神の左手悪魔の右手
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『神の左手悪魔の右手』(かみのひだりてあくまのみぎて)は、楳図かずおの恐怖漫画作品。ビッグコミックスピリッツに1986年から1989年に連載されたほか、特別短編『おふだ』がある。また2006年に映画化された。
目次 |
[編集] 概要
恐怖漫画の第一人者が描く、純粋ホラー・エンターテインメント。絵そのものは緻密で美しいが、残酷なシーンが多く、血をみるのが苦手な人には向いていない。
[編集] あらすじ
主人公・想のまわりで起こるのは、いつも恐ろしい出来事ばかり。一体、何が夢で、何が現実なのか?想も、読者も、分からない!
[編集] 主人公
- 山の辺想(そう):いつも悪夢ばかり見て、周囲から弱虫と思われている。夢の中で恐ろしい出来事を解決するのだが、誰にも信じてもらえない
- ぬーめらうーめら:想が消しゴムに鉛筆で穴を空けて作った守護霊
- どんどろでんでろ、がんがろべんべろ:それぞれ、想が消しゴムに鉛筆で穴を空けて作った悪魔
- ヌーメラウーメラ:想が夢のなかで変身したもの。傷を癒す神の左手と、敵を倒す悪魔の右手を持っている
[編集] エピソード
- HORROR/1『錆びたハサミ』(原作の錆の字は、金へんに靑):呪いの錆びたハサミを拾ったことから始まる、想の姉を襲うスプラッター恐怖劇場。病院や周辺地域を舞台とする都市伝説的なストーリー
- HORROR/2『消えた消しゴム』:誤って殺してしまったはずのみどり先生が、次の日、平然と学校に出てくる。しかし、殺害に加担した生徒は、ひとり、ひとり消されていき、最後に想が残ることに
- HORROR/3『女王蜘蛛の舌』:避暑地の蜘蛛女が、医師である高品を夫にしようと追い回す。楳図かずおが大嫌いという蜘蛛だが、車にひかれたり鳥についばまれたりと、痛ましいシーンも
- HORROR/4『黒い絵本』:病身の少女を育てるやさしい父親は、実は殺人鬼だった。それも、少女向けに殺人絵本を書いては、そのストーリーを忠実に実践していたのだ!
- HORROR/5『影亡者』:恐怖の背後霊『影亡者』が、他人の守護霊を食い尽くす。影亡者に守られた者は強運をつかむが、守護霊が食われてしまうと、守る者を失った人間に厄災が降りかかるのだ・・・
- 『おふだ』:想は出てこない。4ページのスプラッター物。ページをめくった瞬間の衝撃が全て。
[編集] 夢か現か?
この作品のストーリーは、どこまでが夢でどこまでが現実なのか、容易な線引きを許さない構成をとっている。
想は眠っても必ずヌーメラウーメラに変身するわけではなく、想の姿のままで、出来事を解決することもある(女王蜘蛛の召使いに向かっては、これは夢だから、「お前を殺したっていいんだ」と、大バサミで胸を突き刺す)。カラスや姉になることもあり、夢から覚めるとき、しばしば夢の中から物を何か現実に持ち帰る(錆びたハサミ、女王蜘蛛)。
『錆びたハサミ』では、想は一矢先生の写真にふれただけで、一矢先生になって過去の恐怖を追体験してしまう。
『黒い絵本』では、病気の娘の父親が絵本を書きながら、そのストーリー通りに殺人を繰り返すのだが、父親はヌーメラウーメラによって、絵本の中の住人にされてしまう。いや、父親は最初から、娘の絵本の住人だったのだろうか。
さらに、霊魂という一般的な観念も、楳図の手にかかると、途方もなく複雑なものにされてしまう。霊とは一般的には死者の魂であるが、『影亡者』のエピソードでは、人が死ぬと霊になるだけでなく、霊もまた死ぬという。あの世の向こうに、もうひとつのあの世があり、影亡者は、もうひとつのあの世の住人らしい。
[編集] 論評
ギャグ、SF、少女物と多彩な経歴をへた円熟期の楳図かずおによる、ホラー度100%の純粋恐怖漫画である。スプラッター・シーンや霊魂といった恐怖物に一般的なテーマも多く、エンターテインメントとしての完成度が高い。
楳図かずおが子供というテーマに特別な思い入れをもっていることはよく知られているが、『神の左手悪魔の右手』もまた、子供ならではの恐怖感をうまく描いている。消しゴムに穴をあけて守護霊や悪魔にしてしまうなど、まさに、子供の感覚だ。
物語の最後のエピソード『影亡者』にいたって、ようやく、周囲は想の言うことが悪夢ではなく事実であると理解する。他方で眠りから覚めた想は、「そしてぼく夢の中で、お姉ちゃんになっていたんだよ。」「それでね、ヌーメラウーメラにもなったんだよ。それからね、影亡者をやっつけちゃったんだ。」「でも、みんな夢なんだよね」と語りだし、子供感覚から脱して大人への一歩を進む。だが、影亡者の脅威に現実にさらされ、想の発言を事実と知っている周囲の大人たちは、現実感覚の喪失にとまどうばかりだ。
子供的な現実と夢の未分離状態を、強引に大人の前に提示し、大人の現実感覚を揺さぶる手法を駆使したこの作品は、まさに楳図的な意味でのホラー作品と言っていいだろう。
[編集] 映画
2006年7月22日公開。 元は那須博之が監督を担当したが、監督の急死により金子修介に引き継がれた。 『黒い絵本』をベースに書かれた物語だが、主人公はソウ(小林翼)ではなく、姉のイズミ(渋谷飛鳥)。 楳図かずお本人も1シーンで出演。 R-15に指定されている。
[編集] キャスト
[編集] スタッフ
[編集] 外部リンク
[編集] 参考資料
- 『単行本未収録作品集・妄想の花園 ホラーの花園』(楳図かずお、小学館)に『おふだ』が収録されている
- 『恐怖への招待』(楳図かずお、河出書房新社)に、作者自身による解説がある
- 『ウメカニズム 楳図かずお大解剖』(小学館)
- 雑誌『ユリイカ 詩と批評』の2004年7月号が「特集*楳図かずお」を組んでいる