雇用保険
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雇用保険(こようほけん)とは主として雇用保険法に定められた失業給付、教育訓練給付、育児・介護休業給付、高年齢雇用継続給付の総称である。かつては、「失業保険」と呼ばれていた。
雇用保険の保険者は「国」であり、公共職業安定所(ハローワーク)が事務を取り扱っている。掛け金は事業主と労働者が原則折半して負担する。
雇用保険の運営には先述の掛け金に加え、国民の生存権の保障に資するという目的から多額の国庫補助がなされている。かつては、現に失業している者を救済するという機能しか持たなかったが、失業の予防という目的を加えた制度拡充により、名称が改められた(1975年)。
「雇用保険法」には「雇用保険事業」として、「失業等給付」と「雇用安定事業、能力開発事業、及び雇用福祉事業」を行うことができることを定めているが、一般的には「失業給付」を意味する場合が多く、本稿では、日本の雇用保険制度(主に失業給付)について述べる。
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[編集] 雇用保険制度が適用される事業所
「1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ、1年以上引き続いて雇用される見込みのある」労働者を1人以上雇用する事業所は、法人、個人を問わず、原則「雇用保険適用事業所」となる。
[編集] 被保険者の種類
被保険者(加入者)は雇用保険適用事業所に雇用されている者である。なお、離職した者は被保険者ではない。 適用事業に雇用される者は国籍を問わず原則被保険者となる。
退職金制度が適用される公務員は、退職金によって失業中の生活の保障がなされるため、雇用保険の被保険者とはならない。勤続年数が短いことにより退職金の金額が雇用保険失業給付に比して少額である、あるいは、懲戒免職されたことにより退職金の支給がなされない者については、「国家公務員退職金支給法」、自治体が制定する「退職金条例」の規定により雇用保険と類似の給付がなされる場合がある。
- 一般被保険者
- 雇用保険適用事業に雇用されている者で、下記に規定する者以外を一般被保険者という。
- 短時間労働者(週所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)で、1年以上継続して雇用される見込がある者は、「短時間被保険者」という。「短時間被保険者」は、上記の一般被保険者にカテゴライズされる。短時間被保険者は、雇用保険(基本手当)の受給権を得るための要件について、短時間被保険者でない一般被保険者と別の定めがなされるが、その他の事項については短時間被保険者でない一般被保険者と同様の扱いがなされる。
- 高年齢継続被保険者
- 65歳未満で雇用され、現在65歳以上になっている労働者。なお、雇用される時点において65歳に達している者は被保険者とならない。
- 短期雇用特例被保険者
- 季節的に雇用されている労働者(出稼ぎ)など。雇用対策としての観点から特例として被保険者となる。
- 日雇労働被保険者
- 日々雇用される者、または、30日以内の期間を定めて雇用される労働者(日雇い労働者)のうち、適用区域に居住または雇用される労働者。
[編集] 雇用保険(失業給付)
[編集] 受給を受けるための要件
事業所を離職した場合において、「失業」状態にある者が給付の対象となる。
ここでいう「失業」状態とは、「就職しようとする意思と、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就くことができない」状態のことである。
したがって、「離職」した者であっても、下記の者は「失業」状態ではなく、給付の対象とはならない。
- 病気、ケガ、妊娠、出産、育児、病人の看護などにより働けない者
(これらの者については、後述する「受給期間の延長」の手続きをとることにより、働けるようになった時点で給付を受けることが可能である)。
- 退職して休養を希望する者
(60歳から64歳までに定年退職した者で休養を希望する者は、申請により退職後1年の期間に限って受給期間を延長することができる。)
- 結婚して家事に専念する者
- 学業に専念する者(いわゆる「昼間学生」がこれに該当する)
- 自営業を行う者(自営業の準備に専念する者を含む)。
- 会社の役員(取締役、監査役)である者。
受給権を得るためには、原則、「離職前の1年間において、賃金支払いの対象となった日が14日以上ある、完全な月が6ヶ月以上あること」が必要である。なお、短時間被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者については、別途の基準による。
