利用者:NEON/タイプ (分類学)下書き
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タイプ(type)
- ある生物の新種記載を行う際に、その生物を定義する為の記述(記載文、判別文)の拠り所となった標本や図解のこと。模式標本、あるいは基準標本とも言う。
- 科や属といった分類群(→生物の分類)を設ける際に、その群の代表として指定される下位分類群のこと。指定される属や種は「タイプ属」「タイプ種」などと呼ばれる。
本稿では上記1を扱う。タイプの詳細な定義は、各生物が帰属せられるべき分類群の命名規約に従う。ゆえに、その語が用いられる生物群を示す為、必要に応じて【動】や【動/植】のような記述を付した。また、記事中の文章の直接の根拠となる条文がある場合、もしくはおおよそ対応する文章が命名規約(の邦訳)にある場合は、文末に括弧書きで命名規約の版と条文番号等を付した。
タイプはあくまで原記載の拠り所となった事が重視されるのであって、必ずしもその生物の特徴を良く表した、典型的なものである必要は無い。規約の条件を満たせば、動物の歯一本、植物の葉っぱ一枚でもタイプたり得る。
タイプはその性質上、単一の標本又は図解である(ICBN13 8.1)。これは同時に作成された単一の採集品或いはその一部であって、混合物であってはならない。(ICBN13 8.2)ちなみに、単一の標本といっても、生物体の部位毎に分解されるなどしていたらダメという訳ではなく、それらが一つの容器に納められるなどして由来が単一である事が分かれば良い(ICBN13 8.2)。もしくは、標本のラベルにその旨が記してあれば、別の入れ物に入っていても構わない(ICBN13 8.3)。
原則として生物の標本がタイプとして指定される(いわゆるタイプ標本)が、生物が安定な標本として保存できない場合に限り、図解であっても構わない(ICBN13 8.1、37.4)。ただしその場合でも、図解の元となった収集データは残すべきである(ICBN13 勧告8A2)。また菌類や藻類では、代謝的に不活性な状態(乾燥保存や冷凍保存された状態)の生体をタイプとする事も可能である(ICBN13 8.4)。
目次 |
[編集] タイプの種類
原記載中での扱われ方によって、タイプは複数の種類に分類される。何らかの形で原記載に寄与した一連の複数標本を、タイプシリーズと呼ぶことがある。なおICZNでは、後述するホロタイプ、レクトタイプ、シンタイプ、ネオタイプの4タイプを、学名の定義に直接関与するものとして担名タイプ(name-bearing type)と呼んでいる。
- ホロタイプ(holotytpe)【動/植】
- 正基準標本、あるいは正模式標本。著者が種または種内分類群の学名を記載するにあたり、その原記載の中でただ一つ明示的に指定された標本のこと(ICBN13 9.1)。もし二つ以上の標本が指定された場合、それらはいずれもパラタイプとなる。学名の拠り所となる絶対的な標本で、ホロタイプが現存する限り、その生物の学名はこれを基準に決定される。ホロタイプが培養株の場合は、その重要性を考慮して、株を分割し複数の機関に寄託する事が勧められている(ICBN13 勧告8B1)。
- レクトタイプ(lectotype)【動/植】
- 選定基準標本。原記載でホロタイプが指定されなかった場合、ホロタイプが行方不明の場合、もしくはホロタイプに二種類以上の生物が混じっていた場合に、新たに選び直されたり作り直されたりした標本のこと(ICBN13 9.2)。アイソタイプ、シンタイプ、アイソシンタイプ、パラタイプのいずれかが残っている場合には、これらの中からこの優先順位で選出する事になる(ICBN13 9.10)。
- アイソタイプ(isotype)【植】
- 副基準標本。ホロタイプの全ての重複標本のそれぞれを指す(ICBN13 9.3)。重複標本とは、ホロタイプと一緒に採集されて同時に作られた標本のこと。ホロタイプと同一の生物個体に由来するかどうかは関係が無い(ICBN13 8.3)。また、ホロタイプの一部としてラベルにその旨が記述された標本であっても、ホロタイプの主幹を為すパーツとは別の機関に保管されているとホロタイプとしての地位を失い、アイソタイプ扱いとなる。
- シンタイプ(syntype)【動/植】
- 等価基準標本。原記載時にホロタイプが指定されなかった場合、その論文中で引用された全ての標本はシンタイプとなる(ICBN13 9.4)。また、タイプとして同時に複数の標本が指定された場合、それらはホロタイプではなくシンタイプとなる(ICBN13 9.4)。
