鋼鉄の虹 パンツァーメルヒェンRPG
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鋼鉄の虹 パンツァーメルヒェンRPG (こうてつのにじ ぱんつぁーめるひぇんRPG)は遊演体の田中桂、坂東いるか(坂東真紅郎)らによって製作された、近代ヨーロッパを舞台とする架空ロボット戦記テーブルトークRPG(TRPG)。1995年にアスペクトより四六判の書籍として発売された。
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[編集] 概要
第二次世界大戦直前の時代、中欧の架空の小国における内乱を舞台とした架空戦記RPG。ただし、二足歩行の人型兵器「イェーガー」が普及しているという設定で「ロボットもの」としての側面もある[1]。「RPG」と銘打ってはいるが、システム自体は徹底して人型兵器の運用に特化しており、むしろ戦術級ウォー・シミュレーションゲームに近い。なお、本作は同時期に運営されたプレイバイメール(PBM)『ネットゲーム95 鋼鉄の虹 ~Die Eisenglorie~ 』と背景世界をおおむね共有しているが、人型兵器の機種がPBMとTRPGでは異なっているため、両作品の情報を相互に利用することは難しい。また、「パンツァーメルヒェン」の「メルヒェン」に相当する部分である「ケルンテン・グリューネラント両国で、各地の古伝承を髣髴とさせる怪事件が頻発する」というエピソードも、TRPGではフォローされていない。
[編集] システム
[編集] キャラクターメイキング
本作のキャラクターには「能力値」が存在せず、5種類の「イェーガー技能」およびその他の技能によって能力が表現される。あらかじめ用意された4種類の「兵科テンプレート」と、キャラクターの行動理念を表す「主義」の取得によってほぼ自動的に取得技能が決定されるようになっている。ただし一部については「訓練表(後述)」に従ってサイコロを振り、ランダムに技能取得が行われる。キャラクターはイェーガー操縦者として戦闘に従事するため、実際のゲーム中は、ほとんどがキャラクターの技能と機体の性能数値を合計した「判定値」を使う。
[編集] プレイの進行
行為判定は下方判定に属する。6面サイコロ2個を振り、乗機の判定値以下を出せば行動成功となる。実際のプレイは、広い戦闘地域を移動する「作戦モード」と、遭遇した敵部隊との戦闘を行う「戦闘モード」に分けられている。キャラクターはまずシナリオ上の目的を説明された後、作戦モードマップ上を移動しながら索敵を行う。作戦モードマップは行動に応じて1時間単位で時間が経過する。作戦モードマップ上で敵と遭遇すると、1ターンを1分とする戦闘モードマップへ移動して戦闘を行う。これを繰り返し、キャラクターは任務達成へ近づいていく。
[編集] モラル
キャラクターには「モラル」値が設定されている。初期値は12であるが、戦闘を続けることで低下していく。キャラクターはダメージを受けた時や長時間の戦闘で疲労した時などに「モラルチェック」を行わなければならない。6面サイコロ2個を振り、現時点でのモラル値以下を出せば成功となる。もし失敗した場合、キャラクターは恐慌をきたし、気絶や敵前逃亡、発作的な自殺などの不利な行動を取ってしまう。減らしたくない数値ではあるが、この数値を消費することでキャラクターは、機体の高速移動や精密な射撃といった「上級行動」を行うことができるため、モラルを温存するだけでは生き残れない。なお、モラル値はシナリオを終了しても自動的に回復することは無く、現在値を以降のシナリオへ持ち越すことになる。モラル値の回復については「功績ポイント」の項を参照。
[編集] 功績ポイント
シナリオを終了させたキャラクターは「功績ポイント」を得る。功績ポイントは各キャラクターの敵機撃破数に応じて与えられ、また各キャラクターの「主義」に応じた目標を達成していればボーナス功績ポイントが与えられる。プレイヤーはこの功績ポイントを使って、新装備の獲得や階級の昇進、また、モラル値を回復させるための「休暇」や、新たな技能を取得するための「訓練」を行うことができる。「休暇」や「訓練」は、用意された「休暇表」「訓練表」に従ってサイコロを振ることで成果が決定されるが、場合によっては成果が得られなかったり、逆にモラルが低下してしまうことすらある。休暇表は実に10種類も用意されており、さらに休暇中に恋人ができた場合、恋人の詳細をサイコロを振るだけで決定できる「NPC特徴決定表」もあるため、この表だけでも少なからぬロールプレイングが体感できるようになっている。