[編集] 具体的な受給手続きの流れについて
下記に述べるのは、一般被保険者(短時間被保険者を含む)であった者についての受給手続きの概略である。
雇用保険の給付については、雇用保険金を受けようとする者が自らの意思に基づいて公共職業安定所に申請をすることより給付を受けるべきものとされる。これを「申請主義」の原則という。
雇用保険の受給に際しては、自己の住居を管轄する公共職業安定所に出頭し、求職の申し込みを行わなければならない。すなわち、就職するにあたって希望する条件を具体的に申述することが求められるのである。
- 就職意思の有無については、雇用保険の加入対象となる労働条件、すなわち、1週間に20時間以上の就労を希望しているか否かが判断基準とされる。したがって、おおよそ職に就いているとは言えないような極めて短時間の就労や随意的な就労を希望する者にについては、「就職の意思」があるとは認定されない。
- 勉学、休養、旅行などの理由により、直ちに就職することを希望しない者については、当然、「就職の意思」はないものとして扱われる。
この段階において、現在、職業についているか否か、病気、ケガなどの理由により直ちに就職できない者であるか否かの確認が行われる。
上述の求職申し込みの後、約4週間後に設定される「認定日」に公共職業安定所に出頭し、失業状態であることの確認を受けることにより、雇用保険金が支給される。(このプロセスを「失業の認定」という)。失業状態が続く場合において、「認定日」は原則4週間ごとに設定される。
失業の認定は「認定日」においてのみ行いうる(雇用保険法第30条)。認定日は、特段の事由がない限り変更されず、かつ、認定日以外の日において失業の認定を受けることはできない。
「認定日」に給付を受けようとする者が自ら公共職業安定所に出頭し求職の申し込みをすることにより、「就職しようとする意思と、いつでも就職できる能力」があることの確認がなされるのである。したがって、代理人による認定や郵送による認定は行うことができない。
最初に雇用保険受給手続きを取った日から失業であった日(ケガや病気で職業に就くことができない日を含む)が通算して7日に満たない間については支給されない。これを「待期」という(雇用保険法第21条)。
1週間の間に20時間以上働いた場合においては、その仕事に従事した期間は働かなかった日も含めて認定されない。すなわち、「失業」ではなく「就職」状態とみなされるのである。仮に、「就職」状態に至ったとしても、その仕事を辞めて「失業」状態に至れば再度認定を受けることは可能である。
1週間の間に20時間未満働いた場合において、他に安定した職業に就くことを希望する場合については、失業であった日について認定がなされる。例えば、1週間(7日間)の間に2日間アルバイトをすれば、アルバイトをしなかった5日間が失業であったと認定(雇用保険金が給付)されるのである。ここで言う「アルバイト」とは1日に4時間以上働いた場合を指す。1日に4時間未満働いた場合においては働いた日であっても認定されるが(「内職」「手伝い」程度とみなされる)、収入を得た段階で収入額に応じて減額支給されることとなる。
雇用保険受給中に、病気その他の理由により引き続き15日以上就職できない状況が発生した場合については、その期間については「失業」状態とは認定されない。ただし、病気・ケガなどの理由による場合については「(雇用保険の)傷病手当」の支給がされる場合がある。あるいは、「受給期間の延長」ができる場合がある。
雇用保険受給中に就職(パートやアルバイトも含む)した場合において、「就業促進手当」が給付される場合がある。
「就業促進手当」は、「安定した」職業に就いた場合に支給される「再就職手当」、「安定していない」職業に就いた場合に支給される「就業手当」、障害者などのいわゆる「就職困難者」が公共職業安定所等の紹介により安定した職業に就いた場合に支給される「常用就職支度手当」の3種類がある。 「再就職手当」、「就業手当」を受給した場合は、支給額に相当する日数を既に支給したものとみなされる。 「常用就職支度手当」は、本来給付を受けることができる日数とは別途に「常用就職支度手当」がなされる。
偽りの申告をなす等不正な手段で給付を受けた場合、受けようとした場合は「不正受給」として処分される。「不正受給」とされた場合、不正に受給した金額の3倍以下の金額を納付(返還)しなければならないほか、残余の日数についても支給を受けることはできない。故意の不正受給行為は、「詐欺罪」を構成することは勿論である。
