ユタ
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ユタとは沖縄の民間霊媒師(シャーマン)であり、霊的問題のアドバイス、解決を生業とする。
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[編集] 概念
沖縄の宗教において、琉球王国が制定したシャーマンであるノロ(祝女)やツカサ(司)が公的な神事、祭事を司るのに対し、ユタは市井で生活し、一般人を相手に霊的アドバイスを行うことを生業とする、在野のシャーマンである。
ユタを迷信と考える者も多いが、一般にユタは霊能力をもつと広く信じられており、凶事に当たった場合や原因不明の病気、運勢を占いたいときなど、人が人知を超えると考える問題を解決したいときに利用される。こうした行為は「ユタ買い」といわれ、通常、ユタは相談料をもらって問題解決にあたる。医者がユタを勧める例もあり、こうしたことから沖縄には「医者半分、ユタ半分」ということわざが古くからある。
ユタは単なる霊能力者ではなく、信仰上の位置づけとして自らを神と人間の介在者としており、広義にはノロやツカサなどと同じく「神人(かみんちゅ)」と呼ばれる。 沖縄では神に仕えるのは一般に女性と考えられており、ユタもノロやツカサと同じく、大多数が女性である。
ユタは弾圧の歴史を持つことから、隠語として、ユタのことを三人相(サンジンゾー:易者)やムヌシリ(物知り)などと呼ぶこともある。
[編集] 成巫儀礼
一般的にユタになる人間は、まず、生死に関わる事故、肉親の不幸、夢などをきっかけに「カンダーリィ(神倒れ)」と言われる原因不明の体調不良、いわゆる巫病を発症するとされる。これは沖縄の信仰者の間では「ユタになれという神からの命令」と考えられており、神命を拒む限り巫病は治らず、死ぬ者もいると信じられている。 ユタになることを受け入れた者は、地域の御嶽を巡って神と交信したり、信心を持つことによって次第に巫病から解放され、ユタになるとされている。この成巫過程から、多くのユタは「別にユタになりたくてなったのではない」と言う者が多い。こうした者は、生まれながらに霊能力が強い「サーダカ(サーダカウマリ)」であると考えられている。
[編集] 信仰と戒律
沖縄の信仰には戒律はなく教義もないため、婚姻の有無や処女性なども問われない。ユタは公的な祭事は行わないが沖縄の神に仕えており、御嶽を巡って神と交信し、民間のアドバイスには霊的助言に加えて、公徳心や道徳心を説くことが多い。教義、戒律の希薄さから現在は無宗教化が進んでいる。一例として、ユタの祭壇には、仏教や神道、キリスト教などの偶像や牌などが無秩序に並べられていることがよくあり、こうしたユタの存在からは、沖縄が信仰においてもチャンプルーであることが伺える。
[編集] 問題点と弾圧の歴史
ユタはオカルティックであり、その能力を裏付ける科学的根拠はないため、ユタを騙って金儲けをする者が後を絶たなかった。また一方でユタは日常的に人々と神を親しくする存在であり、中央集権や体制強化を進めたい支配階層は、ユタの存在を脅威と捉えることが多かった。 そのため、時の権力層から「後進的な存在であり、世間を惑わす」として、幾たびも弾圧、摘発を受けている。主なものは以下。
- 琉球王国行政官の蔡温によるユタ禁止令
- 明治期の自治体レベルでのユタ禁止令
- 大正期の「ユタ征伐」運動
- 昭和10年代の戦時体制下のユタ弾圧
これらの時代、ユタは違法的存在として警察力に拘束、抑留されるなどしている。
これらの受難の時代を経て現在もなおユタは存続しているが、ユタを騙る詐欺事件は今も起こっており、問題は絶えない。