信が途絶えた。探査機はデータのない信号を転送したが、当日後マーズ・グローバル・サーベイヤーとの通信セッションの機会を逃してしまう。22日木曜日、JPLは探査機から異常信号を示すビープ音を受信することに成功し、23日にはフライトチームがデータを返送させることに成功した。
異常発生の原因として、はじめはオーストラリアで発生していた豪雨にあると考えられていたが、調査の結果、ローバーに搭載されているフラッシュメモリのサブシステムに問題があったことが分かった。これはフラッシュメモリの再フォーマットを行ない、メモリオーバーロードを修正するパッチでソフトウェアをアップグレードさせたことにより解決した。
この修復作業の10日間、スピリットは技術者によってソフトウェアのアップデートとテストが行なわれるまで、一切の活動を行なうことができなかった。オポチュニティもまた、これと同じ修正パッチによってソフトウェアのアップグレードが行なわれた。スピリットは2月5日までに、完全に科学活動を復帰することができた。今までの経歴によれば、この事件は今までの任務で最も大きな異常であった。
2004年3月23日、火星表面上で過去に水が存在したことを決定づける証拠探索についての記者会見が行なわれた(これは「主要な発見」と報道された)。
科学チームの代表団は、オポチュニティーが着陸したメリディアニ平原のクレーター内部にある岩石の露出した部分で見つかった、その領域での流水の痕跡を示す層化パターンと偽層の画像およびデータを公表した。また探査機が一度立ち止まった場所で発見された塩素と臭素の不規則な分布は、現在では蒸発した塩水の海岸線であるとも示唆されている。
2004年4月8日、NASAは探査機の任務期間を3ヶ月間から8ヶ月間に延長することを発表した。事業でかかる数ヶ月あたりの280万ドルと同様に、予算の拡大は1500万ドルの追加を交えて9月までに即座に提供された。
2004年4月30日、オポチュニティーがエンデュランス・クレーターに到着した。到達までには5日かかり、走行距離は200 mであった。
2004年9月22日、NASAは探査機の任務期間をさらに6ヶ月延長することを発表した。オポチュニティはエンデュランス・クレーターを離れ、捨てられた耐熱シールドを通過し、ビクトリア・クレーターに向かっていた。 スピリットはコロンビア・ヒルズの頂上への登山を試みていた。
2005年4月6日、2つの探査車が正常通り機能している最中、NASAは2006年9月へ向けて18カ月の追加ミッションを発表した。その頃オポチュニティーはエッチト・テレインに到達し、スピリットは岩の多い斜面を進みながらハズバンド・ヒルへの登頂を試みていた。
2005年8月21日、スピリットは4.81キロメートルの走行に581 Solかかった後、ハズバンド・ヒルに到達した。探査機操作者のクリス・リーガーによれば、ミッション開始時はスピリットとオポチュニティーが保障期間の90日間を超えて作動することは予想されなかったし、コロンビアヒルズへの到達は「まさしく夢」であったそうだ。
8月21日現在、スピリットは90日間の保障期間をはるかに超えて、オポチュニティーの470 Solよりも長い490 Solを記録した。
[編集] 宇宙船の構造
マーズ・エクスプロレーション・ローバーはデルタIIロケットの先端部分に搭載できるように設計されており、宇宙船は複数の部品によって構成される。
- ローバー(本体) - 185 kg (408 lb)
- ランダー - 348 kg (767 lb)
- 後部シェル / パラシュート - 209 kg (742 lb)
- 耐熱シールド - 78 kg (172 lb)
- クルーズステージ - 193 kg (425 lb)
- 燃料(推進剤) - 50 kg (110 lb)
総重量 - 1063 kg (2,343 lb)
[編集] クルーズステージ
クルーズステージは宇宙船が地球と火星の間を飛行する際に使用される。このクルーズステージはマーズ・パスファインダーとほぼ同様であり、直径約2.65 m (8.7 feet)、高さ1.6 mある。第一構造は太陽電池パネルで覆われた直径約2.65 m (8.7 feet) のアルミニウムによって成り立っており、5つに分割された太陽電池パネルは、地球付近で600 W、火星で300 Wまでの電力を提供する。ヒーター、および多層断熱材は宇宙船に搭載されている機器を常温に保つことができる。
またローバー内部には、フライトコンピュータとテレコミュニケーション・ハードウェアの断熱に使用されるフロン系統が搭載されている。クルーズ航空電子工学システムは、太陽センサ、スタースキャナ、ヒーターなどの機器を、フライトコンピュータに接続できるようにする。
[編集] クルーズステージ・ナビゲーションコンポーネント
- スタースキャナと太陽センサ
- (バックアップシステムを搭載した)スタースキャナと太陽センサは、宇宙船からの位置と太陽や他の星の位置を分析することによって、宇宙船の方位を知ることができる。例えば約4億8千万km(3億200万マイル)もの旅をする宇宙船は時々コースから外れることがあるため、ナビゲータは検診に伴う最大6回の軌道修正を行なうことになっている。
- 燃料タンク
- 宇宙船を計画された正しい位置に着陸させるためには、軽量で、およそ31 kgの水素燃料を格納できるアルミニウムタンクが必要である。推進剤は、クルーズガイダンスや制御システムと共に宇宙船のコース修正などを許容し、またエンジン点火や姿勢制御によって3つの異なったタイプの軌道修正操縦を可能にする。
- 軸点火は宇宙船の速度を変更するため、1組の反動推進エンジンを使用する。
- 水平点火は宇宙船を水平移動させるため、「反動推進エンジンクラスタ(1クラスタあたり4台の反動推進エンジン)」を使用する。
- パルスモード発火(旋回)は宇宙船前進操縦に結合した反動推進エンジン組を使用する。
[編集] クルーズステージ・コミュニケーションコンポーネント
宇宙船には、従来の宇宙船にあったSバンド・アンテナよりも、周波数が高く、省電力で小型なXバンド・アンテナが搭載されている。これによって、ナビゲータはクルーズステージにある2つのXバンド・アンテナにコマンドを送信することができる。
- 低ゲインアンテナと中型ゲインアンテナ
- 低ゲインアンテナと中ゲインアンテナは、それぞれ機体内部にあるリングの内側と外側に設置されている。飛行中、宇宙船は2rpmの回転速度で安定化を行ない、常時方位修正されるスピン軸ポインティングはアンテナを地球へ、ソーラーパネルを太陽に常に向けられるようにする。そして宇宙船は地球に隣接している間、低ゲインアンテナを使用する。
- ただし低ゲインアンテナは無指向性であるため、地球へのデータ転送能力は距離が離れるにつれて急速に低下してしまう。そのため地球を離れて火星に接近する際、宇宙船は強力なビームによって地球へのデータ転送を行なうことのできる中型ゲインアンテナを使用する。