[編集] 世界設定
舞台となるのは1937年、中部ヨーロッパの小国「ケルンテン公国」、及び公国からの独立を謳う北部の「グリューネラント共和国」である。
[編集] ケルンテン公国
ケルンテン公爵家によって統治される立憲君主制国家。首都ラヴァンタールのあるエステンド州をはじめとした南部6州からなる。小国ながら長く独立を保ってきたのは、イタリア・ドイツ・オーストリアなど複数国と接する政治バランス的に微妙な地域であること、国土が山がちで侵攻が困難であることが大きい。第一次世界大戦ではドイツ軍の侵攻を受けるものの、アイヒマン博士の完成させた「イェーガー」によってこれを撃退した。第一次大戦時に女性も武器を取り戦ったという経緯から、20世紀初頭としては驚異的な女性の社会進出が認められている。また、日本からの移民を大々的に受け入れた時期があり、日系人や日本文化も広く市民権を得ている[2]。1937年時点での元首は、隻眼のケルンテン公ゴットハルト2世。
[編集] グリューネラント共和国
ケルンテン公国からの独立を宣言した北部3州から成る。プロテスタントの勢力圏であったことからカトリックが主流の南部とはそりが合わず、19世紀末から第一次世界大戦にかけて政治的に翻弄されたことでケルンテンへの不信感が増大。1937年に公国に対して反乱し、独立を宣言する。背景にナチス・ドイツの支援があることは公然の秘密となっており、軍に配備されているイェーガーも、ドイツに流出した技術で造られたものを持ち込んでいる。1937年時点での元首は、若き女侯爵クリステル・フォン・フレーメファーネ。
[編集] 用語
- イェーガー
- 「装甲戦闘猟兵(Panzerkampfjager)」の通称。自動人形職人アイヒマン博士によって完成された全高5m程度の人型兵器。兵士たちからは「鉄人形」と呼ばれ、そのパイロットは「人形遣い」とも称される。山がちなケルンテンの国土では戦車以上の戦力になる。1937年時点で一般に配備されているのは、1919年にアイヒマン博士が失踪した後、彼の弟子たちによって製造された機種。性能は大きく劣っているが皮肉にもそれゆえ量産が可能となった。
- ウービルト
- イェーガーのうち、アイヒマン博士が直接製造した60数機の機体。驚異的性能を誇り、現在でもその製造法は不明。いわば「伝説の魔剣」的な存在であり、実際、ウービルトの多くは北欧神話にちなんだ名前を与えられている。ウービルトの一部はグリューネラント側に鹵獲されており、グリューネラント軍のエースパイロットで構成された「シュバルツ・ウービルト」部隊が、ゲーム中の敵役として設定されている。
[編集] 関連出版物
- 鋼鉄の虹 イェーガーハンドブック(新紀元社) ISBN 4-88317-252-X
- TRPG版の設定に準拠した解説本。両国の歴史やイェーガー開発の経緯、またTRPGルールブックには掲載されていないケルンテン側のウービルトやエースパイロットに関する情報が掲載されているが、TRPGに直接使用できる数値的データは載っていない。
- 装甲戦闘猟兵の哀歌(富士見ファンタジア文庫) ISBN 4-8291-2588-8
- PBMのグランドマスターであった水無神知宏が、PBMの開始に先駆けて発表したライトノベル。設定はPBM準拠なのだが、前述の「イェーガーハンドブック」にもこの作品中の事件に関する記述があり、作品世界の参考となる。
- LOGOUT(アスキー)
- TRPG専門誌。1995年7月号から鋼鉄の虹RPGのサポート記事が連載されたが、同年12月号でLOGOUTが休刊となったためサポートも停止した。
[編集] 脚注
- ^ 奇しくも本作が発売された1995年は、スーパーファミコンで『FRONT MISSION』が発売された年でもあった。
- ^ このため、厳密には時代的・地域的にまず無いであろう女軍人や日本人のキャラクターをゲームに投入すること、またキャラクターに日本人的な振舞いをさせることは容認される。