直巻整流子電動機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
直巻整流子電動機(ちょくまきせいりゅうしでんどうき)とは電機子巻線と界磁巻線とが直列に接続されている電磁石界磁形整流子電動機である。 同じ構造で交流直流両用の交流整流子電動機がある。
目次 |
[編集] 特徴
[編集] 利点
- (ただし、分巻電動機を制御して回生制動を含めシームレスに制御する方式もある)
[編集] 欠点
- 「整流」でブラシや整流子の磨耗が起こる為、保守に手間がかかる。
- 高負荷高速運転時などでは整流子間の閃絡(フラッシュオーバー)などの重故障を起こしやすい。
- 無負荷運転を行うと過速度により電動機の破壊に至る場合があるため、無負荷運転を行う可能性のある用途には選定しないことや、速度超過時に通電を遮断する安全回路を設置するなどの注意が必要である。
- (直巻電動機の理論的な無負荷運転速度は無限大)
[編集] 速度制御・起動法
[編集] 抵抗制御
許容電流内に抑えて起動させるために、電動機の発電電圧と電源電圧との差を抵抗器に負担させる起動法を「抵抗制御」という。
抵抗値の基準は電源電圧から電動機の発電電圧を引いた値(=閉回路電圧)を許容電流で割った値を全抵抗とする、すなわちその抵抗値から電機子抵抗等を引いた値が起動抵抗となり加速とともに次第にゼロになる。 起動時の電動機の軸出力は速度×トルク(界磁の磁気飽和によりほぼ電流比例)に比例する。
抵抗器負担分は総て熱損失となる。
抵抗制御で抵抗損を減らすために複数の電動機を直列にして起動し、起動抵抗がゼロになると並列につなぎ変えて抵抗起動を全電圧まで続ける方式を「直並列制御」と呼ぶ。
直列-並列切り替え時に抵抗器と電動機がブリッジ回路を構成して遮断電流をゼロにする切り替え方式を「ブリッジ渡り」と呼び切替時の衝撃が少ないので電車に多用された。
[編集] 弱界磁制御
直列抵抗ゼロ以降の増速に、界磁磁束(励磁電流)を減らして電気子の回転数を上げる制御を「弱界磁制御」もしくは「弱め界磁制御」と呼ぶ。電動機の発電電圧は界磁による磁束と回転数に比例するので、電圧・電流一定のまま回転数を上げるには磁束を速度に反比例で減じればよい。直巻電動機の抵抗制御では、直巻界磁巻線に流れる電機子巻線電流を抵抗に分流させて磁束を小さくして高速回転を得る。
弱界磁制御領域は電流を限界値一定に制御するので「定電力=定出力領域」「トルクが速度に反比例領域」である。 特性図で見る限り、弱界磁制御の最小磁束は起動時の67%前後が多いが、鉄道での「弱界磁率」は励磁電流比で定義されていて50%~33%程度とされている。この値の違いは界磁の磁気飽和に拠り電流を増やしても磁束が増えなくなるためである。
印加電圧を自由に選べる交流専用電車の場合には弱界磁制御を用いず、供給電圧だけで制御する(後述交流専用車での制御項参照)。結局「弱界磁制御」は直流一定電圧給電で高速回転を得る技術である。
[編集] (特性領域)
界磁の磁束は、整流を悪化させない範囲で弱めるが、それ以上は電流減に反比例して速度が上がる直巻電動機の「特性領域」となり軸出力は速度に反比例(トルクは速度の2乗に反比例)する。この「特性領域」速度範囲が広いことから「電鉄用電動機に適する」として多用されてきた。
[編集] 界磁添加励磁制御
(弱界磁制御と)回生制動制御を、別電源を設けて直巻界磁巻線に制御電流を重畳して行う方式で、別電源で励磁電流が制御される間は界磁が電機子電流に依らない実質分巻特性となる。起動は抵抗制御である。
[編集] 電機子チョッパ制御
大電力半導体(主にサイリスタ)でチョッパ回路を構成して、電動機の回転数に見合った電圧を供給して起動する方式。チョッパで断の瞬間は、通電時にコイル(平滑リアクトル)に蓄積したエネルギーを電動機に供給するので起動抵抗損が発生しない。
しかしながら、抵抗損は低速度域しか発生せず、電源が供給する走行エネルギーは速度の2乗に比例するから全体の走行電力消費に対する抵抗損の割合は意外に小さく、高速度領域での回生制動を追求したほうが安価で高効率という判断から日本の私鉄では複巻電動機を使って起動は直巻電動機の抵抗制御、高速度域からの制動で分巻巻線電流を制御して回生制動する界磁チョッパ制御が主流になった。
仮に並列フルステップ速度を40km/h、運行時の最高速度を120km/hとすると、最高速度時の運動エネルギーの9分の1がフルステップ時の運動エネルギーで、直並列制御をした場合の抵抗損はその2分の1だから、全体の走行エネルギーの18分の1が抵抗損として増加するだけになる。それを高価な電機子チョッパ制御で回収するより、安価に実現できる高速領域からの回生制動で取り返す界磁チョッパ制御が有効だと私鉄各社が考えて回生制動車が多く採用された。
前出「界磁添加励磁制御」は、励磁用別電源を準備することで構造が複雑な複巻電動機の使用を避けて直巻電動機を回生制動時に実質分巻特性化して高速度域の回生制動を実現させ、起動は安価な抵抗制御で済ませる方式である。
[編集] 交流電化区間専用車での直巻電動機制御
交流専用車での電動機制御は基本的に電圧制御だが、具体的方法としては、当初交流電気機関車や新幹線0系電車にトランスのタップ切替制御が用いられ、大電力半導体の開発で国鉄711系電車に見られるサイリスタ位相制御が加わって回路の簡易化と無段加速が実現された。
交流から整流する場合は供給電圧を自由に設定できるから、速度に反比例してトルクが落ち軸出力が一定のまま増えないで整流子の整流が悪化する弱界磁制御は行わず供給電圧を上げている。711系では直流で375V120kW出力のMT-54をほぼそのまま電圧仕様を500Vに変えて150kW出力のMT-54Eとしている。最大電流がほぼ同じ=トルクが同じで電圧比例の最大出力となっている。交流専用車である初期の新幹線0系などでも711系同様弱界磁制御は行っていない。