迷信
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迷信(めいしん)とは、広く流布されているが科学的な根拠の全くない知識のこと。もしくは、それらを誤信することである。その中でも比較的歴史があるものがこう呼ばれる傾向がある。
- 学問
迷信を研究対象とする学問は民俗学である。だが、現代の民俗学者たちは「迷信」という用語をあまり使わない。なぜなら上記の定義からもわかるように、「迷信」という語は、現代社会の科学知識を基準とした、つまり外部の視点からの分類(レッテル)であり、そこにすでに"善悪"的な価値判断が入っていること、また迷信が民間知識の一環として伝承されていることをふまえ、民間知識同士の相互関係や、民間知識の社会や集団での役割などを分析するに際しては、このような否定的分類が意味を成さないからである。
- 迷信を言う者の真意
迷信の中には、望ましからぬ行為を抑制するために用いられている可能性のあるものも存在する。たとえば「夜に爪を切ると親の死に目に会えない(夜に爪を切ると「夜爪(世詰め)」といって早死にする)」「夜口笛を吹くと蛇が出る」などは、夜の静まりかえった時間に、他人の爪を切る音や口笛を聞くことに不快感を覚えることがある。そこで中止してもらいたいために「うるさいから」「いまその音(口笛)を聞きたくない」というと、相手に逆に不快感を負わせたり、また相手に開き直られたときにそれ以上抗弁する強い理由も存在しないこともあり、このような迷信は一種の抑制効果や人間関係の潤滑化を狙ったもの、とも推察される(機能主義)。(ただし、口笛については日本以外にも類例があることから、もともと宗教的な意味合いを持っていた可能性もある)。
また、子供を指導するのに、正当な理由や科学的根拠で説得しても理解しない、あるいは納得しないため、迷信を話して諭すケースもある。例えば「靴下を履いて寝ると親の死に目に会えない」という迷信は、本来は手足は子供の体温調節に重要な役割をしているため、寝るときは極寒でない限りはずすことが望ましいのであるが、ちょっと寒いぐらいで子供がはずしたがらなかったりする時、そういう迷信を話して子供を諭すのである。また、このような迷信は、過保護な保護者(このケースの場合、ちょっと寒いだけで子供に靴下を履かせて寝させようとする親など)に対しても有効である可能性もある。(類似例として「方便」の項目も参照)
- 政治
一部の伝統的な方針や社会的な知恵が世間の都合によって「迷信」とされる事がある。例えば、日本では昔からトンネル工事には女性を参加させない方針(女人禁制)が貫かれており、それは「山の神を怒らせてしまう」という表現とともに継承されていた。ところが社会事情がかわると「女性差別だ」という不満が発生した為、2005年にトンネル工事の女人禁制は「迷信」のレッテルが貼られ、規制の見直しが検討された。
- 迷信の類義語
- 「ジンクス」と呼ばれる因縁話も迷信に近いものであるが、単なる俗信や経験則もこれに含まれる。英語圏でのジンクス(jinx)という言葉は、悪運や不運、またはそれらに見舞われた状態など、縁起の悪い事柄を限定して指す。
- 民間信仰の中には「迷信」と重なる部分もあれば、そうでもない部分もあるであろう。
[編集] 迷信の例
- 西欧でよく知られる迷信
- Friday the 13th 13日の金曜日に不吉なことが起きる、という考え。
- breaking a mirror 鏡を割ると7年間悪いことが起きる、という考え。
- black cat 黒猫が前を横切ると不吉なことが起きる、という考え。
- horseshoe 家の戸口に馬蹄をつけると魔女が入ってこなくなり、家内安全である、という考え。
- rabbit's foot ウサギの後ろ足が魔よけのお守りになる、という考え。キーホルダーなどにして持ち歩く人もいる。
- breaking a wishbone 叉骨を折る。鳥の二股の骨を二人で引っ張り、折った時に、長いほうを持っていた人の願いがかなう、という考え(だが、食事の時の会話を楽しむための知恵かも知れない)。
- walking under a ladder 梯子の下を歩く。梯子の下を通ると不吉なことがおきる、という表現(だが、ある意味、合理的である)。
- 家の中でかさを広げるのは不吉、という考え(だが、眼のケガを防止するための知恵かも知れない)
- happy bridegroom 幸福な花婿(むこ)。新居に入る時に花嫁を抱いて敷居をまたぐと、花婿(むこ)が幸せになる、という考え。(もっとも、とても印象的な演出なので、花嫁にとって、家での最初の思い出が甘美なものとなり、実際に花婿は優しくしてもらえる傾向はあるのかも知れず、知恵に分類すべきかも知れない)
- 他
- 夜に口笛を吹くと、蛇(または妖怪、お化け)が出る(かつて日本で人身売買が行われていた時代、摘発されないために多くが人目のつかない夜に売買取引を行っていた。その際、売人を呼ぶ合図が口笛だったため、「蛇(妖怪、お化け)が出るから吹かないように」という子供への警告が形を変え、現代まで残っている一例)
- 金髪の人は馬鹿(欧米人の迷信。アメリカン・ジョークでは「金髪女性は馬鹿(というより天然ボケ)」だという暗黙の了解があり、「ブロンド・ジョーク」というジャンルがある。この迷信を基にしたのが映画『キューティ・ブロンド』シリーズである)
- 風邪は人にうつすと治る
- しゃっくりが100回出ると死ぬ
- ワカメやコンブを食べると、頭髪が増える
- 夜に爪を切ると親の死に目に会えない(夜に爪を切ると「夜爪(世詰め)」といって早死にする)
- 霊柩車を目撃したら親指(或いは他の指)を隠さないと親族が亡くなる
- 靴下を履いて寝ると親の死に目に会えない
- 丙午の年に生まれた女性は、鬼となって家族(親・夫・子供)を苦しめる(直近の丙午である1966年には出生数が前年に比べ約25%減少した)