- アイソシンタイプ(isosyntype)【植】
- 副等価基準標本。シンタイプの重複標本のそれぞれを指す。
- パラタイプ(paratype)【動/植】
- 従基準標本。原記載論文で引用された標本のうち、ホロタイプ、アイソタイプ、シンタイプのいずれにも該当しないもの(ICBN13 9.5)。つまり、原記載に複数の標本が登場した時に、タイプが複数指定されてシンタイプとなった標本の残りがパラタイプである。
- アロタイプ(allotype)【動】
- パラタイプのうち、ホロタイプとは異なる性別である個体の標本。ICZNの勧告中(ICZN4 勧告72A)で使用が認められている。
- ネオタイプ(neotype)【動/植】
- 新基準標本。ある生物、又はある分類群の原記載が拠り所とした全てのタイプ標本その他の資料が行方不明となった時に、原記載を手がかりとして全く新規に作られた標本のこと(ICBN13 9.6)。ネオタイプの指定は他のタイプ標本の消滅が条件であり、レクトタイプになる可能性があるタイプが残っている場合は新たにレクトタイプを選び出す作業が優先され、この時ネオタイプを設けてはならない(ICBN13 9.10)。なお、誤って元のタイプと違う生物をネオタイプとして指定してしまった場合には、これを訂正して良い(ICBN13 9.16)。
- パラレクトタイプ(paralectotype)【動】
- かつてシンタイプであった標本だが、その中の別の一つがレクトタイプとして指定された為にシンタイプの地位を失ったもの(ICZN4 glossary)。
- エピタイプ(epitype)【植】
- ホロタイプやレクトタイプ、ネオタイプなどの担名タイプだけではどうにも生物の同定が進められない時、その分類的作業を補う目的で新たに作られた標本のこと(ICBN13 9.7)。エピタイプを指定する時は、その作成理由となったダメなタイプ標本を明言しなければならない(ICBN13 9.7)。ネオタイプとは違い、他の標本の消滅を条件とせずに作成する事が可能であるが、あるタイプに対して同時に二つ以上のエピタイプを設ける事はできない(ICBN13 9.18)。
- クロノタイプ(clonotype)【植】
- タイプ標本を作成する際にその個体の種子などを保存しておき、それを元に育てた植物体の標本、または植物体自体をこう呼ぶ。 クロノタイプは命名規約で正式に扱われる語ではないが、しばしば植物学の文献に登場する。
- ハパントタイプ(hapantotype)【動】
- 生物の生活環の中での各ステージを揃え、単一の標本としたもの(ICZN4 73.3)。原生生物でのみ有効なタイプで、普通の生物のホロタイプに相当する(ICZN4 73.3)。原生生物という性質上、一枚のプレパラートに収められる場合が多い。ハパントタイプは必然的に複数個体から成るが、その各々全ての個体がホロタイプと同列の扱いを受ける為、その中からレクトタイプを選んだりはしない(ICZN4 73.3.1)。また、ハパントタイプにコンタミネーションがあった場合は、これを除去する事も可能である(ICZN4 73.3.1)。
- コタイプ(cotype)【動】
- かつてシンタイプやパラタイプの意味で用いられていたが、現在では使われていない(ICZN4 glossary)。
- ジェノタイプ(genotype)【動】
- 「geno-」は「genus」であり、かつては「タイプ種」の意味で用いられていたが、「遺伝子型」(geno- = gene)としての用法が定着すると共にICZNでは用いられなくなった(ICZN4 glossary)。
[編集] タイプの寄託・保管
タイプ標本、特にホロタイプは公開可能な状態で植物標本館(herbarium)や博物館に保存され、細心の注意の元に保管されるべきである旨が勧告されている(ICBN13 勧告7A1)。その為、新種記載を行った研究者はそのタイプをこれらの機関に寄託するのが普通である。特に博物館にとっては、このような標本の管理は重要な役割の一つである。西洋では古くから、博物館が主導的に世界中の生物標本を集め、保管する役割を果たし、生物の分類学の進歩に大きく寄与した。しかし、日本ではそのような伝統が育っていない為、標本が個人管理の元で粗雑な扱いを受ける例が少なくない。
[編集] 参考文献
- 国際植物命名規約 日本植物分類学会(2003) ISBN 4-990186-70-2