三角合併
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三角合併(さんかくがっぺい)とは、企業合併の方法の一つで、会社の吸収合併を行う際に、存続会社の親会社の株式を交付することによって行う合併をいう。その手法上「合併」という言葉を使っているが、実態としては株式交換に類似する。日本では、三角合併が会社法上制定され、施行前の段階にある。
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[編集] 概要・効果
一般的な吸収合併の場合、消滅会社(吸収される会社)の株主は、それまで保有していた消滅会社の株式数に応じて、存続会社(吸収する会社)の株式の交付を受ける。つまり、合併に伴って、消滅会社の株主は存続会社の株主となる。結果として、存続会社の株主は、元の両会社の株主が混在することになる。
これに対し、三角合併の方法によると、消滅会社の株主には「存続会社の親会社」の株式を交付されることとなる。このため、存続会社が100パーセント子会社である場合には、合併の終了後も存続会社が100パーセント子会社である状況には変化がなく、存続会社の親会社の株主が増加するように合併を設計することができる。
この仕組みによれば、外国会社が日本に受け皿としての100パーセント子会社を設置し、その会社と日本の既存の会社とを合併させて買収し、買収後も日本の既存会社を100パーセント子会社として保持する仕組みを可能とする。
[編集] 日本での導入
会社法の制定に伴い、これまで合併時に消滅会社の株主に交付すべき合併対価が存続会社の株式および交付金に限定されていたものを、広く財産的価値を有するものを交付することができるという合併対価の柔軟化の改正が行われた。会社法全般は主に2006年5月1日に施行されたが、合併対価の柔軟化にかかる改正の部分の施行については、会社法の施行後から1年後とされ現在のところ2007年5月1日の施行が予定されている。
[編集] 懸念
三角合併の交付を含む合併対価の柔軟化については、日本企業に対する外国資本による買収を増加させる懸念があるとの指摘が日本財界などを中心に起こった。また、労働者側では、利益が上がっても、三角合併の買収防衛策で株主優先で、給与等の伸びの鈍化が懸念材料になっている。
なお、合併に当たっては合併の当事者間で合併契約などの締結が必要であり、合併当事者となる会社の意思決定のプロセスは通常の合併の場合と変わらない。ただし、公開会社の株主が譲渡制限株式等の法務省令により定めるものを合併の対価として受け取る場合には、通常の株主総会における特別決議より重い要件による特殊決議によることが求められている(下記参照)。
(会社の種類) | (合併対価として交付される物) | (消滅株式会社側に要求される株主総会など) |
下記以外の場合 (・金銭が交付される場合や親会社株式が交付される場合を含む) |
特別決議(309条2項11号) | |
吸収合併消滅株式が種類株式発行会社でない |
・譲渡制限株式 |
公開会社のとき →特殊決議(309条3項2号) |
・持分会社の持分 |
総株主の同意(783条2項) | |
吸収合併消滅株式が種類株式発行会社である |
・譲渡制限株式等(上記に同じ) |
その割当を受ける種類株式に譲渡制限がかかっていなかったとき →その種類株式の種類株主総会での特殊決議(783条3項,324条3項) |
・持分会社の持分 |
その割当を受ける種類株式の種類株主の全員の同意(783条4項) |
[編集] 課税上の取り扱い
現行(2006年時)の税法上では、三角合併が仮に行われても、対価としての株式の受領にともない外国株主が課税を受ける可能性がある。 2000年の株式交換制度の導入、2001年の会社分割制度の導入時の議論と同様、三角合併実行時に株主に対する課税の繰り延べが行われるかどうかが一つの焦点となっている。
株式交換・会社分割とは異なり、三角合併は外国への株主への課税がからんでおり、安易に課税の繰り延べを認めると、日本に入るべき税収が海外に流出してしまう懸念があるため、同様の経済効果を生むスキームについて課税の繰り延べを認めることにこれまで国税は慎重な態度をとってきた。
2007年2月現在、三角合併制度においても課税の繰り延べを認める方針であることが報道されているが、詳細(具体的な税法規定)は未だ明らかになっていない。