保釈
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保釈(ほしゃく)は、住居限定や保証金の納付を条件として、勾留されている被告人の身柄の拘束を解く制度である。
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[編集] 概説
勾留の目的は罪証の隠滅を防ぎ、公判や刑の執行への出頭を確実にすることにある。このような目的を達するには、直接、被告人の身柄を拘束する方法以外にも、約束に違反した場合には金銭を没収するという心理的な強制を加える方法でも可能である。
また一方で、被告人を拘束し続けることは、社会復帰を阻害することになりかねないという欠点がある。後に無罪判決を受けた場合はもちろん、執行猶予判決の場合であっても、判決前に長期欠勤を理由に解雇されてしまうという例は珍しくないからである。保釈制度の趣旨は、被告人の出頭確保などによる刑事司法の確実な執行と、被告人の社会生活の維持との調整を図ることにある。
日本では刑事訴訟法88条以下に規定がある。なお、日本法上は起訴後の保釈のみが認められており、起訴前の保釈の制度はない(刑事訴訟法207条1項ただし書)。
[編集] 保釈の種類
- 権利保釈(請求保釈、必要的保釈ともいう。刑事訴訟法89条に規定。)
- 保釈請求権者(勾留されている被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹)から請求があった場合は、裁判所は保釈を許さなければならない。ただし、次の6つの場合は、裁判所は請求を却下することができる。また、禁錮刑以上の判決が出た場合は権利保釈は認められない(同法344条。一審で実刑判決の場合でも控訴審で再保釈が認められることがあるが、これは次項の裁量保釈である)。
- 死刑、無期又は短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯した場合(同条1号) 「短期1年以上」とは、「2年以上の懲役に処する」(非現住建造物等放火罪)など、法定刑の刑期の下限が1年以上であることをいう。
- 過去に、死刑、無期又は長期10年を超える懲役・禁錮に当たる罪について有罪判決を受けたことがある場合(同条2号) 「長期10年を超える」とは、「15年以下の懲役に処する」(傷害罪)のように、法定刑の刑期の上限が10年を超えることをいう。
- 常習として、長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯した場合(同条3号)
- 罪証隠滅のおそれがある場合(同条4号)
- 被害者や証人に対し、危害を加えるおそれがある場合(同条5号)
- 氏名又は住所が明らかでない場合(同条6号)
- 裁量保釈(職権保釈ともいう。刑事訴訟法90条に規定。)
- 裁判所は、請求がなくても、裁量で保釈を許すことができる。もっとも、実務上は、弁護人等からの保釈請求があった場合に、裁判所が、89条4号などに当たるとしながらも、諸般の事情に照らして保釈を許す場合に用いられ、請求がないのに職権で保釈する運用はされていない。
- 義務的保釈(刑事訴訟法91条に規定)
- 勾留による拘禁が不当に長くなった場合は、裁判所は保釈を許さなければならない(実務上、本条によって保釈が行われることはあまりない)。
[編集] 保釈の手続
[編集] 請求
保釈は、裁量保釈も含め、弁護人等の請求に基づいて行われるのが一般的である。
保釈の請求先は、次のとおりである。
- 起訴~第1審における第1回公判期日前まで:裁判官(刑訴法280条)
- 保釈の許否の裁判に対する不服申立ては、地裁への準抗告→最高裁への特別抗告
- 第1審の第1回公判期日から高裁に記録が到着するまで:第1審の裁判所
- 不服申立ては、高裁への通常抗告→最高裁への特別抗告
- 高裁に記録が到着してから最高裁に記録が到着するまで:控訴審の裁判所
- 不服申立ては、別の高裁の合議体への異議申立て→最高裁への特別抗告
- 最高裁に記録到着後:上告審の裁判所
[編集] 保釈許可決定
裁判所(裁判官)は、保釈の許否を決定する前に、検察官による請求による場合と急速を要する場合を除いて、検察官の意見を聴かなければならない(刑事訴訟法92条)。
保釈を許す場合は、保釈保証金(いわゆる「保釈金」)の額を決める。その金額は、犯罪の性質・情状、証拠の証明力、被告人の性格・資産を考慮して、被告人の出頭を保証するのに過不足ない額を算出する。大抵は保釈される被告人の逃亡のおそれがないような金額が設定される(刑事訴訟法93条1項、2項)。
また、保釈後の住居(制限住居)を指定するなどの条件を付けることができる(刑事訴訟法93条3項)。
[編集] 身柄の釈放
保釈が許可され、定められた保釈保証金を裁判所に納付した場合は、身柄が釈放される。保釈保証金の納付前には身柄を釈放することはできない(刑事訴訟法94条1項)。
保釈保証金は、現金で納付するのが原則である。ただし、特に裁判所の許可があった場合は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書をもって保証金に代えることができる。
[編集] 保釈の取消し
以下のような場合は、裁判所は保釈を取り消すことができ、保証金の全部又は一部を没取(ぼっしゅ。「没収」と区別するため、あえて「ぼっとり」と読むこともある)することができる(刑事訴訟法96条)。
- 正当な理由なく出頭しない場合
- 逃亡した、又は、逃亡のおそれがある場合
- 罪証を隠滅した、又は、隠滅のおそれがある場合
- 被害者や証人に危害を加えた、又は、危害を加えるおそれがある場合
- 住居の制限などの保釈の条件に違反した場合
保釈が取り消されると、被告人は収監されることになる(刑事訴訟法98条)。
[編集] 保釈の失効
禁錮以上の刑に処する判決(実刑判決)の宣告があったときは、保釈が失効するから、被告人は収監されることになる(刑事訴訟法343条)。ただし、控訴・上告に伴って(控訴・上告の提起前でも)、裁判所は再び保釈をすることができる。この場合、権利保釈の適用はない。なお、上級審での再保釈時の保釈保証金は、下級審で未返還の保釈保証金をその一部に充当することができる。
[編集] 保釈保証金
保釈保証金とは、既述の通り、身柄を釈放する代わりに、公判への出頭等を確保するために、預けさせる金銭のことである。
裁判が終了し判決が確定するまでに、被告人に対し保釈取消しがされなければ、判決確定後に保釈保証金は返還される。また、被告人の死亡等に伴い公訴棄却が決定した場合でも、保釈保証金は返還される(この場合は被告人の親族又は後見人が受取人となることがある)。保釈が取り消された場合は、保釈保証金は全額又は一部が没取されることになる。
日本における保釈保証金最高額は牛肉偽装事件における浅田満ハンナン会長の20億円である。また、保釈保証金没取最高額は許永中の保釈中の逃亡による6億円である。
なお、保釈保証金の「相場」は、たとえば大阪地裁についていえば、近年、弁護士の間では「最低150万円程度が必要」といわれているが、保釈保証金が高額化することについては「人質司法である」との批判も多い。
[編集] 保釈率
『平成15年版 犯罪白書』によると、2002年(平成14年)のデータは以下のようになっている。
第1審で有罪又は無罪の判決が出た者のうち、一度でも勾留された者の割合は、地方裁判所では79.9%、簡易裁判所では87.8%。そのうち、保釈をされた者の割合は、地方裁判所では13.4%、簡易裁判所では5.9%。
[編集] 関連項目
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