発光バクテリア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
生物発光を行うバクテリアを発光バクテリア(はっこうバクテリア)といい、そのほとんどが海産である。身近なところでは、魚屋にあるイカの体表面に生息しているのがよく観察される。
刺身用のイカを購入し、その切り身を塩水に浸し、一昼夜放置する。すると、イカの切り身表面に青い光を発することを確認できる。この青い光の原因が発光バクテリアである。
切り身の上で、一昼夜放置している際に発光バクテリアは増殖し、コロニーを形成する。このようにコロニーを形成すると、微弱ながら発光をするようになる。その発光色は青や黄色など、種によっても異なり、たとえば Vibrio fischeri では主な波長は 475 nmと報告されている。
発光バクテリアの中でも、発光強度が高いものではPhotobacterium phosphoreum が挙げられる。これも青色に発光する。この種のバクテリアは室温(20-25℃程度)で十分に成長するので、特別な培養器具を必要とはしない。 また、発光バクテリアの発光には一定の塩分濃度を必要とする。このため、大気中の雑菌をある程度、防げるという点と、万が一、実験室内でこぼしたとしても、生存することが出来ないので比較的安全であり、教育目的の実験生物として適している。
発光バクテリアには海中を自由に漂っている自由生活型の細菌と、マツカサウオなど一部の発光魚(発光バクテリアを増殖させるための発光器官をもつものがいる)と、共生関係を結んでいる細菌の二種類の生活型が存在する。 発光バクテリアの発光する理由は明らかではなく、謎に包まれた部分が多いが、共生生活型の細菌ではその理由は明らかである。宿主である魚類が細菌の発光を制御することにより、獲物の捕獲、またはその逆で逃げる場合のめくらまし、誘導灯として用いていると考えられる。その制御方法については、後述してあるクオラムセンシングによるものが、そのひとつとして挙げられる。
発光バクテリアの発光に与る酵素は、ホタルなどの他の発光生物同様、ルシフェラーゼという名称がつけられている。ルシフェラーゼを産生する際、菌体数がある濃度を超えている必要がある。このように、物質の産生に関して、密度依存性がある機構をクオラムセンシング(quorum sensing)という。光る、という非常にわかりやすい特徴から、発光バクテリアでこの機構が発見されたが、発光バクテリアだけでなく、様々なバクテリアで見られる。
発光バクテリアの人工培養は簡単に行える。適当な栄養源さえあれば、様々な培地で育てることは可能であるが、前述したように、食塩を添加し、濃度を海水と同じ(3%程度)にする必要がある。pHも調整は必要であり、pHは7.2前後、つまり弱アルカリ性にする。
最も簡単な培地の作成方法として、イカの煮汁を用いる方法が挙げられる。まず、切り身のイカを煮込む。これに3%の食塩を加えて、オートクレーブなどで滅菌を行うと、液体培地として用いることが出来る。また、この液体培地に、寒天を加えて固めると、固形培地となる。このさい、寒天濃度は、1~3%程度が良い。
発光バクテリアを用いた応用としては、環境計測センサー、毒物センサーが挙げられる。 発光バクテリアの光る強さは、毒物などを入れると、弱くなってしまう。 このことを利用して、簡易的に環境に含まれる毒物の量などを計測することが出来る。