脈診
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脈診(みゃくしん)は、中国の伝統的診断法のひとつ。昨今の中医学では四診(望診・聞診・問診・切診)の一つである切診に含まれるが、本来、脈診は最も伝統的な診断法である。
身体をめぐる経脈(気血が流れるルートで、五臓六腑の経に心包経を加えた12経)の拍動を触れることによって、その身体の状態を推測し、各臓腑の陰陽虚実やバランスなどを調べ、病気の診断や予後の判定を行い、治療方針を立てる方法であり、現代医学も脈拍の速さや強さやリズムで診断の助けとするのと近いである。しかし、脈という現状の解釈には独自の思想と理論が反映される。
脈診には大きく、比較脈診と#脈状診の二つがあり、『黄帝内経』の時代には、#三部九候診、#人迎脈口診という比較脈診が基本とされた。現在の中国では、『黄帝内経』や『傷寒論』にも記載される手の寸口の脈を触れて、その脈の状態(脈状)で病態を把握する脈状診が主流である。基本的に中医学では李時珍の『瀕湖脈学』を貴重としていると言われるが、これは中医学が明清代の医学を土台としているからである。ちなみに現代中医学の土台となった古典テキストには『張氏医通』『医宗金鑑』などが挙げられる。
現在、日本では『脈経』(『難経』ではない)を起源とする六部定位診がポピュラーである。この脈診は『難経本義』を元に昭和20年代に復興された新しい鍼灸療法である経絡治療で行われた脈診法であり、中国ではあまり行われていない。また、六部定位診は、手の寸口のみで五臓の状態を推測できる画期的な方法であるが、問診を必要ないとする態度から嫌う者も多くいたようである。現在はさらなる発展を遂げ、人迎気口診や#脈位脈状診など、脈状によって診断を行う方法が広まっている。
現在、日本には多くの鍼灸治療法があるが、古典的用語を使っているように見えて、実際には現代中医学の言葉を用いており、中医学の理論によって病態を解説している場合が多い。しかし、実践的臨床として、《脈診》→《手足の要穴に刺鍼》→《脈診》というパターンを保持する様は、どれも経絡治療を土台とするもの、またはその亜流に属すものばかりであり、経絡治療が独自の用語、理論、方法を持つことが、日本の鍼灸医学が発展することにつながるのではないか。
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[編集] 三部九候診(さんぶきゅうこうしん)
『黄帝内経素問』にある脈診法で、世界には天人地の三つがあるという考え方から、人体においても天人地を求め、これに対応する脈拍で診断する方法。 頭頚部に3箇所、手に3箇所、足に3箇所の拍動部を求め、これの強さなどでもって診断を行う。 漢代当時にどのような実用がなされていたかがわからないが、主に鍼灸の診断で行われていたと思われる。後述する『霊枢』の人迎脈口診に移行したとも考えられる。
[編集] 脈状診
主に現代中医学の脈診法そのものであり、現代中医学の脈診法や日本では古典鍼灸研究会の井上雅文氏の脈診法がこれにあたる。後述する脈位脈状診は六部定位診とこれを一緒にしたものである。 片手の橈骨動脈の拍動を触れて、その打ってくる脈動の感じ方を決められた概念でもって分別して診断を行う。この概念(または型枠)を脈状といい、時代によって数が増えている。日本では 中国では、左右どちらかの脈動を触れて診断を行うが、チャングムが行っていた脈診もこれであり、現代韓国の医学が中国と近似であることがわかる。ちなみに李氏朝鮮時代の医学も中国の医学そのものであり、金元から明代の医学を吸収している。
[編集] 人迎脈口診(じんげいみゃっこうしん)
黄帝内経霊枢(こうていだいけいれいすう)という古典にある脈診法で、のど仏の両脇にある頸動脈で最も強く拍動している部分である人迎(じんげい)という位置と、前腕の寸口(これを脈口とも呼ぶ)で打っている脈動の強さを比較する診断法。主に経絡の虚実を診断することで、各経のの陰陽虚実を決める。 近年では長く実践されることが少ない診断法であったが、小椋道益氏が復活を試みているが、その後の日本の鍼灸に広く浸透することはなかった。
[編集] 人迎気口診(じんげいきこうしん)
井上恵理の系統である井上式経絡治療におって行われる脈診。2代目の井上雅文による発明である。『脈経』や『傷寒類証活人書』にある人迎気口診を金元代の医書を土台にして、現代に活用させたもの。古典的内容であり、現代的でもある。 人迎は左手の関前一部であり、気口は右手の関前一部である。それぞれの脈状と左右差をみて、診断を行う。ここで用いられる脈状は虚・実・浮・沈・遅・数・滑・濇(さんずい+嗇)の8つであり、脈状の数としては中医の脈診よりも少ないが、その分、正確さに秀で、間違いが少ない。
[編集] 六部定位診(ろくぶじょういしん)
現在、古典に則った脈診法としては最も広く行われている法である。術者と病人が向かい合って座り、術者の中指を病人の撓骨経常突起のすぐ内側にある撓骨動脈の拍動部に当て、人差し指・薬指を軽く添える。このとき人差し指の当たる部分を寸口(すんこう)、中指の当たる部分を関上(かんじょう)、薬指の部分を尺中(しゃくちゅう)といい、それぞれての太陰肺経の大淵(たいえん)、経渠(けいきょ)、列欠(れっけつ)のつぼにあたる。 指を浮かして左の寸口・関上・尺中がそれぞれ小腸・胆・膀胱、沈めて心・肝・腎、右は浮かせて大腸・胃・三焦、沈めて肺・脾・命門を調べるというが、この陽経を選択する方法については、行っている者とそうでない者がいる。 また、六部定位診は、『難経』を基本としているといわれるが、『難経』にこの診断法の記載がない。『難経本義』には記載があるものの、実際には昭和期以降に開発された新しい方法である。(ただし、現代中医学の脈診も歴史的には同じくらい。)
[編集] 脈位脈状診(みゃくいみゃくじょうしん)
『診家枢要』などを元に経絡治療学会が考案した新しい脈状診。左右にある六部(寸口・関上・尺中)それぞれで脈状を触れて診断する方法。 中国では左右片方で脈診を行い、人迎気口診では左右の脈状であり、六ヶ所の脈をみるということは画期的であるが、六ヶ所それぞれの脈状をどう理解するか規範となるものが乏しく、実用化には踏み切れていない。しかし、脈診法の進化としては期待するべきところが大きく、今後の論理的発展と、実践による成熟が待たれている。
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