界磁チョッパ制御
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界磁チョッパ制御(かいじ-せいぎょ)とは複巻電動機の分巻界磁電流をチョッパ方式で制御することにより回生ブレーキを使用可能とする速度制御方式である。回生ブレーキが使用できる制御方式には、界磁チョッパ制御登場以前にも電機子チョッパ制御などがあったが、電機子チョッパ制御は製造コストが高くなるが起動抵抗損分の省電力効果は回生可能エネルギーに比べて1/10~1/20と多くないため、抵抗始動はそのままに安価に回生ブレーキのみを実現するために開発された。
日本では民営鉄道・地下鉄での使用が主であり、JR各社で採用する車両は存在しない。国鉄時代に採用が検討され、実際に591系試験電車を用いた界磁チョッパ制御の試験が行われたが、その後構造の複雑な複巻電動機を使う界磁チョッパ制御より有利な直巻電動機の界磁添加励磁制御が開発されたため、採用は見送られた。
大手私鉄を中心に、界磁チョッパ制御を採用した車両が多数製作されたが、1990年代からVVVFインバータ制御が主流となったため、現在では新造される車両に採用されることが無くなった。
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[編集] 方式の概要
- 抵抗制御で始動する。
- その後、分巻界磁電流を制御して界磁の強さを変え、逆起電力の大きさによる速度制御を行う。
- 加速時は弱界磁制御を行う。
- 減速時は界磁を強め電機子の逆起電力を大きくし、回生制動を行う。
分巻界磁制御用の半導体素子は、界磁電流が電機子電流より少ないため、電機子電流を制御する電機子チョッパ制御より小容量で良い。また、励磁電源として直流電源が使用できるが、複巻電動機となるため過渡特性がやや悪くなる。抵抗制御で始動するため、エネルギー消費という観点では始動抵抗の使用時間・回数の少ない用途に適する。
[編集] 利点・欠点
- 利点
- 電気制動に回生ブレーキが使用できることから、消費電力量の節減が期待できる。
- 電機子チョッパ制御が主回路(電機子)を直接制御するのに対し、本方式は界磁電流のみを制御するため、半導体の容量を小さく抑えることができ、価格面で優位である。
- 0A(ゼロアンペア)制御を行うことにより、チョッパ制御を行う速度域では力行・制動操作に対する応答が極めて良好であり、これを利用して定速制御を実現することも可能となる(例:京成AE形等)。また、力行、惰行、制動の切り替わり時のショックを小さくすることができる。
- 分巻界磁電流で逆起電力を高めることができるため、回生ブレーキの失効速度を低くできる。
- 弱め界磁起動をすることで発車時のショックを小さくすることができる。
- 欠点
- 力行時の定引張力領域(起動時からおよそ全界磁定格速度の前後まで)では抵抗制御(と直並列制御の組み合わせ)であるため、抵抗器の発熱による損失は免れない。また、電機子チョッパ制御のような連続制御による粘着性能の向上、ならびに加速時の前後衝動の改善は期待できない。
- 複巻電動機が架線電圧の急激な変化に弱い傾向がある。
このほかに、低速域側で回生ブレーキが効く範囲が狭い、すなわち「打ち切り」が早いという欠点がある。このため、電力回生効率の点では電機子チョッパ制御に及ばないとも言われるが、実際の運用では、電機子チョッパ制御において逆起電力不足により回生失効する方が深刻であり、実際の回生効率は界磁チョッパ制御車の方が高いと言われている。
[編集] 採用事例
- 8500系(元東急8500系)
- ※3400形の主制御器はAE形のものから定速制御機能をはずしたもので、本来が特急専用車用のため、制動時の直並列制御が無く低速では回生ブレーキを使用できない(回生失効速度45km/h)。
- 新京成電鉄
- ※1500番台・1600番台で採用。1700番台ではGTOサイリスタ使用のVVVFインバータ制御が採用されている。また現在1600番台の1649FがIGBT素子のVVVFインバータ制御に改造された。
- 7000系(現在順次IGBT素子のVVVFインバータ制御に改造中)
- 6000系(1次車は除く)
- 3000系(第16編成以降とデハ3100形は新製時から界磁チョッパ制御。第10~15編成は界磁抵抗制御から改造)
- ※超多段式バーニヤ制御を併用することで加速のショックを減らした。
- 伊豆急行
- 8000系(元東急8000系)
- 7000形(元京王3000系)
- 一部車両は2400系、2410(2430)系車両と連結している。
[編集] 関連項目
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