修道院
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修道院(しゅうどういん、Monastery)とは、キリスト教において修道会の会員がイエス・キリストの精神に倣って祈りと労働のうちに共同生活(修道生活)をするための施設。観想修道会の会員は原則的に修道院を出ずに生活するため、修道士たちが自由に行き来することが可能な唯一の場所になる。
[編集] 概説
古代教会の時代、洞窟、断崖絶壁の頂、あるいは地面に立てた柱の頂きで1人で修行し、隠者のような生活を送るキリスト教徒がいたとされるが、古代末期のエジプトから砂漠に逃れて集団で求道生活を共にするという動きが始まった。これはもともとローマ帝国による迫害の終焉に伴い、より徹底したキリスト教徒の生活を求めた人々が始めた運動であった。 このような生活スタイルはやがてアイルランドに伝わり、アイルランドの修道者たちがイギリスやヨーロッパ本土において、人里はなれた土地を開いて修道院を建て神と共にある生活を営む修道院のスタイルを広めたといわれる。
現代の修道院は全てがそうとはかぎらないが、伝統的な形式を持った修道院には、聖堂、修室(回廊)、図書室、厨房などがある。観想修道会の修道院で修室がある場所や部外者が入ることがゆるされない場所を「禁域」(クラウズーラ)と呼ぶことがある。ヌルシアのベネディクトゥスが、「すべて労働は祈りにつながる」と言ったように中世以来の修道院では自給自足の生活を行い、農業から印刷、医療、大工仕事まですべて修道会の一員が手分けして行っていた。そこから、新しい技術や医療、薬品も生まれている。ヨーロッパに古くからある常備薬の中には、修道僧や修道女の絵柄がよくみられるのはそのためである。ヨーロッパのビール、ワインは今でも修道院で醸造されているものも多い。
また、医療、病院もそのルーツは修道院にある。旅人を宿泊させる巡礼者を歓待する修道院、巡礼教会をいうホスピス(hospice)、がんで余命いくばくもない人が最後の時間を心やすく過ごすための施設、ホスピスに転嫁したこと、歓待する(hospitality)が、病院(hospital)の語源でもあることはあまり知られていない。
世界的に有名な修道院としては、カトリック教会のモンテ・カッシーノ(ベネディクト会)、東方正教会のアトス山、メテオラなどがあり、日本ではカトリック教会のトラピスト修道院が大分や函館にある。最初に述べたようにトラピスト会のような観想修道会に所属する会員(修道士)は、基本的には自分の修道院から出ることは出来ない。