書類チューン
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書類チューン(しょるいちゅーん)とは、実際には改造されていない車両に関してあたかも改造したかのように装って申請書類を作成し、従来とは異なる区分に登録させるように申告する違法行為の通称である。その目的は主に『税に関する虚偽申告』および『交通法規における扱いの変更』の2点である。後者を目的として第二種原動機付自転車(原付二種)を登録する際に行われることが多く、本項ではそれについて説明する。
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[編集] 背景と目的
排気量50cc以下の原動機付自転車(原付一種)には、それより排気量の大きい二輪車や四輪車とは異なる交通法規上の制約(制限速度が30km/h・片側三車線以上の交差点での二段階右折)が定められている。この制約に縛られたくなければ、しかるべき免許を取得した上で、原付一種ではなく自動二輪車に乗る必要がある。最も費用が安く済む方法は、小型自動二輪車(原付二種)を運転できる普通二輪免許(小型限定)を取得し、小型自動二輪車に乗ればよい。
ところが日本国内で販売される二輪車のラインナップにおいては原付二種の車種が多くない。また、駐輪スペースや経済性の面から排気量の大きい二輪車を避けたい場合がある。そこで比較的安価であり車種も豊富な原付一種の車両を、ミニカーもしくは原付二種として登録したい場合が出てくる。
ホンダ・ジャイロのような三輪スクーターの場合は後輪のトレッドを広げてミニカーとして登録することも可能であるが、一般的な二輪の車両ではこのような改造は不可能に近い。そこで多くの場合原付二種として登録するわけだが、通常これにはエンジンをボアアップして50ccを超える排気量をもたせる手法がとられる。この手法では市販のボアアップキットを購入しなければならない点、改造を行うための知識と技術が必要になる点がネックとして挙げられる。
そこで何らかの理由を付けて、対象となる原付一種の車両のエンジンを実際には全く改造せず、排気量を大きくしたように書類上見せかけて管轄の地方自治体に原付二種として申告するという行為が考え出された。この申告が認められると、対象となる車両は道路交通法における小型自動二輪車として運転でき、先に述べた原付一種特有の制約がなくなることになる。しかしながら、この行為は後述するように違法行為である。
[編集] 申告の内容
たとえ改造を書類上申告することであっても、その内容に蓋然性がなければ認められない。排気量を増加させる理由・改造方法・改造作業実施者・使用した部品・改造後の状態などに関して充分に把握し説明できるようにしていなければならない。課税額が増えることも承知している必要がある。
この虚偽の申告について、どのように取り扱われるかは自治体による。書類の他に図面の提示が求められる場合,現車を見せるよう要求される場合などがあり、要求を満たせない場合は申請が却下される。
[編集] 運転免許
原付一種は原付免許やそれを包含する普通免許等の運転免許で運転できるが、小型自動二輪車は普通二輪免許(小型限定)またはそれを包含する上位の自動二輪免許が必要となる。書類チューンした車両は原付二種として登録されているので、これを原付免許や普通免許だけで運転すると道路交通法違反(無免許運転)となる。
[編集] 積載人員・重量
原付一種に関しては定員1名・積載量30kgまで、小型自動二輪車では定員1名(ただし乗車装置が装備されている場合は2名)・積載量60kgまでと定められている。原付二種の車両は相応の車体強度を持つ構造となっており、ブレーキも充分な制動性能を持つものが装備されるなど安全面で配慮された設計がなされている。さらに2名乗車が可能な場合には安全な乗車に不可欠な装置(シート・グリップ・ステップ)が装備されている。一方、原付一種の車両ではこれらの装置を持たないため、書類チューンをしただけでは2人乗りのための要件は揃わない。もっとも、外国では法的に50ccでも二人乗りをしてよい国もあり、そういった外国製の50cc二輪車の中には、前述の装備を搭載しているものもある。
市販されている原付二種の車両は、運転者用以外の座席があるものは二人乗りが合法的に可能である。そのため、原付二種として登録さえすれば合法的に二人乗りが行えると誤解されることがある。しかし書類チューンした車両では実態が原付一種のままであり、また、運転者用以外の座席がないため二人乗りは認められない。
[編集] 《補足》構造変更申請の可能性について
書類チューンで原付二種と登録された車両(実態は原付一種)に対し、仮に強度や安全性の向上を目的とした改造を行ったとしても、一般的な使用者がその認可を申請する車検制度はそもそもこの区分に存在しない。公道での運行に問題がない車両であることを審査・認可するのは担当省庁の国土交通省であり、申請は車両を製造・販売するメーカーが新型車両の開発段階で行う。これ以外の許認可制度はない。
したがって、仮に必要充分と考えられる改造を使用者が実施したとしても、当初原付1種として製造された車両が2名乗車可能な原付二種として後から合法的に認可されることはあり得ない。
もっとも使用者が申請できるような許認可制度が存在したとしても、申請には実際の改造が必要となり、それはもはや書類チューンの域を超えている。
[編集] 行為の罪状・罰則
未改造の原付一種車両を原付二種として登録する行為は税の視点から捉えれば課税庁に対する過大申告であり、過少申告の脱税ではない。しかしこの行為は課税庁に対する虚偽の申告に該当し、地方税法第448条(軽自動車税に係る虚偽の申告等に関する罪)に基づき5万円以下の罰金に処せられる。岡山県倉敷市(下記リンク参照)のように、その旨を明示している自治体もある。
さらに、公務員に対して虚偽の申し立てを行いその内容を公的な書類(管理台帳)に書きこませる行為であると解釈すれば、公正証書原本不実記載(刑法第157条)にも問われる可能性がある。
[編集] 行為に伴う不利益等
仮に書類チューンで車両を登録できたとしても、事故が発生した場合や虚偽申告の事実が発覚した場合などにおいて、損害賠償保険が適用されないなどの不利益を被る可能性がある。