ユニオン・パシフィック鉄道4000形蒸気機関車
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4000形は、アメリカ合衆国のユニオン・パシフィック鉄道が1941年から1944年にかけて製作した、世界最大・最強級の蒸気機関車である。アメリカン・ロコモティブ(アルコ)社の手で25両(4000~4024)が製造され、ビッグボーイ(Big Boy)の愛称で一般によく知られている。
[編集] 概要
ビッグボーイは、「世界最大の蒸気機関車」、「世界最強の蒸気機関車」とよく言われるが、これについては異論もある。ビッグボーイよりも重い機関車は他にもあるし、より強力な機関車もある。しかし、テンダーをのぞいてエンジン部分だけで考えてみると、ビッグボーイは一番長い機関車であるし、水と石炭を満タンにした状態ではもっとも重い機関車である。だがエンジン部分のみでは、ビッグボーイよりも重い機関車も存在する。しかしながら、さまざまな要素を考え合わせると、ビッグボーイは、あの手の大型機関車の中では最もうまくいった機関車といえるだろう。
4-8-8-4という車軸配置を持つ機関車は、ビッグボーイだけである。(4-8-8-4というのはホワイト式の表記で、日本ではなじみは薄いかもしれない。AAR方式なら、2-D-D-2となる)
この車軸配置は、言い換えれば、二組の4軸動輪ユニットを合体し、それに2軸の先輪と2軸の従輪を付け加えたものである。先輪は、スピードを出したときの安定性を高めるためであり、従輪は、大きくて重い火室を支えるためだ。この車軸配置を見るだけで、ビッグボーイが高速時にパワーを発揮することができる機関車だとわかるし、そもそもそのために設計された機関車である。形態的には、20世紀初頭に開発された関節式4シリンダ機関車の一種であるマレー式に似るが、マレー式が後部シリンダで使用した蒸気を前部シリンダで再び使用する複式機関車の一種であるのに対し、ビッグボーイは4個のシリンダに直接ボイラーから蒸気を供給する単式膨張型関節機関車であり、似て非なるものである。
ユニオン・パシフィック鉄道は、ワサッチ山地を越える11.4パーミルの勾配で3300トンの貨物列車を牽くために、このビッグボーイを作った。ビッグボーイが作られる以前は、この勾配を越えるには、列車に補助の機関車を連結する必要があった。だから、補助機関車を連結したり、切り離したり、乗務員の手配をしたりなどしなくてはならなかった。だがそれでは、列車は速くは走れない。
だから新しい機関車が計画されたのだが、どうせ作るのなら、のろのろと坂道を登るだけの機関車では値打ちがない。坂道を越えたところでわざわざ機関車を付け替える手間を省くために、長い列車を平坦線で時速60マイル(時速100キロメートル)で牽引することができる機関車でなければならなかった。
実際のところビッグボーイは、時速80マイル(時速130キロメートル)で安定して走行する能力があるから、そういう意味ではかなり余裕を持った設計ではある。ビッグボーイ以前の関節式機関車には、これだけのスピードが出せるものはほとんどない。
同じユニオン・パシフィック鉄道でビッグボーイよりも前に作られたチャレンジャー(4-6-6-4)という機関車も、性能的にはビッグボーイにはおよばない。だがいろいろな点で、ビッグボーイはチャレンジャーをより長く、より重く、より強力にした機関車だと言える。
ビッグボーイは25両作られた。この25両は、20両と5両の二つのグループに分けることができる。25両全部が石炭を燃やして走る機関車で、ユニオン・パシフィック鉄道の質のよくないワイオミング産の石炭を燃やすために、広い火格子を持っている。4005号機は、重油を燃やす機関車に一時的に改造されたが、同じ実験がチャレンジャーではうまくいったのに、ビッグボーイではうまくいかなかった。火室が広すぎて重油バーナの炎が火室の一部にしか当たらず、ゆがみが発生したからである。それで4005号機は石炭燃焼に戻された。
ビッグボーイは、新人の機関助士でもうまく扱うことができる機関車だったから、第二次世界大戦中によく活躍した。熟練した機関助士たちがたくさん戦場へ行ったため、その欠員を、徴兵されたが戦闘には向かない男たちで補充したのだが、ビッグボーイはそれにうまくマッチしたわけだ。
[編集] 保存