上記の事項については、初めて雇用保険の手続きを取った日から約1~2週間後に開催される「雇用保険説明会」において説明がなされる。
[編集] 給付される金額(基本手当日額)について
失業したと認定された1日あたりに支給される金額を、「基本手当日額」という。例えば、認定日において20日失業したと認定されれば、「基本手当日額」に20日を乗じた基本手当が支給されるのである。
- 基本手当日額は、原則、離職日直前6ヶ月間の賃金(税引前)の総和を180で除した金額の45%~80%の金額である。なお、上限および下限が規定されている。
- 基本手当日額は、離職した理由や給付を受ける者の住所地において区別はされない。
- 「賃金」には、いわゆる「ボーナス」や「退職金」は含めない。
- 基本手当日額は、毎年8月1日付で見直し(改定)される。
- 基本手当日額は、離職時の年齢により上限が異なっている(下限は年齢により異なることはない)。
- 60歳以上~65歳未満で離職した者と、それ以外の年齢で離職した者とでは算定式が一部異なっている。
- 基本手当日額の下限(最低額)は1664円である。上限(最高額)は、離職時の年齢が30歳未満の者については6395円、30歳以上45歳未満の者については7100円、45歳以上60歳未満の者については7810円、60歳以上65歳未満の者については6808円、65歳以上の者については6395円である(2006年8月1日現在)。
- 「就業促進手当」の支給金額の算定にあたっては、別途の上限額が定められている。
[編集] 受給期間延長について
雇用保険金を受給することができる期間を「受給期間」という。受給期間は離職日の翌日から1年間である。したがって、離職してから1年以上経過した日に失業していた日があった場合、給付日数が残っていたとしても受給することはできない。
ただし、以下の理由により引き続き30日以上職業に就くことができない場合においては、申請により前述の「受給期間」に職業に就くことができない期間を加算することができる。これを「受給期間の延長」という。
- 求職者本人の疾病・負傷(労災保険や健康保険から傷病による休業給付(休業補償・傷病手当金)をもらっている場合も含む
- 妊娠・出産・育児(子供が3才になるまで、または保育先が見つかるまで)
- 常時受給者本人の介護を必要とする民法上の親族を看護する場合・小学校入学前の子供の看護に専念する場合
- 正当かつ公的な理由のある海外渡航
- 事業所の命による配偶者の海外勤務に同行(配偶者が事業主の命によらず海外で就職する場合は含まない)
- 青年海外協力隊(国際協力機構=JICA)など公的機関が行う海外技術指導ボランティアに参加(派遣前に行われる日本国内での訓練初日より受給期間を延長できる)
- 公的機関が募集するボランティア活動(天災の被災地を支援するものなどが該当する)に参加する場合
- 職業に就くことができない期間として猶予が認められるのは、最大3年間である。したがって、本来の「受給期間(1年)」+「職業に就くことができない期間(3年)」の合計4年間の間に受給できなかった給付日数は失効することとなる。
- 「受給期間の延長」が認められるのは、「職業に就くことができない」期間についてのみである。例えば、病気を理由に受給期間の延長が認められた場合、病気が治癒し就職が可能な状態に回復するまでの期間しか受給期間の延長は認められないのである。
- 傷病を理由としない休養、留学、進学、官憲による身柄の拘束(自由刑の執行など)といった理由では受給期間の延長は認められない。ただし、60歳以上64歳以下の年齢で定年退職した者については、単に休養したいという理由だけで最長1年間の受給期間の延長が認められる。
- 離職時において65歳以上である者(高年齢求職者給付金の対象となる者)については、受給期間の延長は認められない。例えば、65歳以上で離職し1年以上入院した者に対する雇用保険上の救済措置はない。
[編集] 給付を受けることができる上限日数(所定給付日数)について
「失業」状態にあれば無期限に給付がなされるのではなく、給付日数には上限が定められている。雇用保険金が支給される上限日数を「所定給付日数」という。
- 「所定給付日数」は、「失業状態であると認定されれば受給することが可能となる最大限度の日数」という意味である。したがって、失業すれば所定給付日数のすべてを当然に受給できるという考え方は誤りである。
- 所定給付日数は、被保険者であった期間が10年未満の者については90日、10年以上20年未満の者については120日、20年以上の者については150日である(一般被保険者であった者の場合)。
