ワークシェアリング
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ワークシェアリングとは、各々の労働時間を短くすることによって、その分、従業員を増やし、あるいは、解雇する従業員数を減らし、雇用機会を増やすことである。ただし、この定義は日本におけるものであり、諸外国では様相が全く異なる。
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[編集] イギリス
イギリスでは1970年代まで盛んに行われており、特に国営の炭鉱セクターにおいて顕著であった。国営企業の使用者とは政府のことであるが、観念的には労使が自主的な行うタイプに属する。しかしその目標が一時的な不況と失業を回避するためのものから、既得権を守ることへと堕していった。そのためインフレと失業とが同時に発生するスタグフレーションを発生させ、経済のパフォーマンスの低下が批判を浴び、サッチャー以後、廃止されていった。
[編集] オランダ
オランダのワークシェアリングとしては、ワッセナー合意が有名である。政労使の合意として
- 労働組合は労働生産性の上昇を上回るような賃上げ要求を放棄する
- 経営者は賃上げ回避による留保利益を設備投資(人的投資を含む)に投下する
- 政府は法人税を減税することで企業の留保利益を減殺しない
- 政府は所得税を減税することで抑制された賃金の充填に務める
というものである。政策目標として賃上げ回避によるインフレ抑制と設備投資による内需拡大及び雇用増加を明確に示しているために、高い経済パフォーマンスの達成に寄与した。企業自身による設備投資は、大きな政府による公共投資政策よりもレントシーキングその他の政府の失敗が発生しにくく、優れているとされる。経営者に対する役員賞与や株主に対する配当金を低く抑え、設備投資へと振り向けている点で小さな政府による所得格差の拡大その他の市場の失敗を未然に防ぐことが出来るとされている。
オランダにおけるワークシェアリングとは、当期の利潤を労働者、経営者、株主で分配するのではなく、市中の失業者のために設備投資を行うことである。その設備投資により次期以降の労働生産性の向上に貢献することにもなった。つまりワークシェアリングとは、生産性を向上させ、失業を減らし、所得分配を行う一連のシステムである。
従ってパートタイムの有無や労働時間短縮とは全く関係が無い。オランダの女性パートタイム労働者が逸脱して多いことや、正社員とパートとの均等待遇などがよく引き合いに出されるが、それはオランダ社会における人々の生活パターン(主として宗教的な理由)からの要請により生まれたものにすぎないのである。
[編集] ドイツ
ドイツのワークシェアリングは、産業別あるいは業種別に労使が自主的に行うタイプである。その背景思想として労働の終焉論がある。どうして不況になるかといえば、それは我々の生産性が向上しすぎたためである。そのためマクロの生産量を削減するために、ワークシェアリングを行うのである。最終的には人々が労働から解放されるというユートピア的な思想に繋がる。生産性の更なる向上を軽視していること、生産量の削減がインフレを招くこと、自発的失業(特に早期退職)を悪いことではないとしていることなどから、典型的な経済パフォーマンスは軒並み低下する。
[編集] 北欧諸国
北欧諸国で行われていることは、厳密に言えばワークシェアリングではない。だが同一労働同一賃金という政労使の調整よる強い労働規制は、結果としてオランダのワークシェアリングと似たメカニズムを引き起こして、高い経済パフォーマンスを達成している。
[編集] 日本
日本での導入には労働時間の観念の明確化、業務領域の明確化が欠かせない。日本においても平成不況のおりに政府が解雇を避ける目的で推奨したが、政府の基準レベルで実施されたのはゼロ件であった。雇用保険、労働者災害補償保険(労災保険)など雇用時にかかる経費が高いことが日本におけるワークシェアリング導入が進まない原因だと指摘する声もある。
日本ではドイツを模倣した社会保険制度により「正社員」「非正社員」の区別があり、社会保険などの保障や給与体系が大幅に違っている。ワークシェアリングを実施するに際して、この区別を廃止し、保障も統一の基準にしなければならないとする意見がある。