預金者保護法
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通称・略称 | 預金者保護法 |
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法令番号 | 平成17年8月10日法律第94号 |
効力 | 現行法 |
種類 | |
主な内容 | 偽造・盗難カード使用により被った損害を補填する |
関連法令 | 民法 |
条文リンク | 総務省法令データ提供システム |
預金者保護法(偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律)とは、第三者がカードを用いてキャッシュディスペンサー (CD)、現金自動預け払い機 (ATM) から不正に出金を行った場合に民法第478条の適用を除外し、被った被害の補填を金融機関に命ずる法律である。
目次 |
[編集] 背景
この法律が制定されるまでは、第三者による預金の不正払い出し、いわゆる過誤払いについては、直接対応する法律がなかった。従来は民法第478条を適用し、金融機関が預金者本人と信じて手続きを行った場合には、第三者への預金払い出しを有効と認め、一方で真の預金者は結果として預金を喪失するという対応がとられた。これを覆して預金を取り戻すには、銀行による払出し手続きに問題があり、第三者への預金払い出しは無効であることを預金者側が立証する必要があった。
しかし、2004年頃からスキミングによる偽造カードの作出と、これによる不正払い出しが報道されるようになり、一方で金融機関の預金の安全に対する取り組みに疑問が投げかけるなど社会問題となった。
金融機関側は、カード利用規定(全銀協によるカード利用規定試案、改定前の第10条第2項 (PDF))のただし書を適用することで補償することは十分可能で、重ねての補償は無用であるとし、また、規定は個々の銀行がそれぞれの考えで補償の条件や方法を定めたり保険を付す等の対策をとる一方で、顧客が適切な規定を持つ銀行を選んで契約するべきもので、一律に補償を義務付けるのは自由契約の観点からもそぐわないとして法案制定に反対したが、これを抑えて本法律の制定に至った。
[編集] 規定
対象、補償額等を、大枠で下記の通り規定する。
[編集] 対象
個人の口座について、第三者が盗難カードや偽造カードを用いてCD、ATMより不正出金した場合が対象となる。不正出金には、預金残高の払戻しに加えて、カードに付帯のローン契約(定期預金を担保とする貸付けや無担保ローン)に基づく貸付金の出金も含む。
法人の口座や、盗難通帳を用いた対面手続きによる不正出金などは対象となっておらず、従来同様民法第478条が適用される。詳細は補填対象にならない例を参照のこと。
[編集] 立証責任
金融機関が立証責任を負う。預金者側に過失や重過失があることを、金融機関側が立証した場合には、補填金額の減免が行われるが、それ以外の場合には、原則被害額全額を補填する義務を負う。
[編集] 補償金額
- 全額: 被害が発生してから30日以内に金融機関に通知し、金融機関が預金者の過失を立証できなかった場合。
- 3/4: 被害が発生してから30日以内に金融機関に通知し、金融機関が預金者の過失を立証した場合。
- 過失としては、カードと暗証番号のメモを一緒に置いた、生年月日等推測されやすい番号であるとして金融機関が複数回に渡り番号変更を推奨したにも関わらず放置した、等。
- なし: 預金者の重過失を金融機関が立証した場合。
- 重過失としては、暗証番号をカードにメモしておいた、カードを他人に渡した、等。
[編集] 影響
従来のカード利用規定(全銀協によるカード利用規定試案第10条第2項 (PDF))では、カードの磁気記録と暗証番号が正規のものと認めて手続きを行った場合には、その結果に責任を負わないとしていたが、この条項が無効となる。その他、預金者に不利な特約は認められない(本法第8条により強行規定とされている)。
[編集] 課題
現時点では、補填の対象となるのは、個人の口座について、カードによる機械払いによって損害を被った場合に限られる。下記のような場合は対象外である。
- 法人の口座の被害
- 対面でカードと暗証番号を提示した場合(機械払いではない)
- 盗難通帳を提示して窓口で手続きを行った場合や機械払いを行った場合(カードではない)
などは、依然、民法第478条の適用を受ける。
- ネットを介した口座取引において、なりすましによる不正操作
- 盗難カードや偽造カードをデビットカードとして使用された場合
も対象外である。これらは2年後の見直しでの検討を待つことになると思われる。
その他、附則第2条には、本法施行以前に発生した被害についても最大限配慮する様に求めているが、メガバンク(都市銀行)ですら民事訴訟の場などで補償は最大でも被害額の半額にしろと原告(被害者)に圧力をかけているのが現実であり、バブル崩壊後、金融機関(銀行など)のモラルが著しく下がっている昨今においては実際には芳しくないとの報道がある。ただし、全額補償された事例もある[1]。