- 倒産、解雇などの理由により、再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた一般被保険者であった者(「特定受給資格者」という)については、別段の日数が定められている。この場合の所定給付日数は、90日~330日(離職時の年齢や被保険者であった期間で異なる)である。
倒産、解雇による離職でなくとも、これらに準ずる理由により離職したと安定所長が認定した場合については、特定受給資格者となる。例えば、賃金の未払いが続いたため退職した場合、過度の長時間労働が続いたため退職した場合、3年以上に渡って有期の雇用契約が更新され続けた場合において事業主が雇用契約を更新しないとした場合などである。
公共職業安定所は、障害者、母子家庭の母などのいわゆる「社会的弱者」を雇用した事業所に対して「助成金」の支給を行っている。(雇用保険被保険者である)従業員を1人でも解雇した事業所に対しては、「助成金」は相当期間支給されないのである。解雇でなくとも、上述の「特定受給資格者」と認定された離職者が相当数いる事業所についても同様の措置が取られるのである。したがって、特定受給資格者であるか否かについては、事業主、離職者双方の意見を聞いた上で、客観的証拠に基づき厳格に判定されるのである。
- いわゆる「就職困難者」についても別段の日数が定められている。この場合の所定給付日数は150日~360日(離職時の年齢や被保険者であった期間で異なる)である。なお、離職理由による区別はない。
「就職困難者」とは下記に該当する者である。
身体障害者手帳を所持する者、療育手帳を所持する知的障害者、精神障害者保健福祉手帳を所持する者、精神分裂病、そううつ病またはてんかんにかかっている者、社会的事情により就職が著しく阻害されている者であると安定所長が認定する者である。
かっては、「社会的事情により就職が著しく阻害されている者」の中に、いわゆる「同和地区出身者(35歳以上で高等学校卒業以下の学歴であり、大企業の正社員として勤務したことがない者に限る)」が含まれていた。2001年4月に行われた国の同和対策の転換(地対財特法の失効)により、国は社会全体に対する啓発である「一般対策」としての同和対策を行うものとされ、同和地区出身者に対して個別に優遇措置を適用すること(「特定対策」)は全廃されるに至っている。前述の国の同和問題に対する方針を受けて、現在では単に「同和地区出身者」という理由だけでは「就職困難者」とは認められない。
[編集] 給付制限について
一身上の都合(自己都合)による離職、「重責解雇」で離職した者については、直ちには給付されず、1ヶ月から3ヶ月の期間をおいた後に給付がなされる。これを(雇用保険法33条による)「給付制限」という。
一身上の都合(自己都合)で離職した者は、「自発的に失業状態となるに至った者」である。自発的に離職した者については、通常、再就職にあたっての準備が可能であるので、直ちに雇用保険金を給付することは要しないとされるのである。したがって、これらの理由で離職した場合3ヶ月の給付制限が課されるため、実際に雇用保険金を受け取れるのは、雇用保険の手続きをはじめて取った日から約4ヵ月後である。なお、離職後、待期期間が満了するまでの間に2ヶ月以上の被保険者期間(雇用保険加入歴)がある場合には、給付制限期間は1ヶ月に短縮される。
- ただし、次のような場合は、一身上の都合(自己都合)による離職であっても、給付制限は課せられない。「正当な理由のある自己都合退職」とみなされるのである。先述の「就職困難者」であっても、一身上の都合(自己都合)で離職すれば正当な理由があると認定されない限り給付制限が課される。
- 体力の不足・病気・ケガなどの理由で職種の転換を余儀なくされた場合。(例えば、タクシーの運転手が失明したために退職した場合があげられる。)
なお、65歳以上の年齢で退職した場合、実務取扱上「体力の不足」による退職と認定される場合は多い。 - 妊娠・出産・育児などの理由により、90日以上の受給期間の延長措置を受けた場合
- 家庭の事情の急変により離職した場合。
- 配偶者と同居するために退職し、通勤が困難となった場合。(「通勤が困難」とは、会社までの所要時間が片道2時間以上に至った場合を指す。)
- 交通機関の廃止・ダイヤ変更などにより通勤が困難になったとき。
- 体力の不足・病気・ケガなどの理由で職種の転換を余儀なくされた場合。(例えば、タクシーの運転手が失明したために退職した場合があげられる。)
これらの事情に該当すると思われる場合については、事情を申述することにより正当な理由の有無についての判定を求めることとなる。「正当な理由の有無」については、給付される日数が増えるものではなく、「正当な理由のある」離職者が存在する事業所にも「助成金」は支給されるため、寛大な判定がされることがある。
