白杖
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白杖(はくじょう)とは視覚障害者が歩行の際、路面状況を触擦し、また、ドライバーや他の歩行者、警察官などに注意を喚起して、視覚障害者が安全に街路を歩行できるようにするための、直径2cm程度、長さ1mから1.4m程度の白い杖。
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[編集] 概要
これらは木や竹、軽金属等の各種素材で作られるが、近年ではグラスファイバー・カーボンファイバー等を用いた丈夫で軽量な繊維強化プラスチック製など、非金属製のものが多い。なお先端で物を叩く音により、周囲を認識するためにも用いられるため、石突(先端部)は一般的な歩行補助器具としての杖とは違い、滑り止めのゴムなどは取り付けられておらず、硬質の素材(金属やプラスチックなど)となっている。
身体障害者福祉法や福祉用具の分類では盲人安全つえという名称で呼称されている。色は、白い杖と黄色い杖がある。ものによっては地面側20センチくらいが赤色に塗装されているものもある。またその役割には他に、障害物や危険からの防御の目的や、存在を周囲に知らせるためというのもあり、特に 「存在を周囲に知らせるため」に関しては、結果的に周囲の援助が自然に受け入れられることに大きな意味がある。また、そのような理由により夜間に車両から視認しやすいよう、反射材を巻き付けてある製品も多い。
中世で視覚障害者が歩行の際に使用していたと思われる細い竹の棒に代わるものとして使われている。英語ではケーン(Cane:【意味:葦(あし)・さとうきび、のような中が中空になっている植物】)と言うがこれは杖の形態を表したものといえる。これらは中空と成っていて軽く、また適度に固いために地面を叩いた時と石を叩いた時で明らかに音が違う。今日の白杖も、同様に使用者に通路の様々な情報を、音によって与えている。
[編集] 白杖のはじまり
昔から、盲人にとって、杖は歩くためには欠かせない道具であったが、現在のように、白くて光沢のある塗装を施した杖を考え出したのは、フランスのある警察官の婦人で、彼女は1930年頃、自動車の増加に伴って、視覚障害者が交通の危険にさらされているのを見て、ご主人の使っていた警棒からヒントを得て、現在の形の物を考えつくとともに、視覚障害者以外の人の人が白い杖を携行することを禁止させたという。、
[編集] 形態について
ストレート(直杖)、折りたたみ式、スライド式の三種がある。
ストレート式は主として視覚障害者の単独歩行を目的とした長めの杖(long cane)であり、折りたたみ式とスライド式は視覚障害者であることを周囲に知らせることを主目的として利用される(ID cane)。
- ただし、実際の利用に際しては必ずしも上記の分類通りとはならない。交通機関の利用や着座時の収納性を考えて、直杖では無くやや太めのID caneを単独歩行用に利用するユーザも多い。
- 折りたたみ式の特許所持者は静岡県浜松市の斯波氏のものであったが、いまは特許権が切れている。
- グリップ(握り)は主としてゴルフクラブの物を流用したものが多いようだ。
なおlong caneでは少々無理な力が掛かっても破損し難いように作られてはいるが、ID caneの場合では雑踏に於ける人との衝突や、路面の隙間に突っ込んでしまうと、アルミパイプで作られた物などでは簡単に曲がってしまうケースも見られる。周囲の無理解が、この杖破損に繋がる事もあるので、注意が必要である。
また近年では、超音波センサーなどを組み込んだ高機能化を図るための物も試作されており、視覚障害者の自立を目指して様々な研究が行われている。
[編集] 適した長さ
一般的に言われるのは白杖を垂直に立ててわきの下に挟まる程度がよいとされている。それより若干長めのほうが具合がよい。 また、肩にちょうど合わせる人もいる。
[編集] 使い方
地面をスライドさせる「スライドテクニック」と離れた2点をタッチしながら歩く「タッチテクニック」とがある。スライドテクニックでは地面の凹凸に敏感に対応できるが、タッチテクニックでは音で周囲にその存在を知らせる効果が高いようだ。
[編集] 法律上の問題について
以下のとおり、道路交通法で規定がある。
第14条(盲人及び児童等の保護)によれば、以下のとおりである。
1.目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。
3.警察公務員等は、交通が頻繁な道路において遊んでいる児童、保護者なしで道路を歩行する幼児又は白色の杖を携えない前を見ることができない者を発見したときは、その児童、幼児又は前を見ることができない者の安全のための適切な措置を採らなければならない。
なお視覚障害をもちながら白杖を持たずに外出して事故にあった場合には、視覚障害者側の過失として責任を問われることになっている。
[編集] 手引きについて
視覚障害者は歩くときには神経を白杖の先に集中させていることが多いので、手引きをする者が相手の白杖を持っているほうの手や白杖自体を持って誘導することは、却って歩行時の情報収集のさまたげになる。利き手の反対側に回る配慮が必要だろう。
また見えないという事は、相手の人相・風体も判りにくく、またその動作も把握しがたい。故に相手がどんな目的で手を引っ張っているのか判じ難い事である。最も禁忌されるのは、無言でその腕を掴む事で、これは視覚障害者にとっては、さらわれたり物陰に連れ込まれて暴行を受けるのではないか?とする恐怖を感じる瞬間であるという。また、相手の背中や肩に手を添えて誘導するのも、後ろから押される形となることから、誘導される側に極度の不安感を与えるため好ましくない。
手を引いて案内する場合に最も良いとされるやりかたは、「お手伝いしましょうか?」や「よろしければご案内しましょうか」などと誘導する側が一声掛け、手を出されたら腕を差し出して掴ませる(腕の動きで誘導する側の動きが誘導される側の視覚障害者に伝わると同時に、不審な時にはいつでもそれを放して逃げ出せる)事で案内する方法だという。この方法で導き、段差などがあるときは一声掛けられると、とても安心できるとの事だ。この場合、腕ではなく手を軽く添えるというやり方もあるが、ガッチリと握られるとやはり不安を煽るので、軽く手を包む程度に留めたい。
また案内するにしても余りに懇切丁寧過ぎると、迷惑なのではないかと恐縮してしまうケースもあるという。あくまでも「ちょっとした気遣い」という事であれば、点字ブロックや手すりなど、自力で行動するのを助ける物がある位置までの誘導でも、充分な助けといえよう。人によっては通い慣れた道であれば自分なりの歩行ルート(メンタルマップ。頭の中で構成してある道順)を確立している場合もあり、予定外の障害物を回避する補助さえしてやれば、後は自力で行ける事さえあるという。
施設や道路工事現場の警備員では、近年のバリアフリーにも絡み、そのような対処を教育するケースも見られる。