どの蒸気機関車でもそうだが、第二次世界大戦後は石炭の値段と人件費が上昇したため、ビッグボーイにとっても未来は明るくなかった。とはいえビッグボーイは、最後まで走り続けた蒸気機関車の一つとなった。ビッグボーイが最後の営業列車を引いたのは1959年の7月で、大部分のビッグボーイは、1961年まで走行可能な状態で保管されていた。ワイオミング州のグリーン・リバーでは、1962年まで4台が走行可能な状態で残っていた。
幸運なことにビッグボーイは、アメリカ合衆国内にたくさん保存されている。有名な機関車であることと、活躍したのがアメリカ西部であったことがその理由だ。(アメリカ西部の町や博物館には、ビッグボーイのような大きなものを置いておくスペースがあるから)
25台のうちの8台が、今でも残っている。リストは以下のとおり。 (ただし4017号機は、運転台内部の設備だけが保存されている)
- 4004: ワイオミング州シャイアン Holliday Park
- 4005: コロラド州デンバー Forney Transportation Museum
- 4006: ミズーリ州セントルイス Museum of Transportation
- 4012: ペンシルバニア州スクラントン Steamtown National Historic Site
- 4014: カリフォルニア州ポモナ Los Angeles County Fairplex
- 4017: ウィスコンシン州グリーンベイ National Railroad Museum
- 4018: テキサス州ダラス Age of Steam Railroad Museum
- 4023: ネブラスカ州オマハ Durham Western Heritage Museum
4017号機以外は今のところ、屋根のない露天の状態で保存されている。しかし、暑く空気が乾いているせいで、南カリフォルニアの4014号機は、保存されているビッグボーイの中でも一番いい状態を保っている。これは、the Railway & Locomotive Historical Society の支部の人たちが手入れをし、見守っているおかげである。The Steamtown にあるビッグボーイもよい状態にある。かなりの額の基金とボランティアのおかげで、グリーンベイにある博物館の内部に、侵入者にあらされたりすることのない場所が作られ、4017号機はそこで、そのほかの鉄道関係の資料とともに保管されている。
現在のところ、走行可能なビッグボーイは存在しないし、修理して走らせる計画もない。どこかの大金持ちか企業が数百万ドルをつぎ込む気にならない限り、これは実現しないだろうと思われるし、近い将来にもそういうことは起こりそうもない。もっとも、スポンサーになりそうなのはユニオン・パシフィック鉄道ぐらいだが、同社はすでにいくつもの走行可能な歴史的機関車を持っている。その中には、ビッグボーイよりもわずかに小柄なチャレンジャー(3985号機)もある。ビッグボーイとチャレンジャーは見掛けがよく似ているから、ユニオン・パシフィック社がビッグボーイを走らせたがるとは思えない。ビッグボーイは、チャレンジャーよりも扱いが難しく、走らせるにはチャレンジャーよりももっと費用がかかる。
もし仮に一台のビッグボーイが修復され、走行可能になったとしても、とても重たい機関車だから、走らせることができる線路を探すのは難しい。蒸気機関車時代の終わりごろに作られたビッグボーイのような巨大な機関車は、汎用機ではない。どこの線路でも自由に走れるというわけではなく、走れる場所は、車体の重さとサイズが合う一部の路線に限られる。
[編集] スペック
ビッグボーイのスペックは以下のとおり。
車軸配置:4-8-8-4 全長:132 フィート 9 1/4 インチ (40.5 m) テンダーを含めた重さ:1,200,000 ポンド (540 t) 動輪上重量:540,000 ポンド (245 t) 引張力:135,375 ポンド (600 kN) シリンダー行程:23 3/4 インチ (600 mm) 直径 32 インチ (800 mm) シリンダー数 4 ボイラー圧力:300 ポンド/インチ (2 Mpa) 動輪直径:68 インチ (1.7 m) テンダーに積める石炭の重さ:28 トン テンダーに積める水の量:24,000 米ガロン (90 m³) 最高速度:時速80マイル (130 km/h)