正当な理由がなく公共職業安定所が行う職業指導や職業訓練の受講指示を拒んだ場合などについては、雇用保険法32条による「給付制限」が課される場合がある。あえて就職を拒否する言動を行う者に対して相当期間雇用保険金の給付をなさないとすることは、雇用保険制度の趣旨から考えて当然であるからである。 この場合の給付制限期間は1ヶ月間である。
[編集] 求職活動(認定要件)
失業認定がされる要件として、「失業」状態にあるということに加えて、「求職活動」を所定の回数以上行っていることが必要である。「求職活動」とは、以下のものを指す。
- 求人への応募(公共職業安定所の紹介によるものであるか否かを問わない)
- 公共職業安定所もしくは厚生労働大臣の許可・認可を受けた民間職業紹介機関・派遣会社、公的な相談機関が行う職業相談もしくは職業紹介、セミナー受講、新聞社が主催する合同求人面接会への参加
求人に応募した場合は1回、上記機関での職業相談、セミナー受講については2回、前回認定日から当該認定日前日までの間(4週間)に行っていれば認定となる。
ただし次の場合に限り下記の要件を満たせば認定となる。
-
- 給付制限が課せられない場合は、第1回目の認定日においては求職活動を1回行なっていればよい。(通常、雇用保険説明会に出席すれば認定となる)
- 給付制限が課せられているときは、待期期間経過後、給付制限期間終了直後の失業認定日の前日までに求職活動を3回行なっている必要がある。
- 「就職困難者」は、各認定日ごとに求職活動を1回ずつ行っていれば認定される。
- 支給を受ける日数が7日未満の場合、待期期間が満了したということのみの認定を受ける場合は、求職活動を行っていなくとも認定される。
- 支給を受ける日数が7日以上14日未満の場合については、求職活動を1回行っていれば認定される。
以下の行為は、「求職活動」とはならない。
-
- 新聞、雑誌、インターネットでの求人情報閲覧。
- 知人への単なる就職あっせん依頼。
- インターネット等による単なる派遣就業登録など。
- 「求職活動」という概念が導入されたのは、2003年9月からである。それまでは、仕事を探していたかどうかということについては厳密な確認を求めずに認定を行っていたが、雇用保険制度のありかたが見直される中で「求職活動」という概念が導入されるに至った。(失業認定の厳格化)
- 「失業認定の厳格化」と言っても、基準そのものが厳しくないせいか、求職活動不履行により不認定となるものはほとんどいないのが実情である。
- 公共職業安定所での求人情報閲覧は、実質的に新聞、雑誌等による求人情報閲覧と異なるものではないが、実務取扱上、公共職業安定所での求人閲覧のみをもって認定している場合は多い。例えば、公共職業安定所で求人を閲覧した後、職業相談窓口で「求人閲覧」というスタンプを受けることにより「職業相談」が行われたものと解釈するなどの措置がとられることがある。厚生労働省の地方部局である各都道府県労働局の判断により従来の失業認定からの激変緩和という意味でこのような拡大解釈的な運用がされているのである。あくまで現場サイドでの判断で公共職業安定所での求人閲覧を求職活動の一種と解釈しているゆえ、公共職業安定所での求人閲覧が求職活動にあたるとはっきりした形で明示はされていないのである。
- 厚生労働省本省は、「公共職業安定所における求人閲覧は求職活動に該当しない」という解釈基準を示している。「求職活動」という概念が導入されてからすでに相当年数が経っており、可及的に本則に基づいた運用がされるよう厚生労働省本省は地方部局に対して指導を行っている。
- なお、求職活動を行ったということについて虚偽の申告を行えば不正受給となる。
[編集] 解雇の効力について争いがある場合について
解雇の効力を裁判や労働委員会で争っている場合については、「解雇は無効であり、従業員としての地位が存在する」という主張を行っているので、「失業」状態にはあたらず雇用保険の支給対象とはならない。しかし、現実の状態としては「解雇」されているので、労働者保護という関係上、このような場合については例外的に雇用保険金を受給することが可能である。この場合については、求職活動をしていなくても給付を受けることができる。敗訴した場合は雇用保険金を返還する必要はないが、勝訴した場合は雇用保険金を全額返還する必要がある。
[編集] 受給者が死亡した場合について
受給者が死亡した場合、前回の認定日から死亡した日の前日までの雇用保険金を遺族が受けることができる場合がある。(「未支給失業等給付」という)
- 「未支給失業等給付」は民法ではなく雇用保険法で定められた権利である。
- 雇用保険金の受給権は、受給者本人に一身専属する権利である。したがって、民法上の相続の対象とはならない。
- 「遺族」は、受給者と同一生計の者に限る。「同一生計」とは、受給者の収入により生計を立てていた者である。したがって、受給者の配偶者や子であっても、受給者の収入で生計を立てていない者は受給することはできない。一般に、受給者と同居していた場合は同一生計であったとみなされるが、別居していた場合は受給者から生活費の送金を受けていたことを立証する必要がある。
- 受給することができる者は、順に、死亡者の配偶者、子、父母、兄弟である。先順位者がある場合は後順位者は受給をすることはできない。同一順位者がある場合は、公共職業安定所は同一順位者の内の一人に全額を支給すれば足りる。
- 受給者が死亡したことを知った日の翌日から1カ月以内に公共職業安定所に対して請求することが必要である。
[編集] 処分に不服がある場合について
公共職業安定所長が行った処分(認定)に不服がある場合は、その処分があったことを知った日の翌日から60日以内に雇用保険審査官に対して不服の申し立て(審査請求)をすることが可能である。
- 雇用保険の処分に関する認定権限者は、自己の居住地を管轄する公共職業安定所長である。厚生労働省本省や公共職業安定所の上部機関である都道府県労働局は、個々の処分についての認定権限は持っていない。雇用保険に関する要望をこれらの機関に「直訴」する者がいるが、上記理由につき自己の居住地を管轄する公共職業安定所で相談するよう「助言」されることとなる。なお、雇用保険審査官は、公共職業安定所長と同格か、格下(職安の次長)クラスのポストである。
[編集] 雇用保険(失業給付)の問題点
失業認定が甘きに失するのではないかということが指摘される。すなわち、仕事を探しているかどうかということを実質的に検証されることなく失業給付が行われているのが実情ではないかということである。失業認定が容易になされることから雇用保険給付を「退職金」と揶揄する者や、失業給付を受けている期間はあえて働かず雇用保険金を全額受け取ってから就職しようとする者も少なからず存在する。 「失業」の認定基準は、勤労に対する社会通念や時の政府の施策によって総合的に決定されるものである。したがって、失業認定が容易になされるということをもって直ちに失当であると言うことはできない。「失業」の認定基準は不動のものではなく、今後の社会情勢の推移により失業給付が厳格化することは想定し得ると言えるものである。
厚生年金と雇用保険の併給についても指摘される。厚生年金と雇用保険は別個の法律に基づき受給権を得るものとされているゆえ、 厚生年金と雇用保険の双方を併給すること自体に矛盾があると言うことはできない。ただ、厚生年金と雇用保険の同時受給は、いわば「二重支給」であり、国が行う社会保険制度として一貫性、整合性を欠くのではないかと批判されるところである。実質的に見ても、厚生年金の受給を希望する者は勤労生活から引退する意向であり、「失業」とは言えない場合が多いものである。 この問題に対して、雇用保険と厚生年金は同時に受給できない(すなわち、65歳に達するまでの者について、雇用保険の給付を申請した者は雇用保険の支給が終了するまでの期間は厚生年金の給付が停止する)措置がとられている。
[編集] 基本手当以外の求職者給付
公共職業訓練の受講の指示を受けた者に対する「受講手当」(職業訓練を受講した日1日あたり500円)、「通所手当」(原則、公共交通機関の乗車料金の実費)が存在する。公共職業訓練の受講指示を受けた者は、所定給付日数の給付を受けた終えた後でも訓練修了まで引き続き延長して基本手当、受講手当、通所手当の給付がなされる(「訓練延長給付」と言う)。 なお、これらの給付については、基本手当の受給資格のある者が対象である。
広い範囲で就職活動を行う際に支給される「広域就職活動費」や、就職に当たって住居を移転する場合に支給される「移転費」という制度が存在する。
「受講手当」、「通所手当」、「訓練延長給付」、「広域就職活動費」、「移転費」は、公共職業安定所の専門的裁量に基づき支給対象とされた者に対して支給される。したがって、これらの給付については、申請すれば当然に支給対象者と認められるといった性質のものではない。
[編集] 雇用保険(失業給付以外)
主として失業の予防を目的とする給付である。
- 教育訓練給付
- 育児・介護休業給付
- 高年齢雇用継続給付
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 雇用保険法(法令データ提供システム)