アセチルセルロース
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アセチルセルロースは、天然高分子のセルロース分子を修飾して作られた合成樹脂(プラスチック)のひとつ。
世界で初めて人工的に作られた合成樹脂は、セルロースを修飾してニトロセルロースにしたものに可塑剤としてショウノウを加えて練り合わせ、整形したセルロイドであった。しかし、ニトロセルロースは火薬、爆薬としても使われる極めて反応性の高い分子であるため、発火事故が絶えなかった。そのため、セルロース分子を修飾して作る難燃性の合成樹脂の登場が望まれるようになった。セルロースを構成するグルコース単位の水酸基をニトロセルロースを製造するときのように硝酸によって硝酸エステルとするのではなく、酢酸によってエステル化してアセチル基としたものは、分子間の水素結合によるセルロースの繊維構造を解離させて整形体に加工することが期待できるのみならず、難燃性も期待できる分子であった。
しかし、グルコース単位の3つの水酸基を全てアセチル化したものはトリアセチルセルロースと呼ばれ、難燃性であるが整形体や繊維として使用することができない。これを溶かす溶媒が見つからず、可塑性のあるコロイド溶液にして整形、紡績するすべがないからである。そのため、天然の原料繊維の形状のまま使うしかなく、タバコのフィルター材料として用いられている。
トリアセチルセルロースの一部のアセチル基のエステル結合を加水分解して水酸基に戻したものは、アセトンによく溶けるので、その溶液を小さい穴から噴出させて熱風で乾燥すると、アセテート繊維が得られる。これもかなり難燃性でありカーテン地に用いられる。また、シート状などの整形品に加工してプラスチックとして利用することも容易である。グルコース単位1つあたりアセチル化している水酸基は2箇所程度であると推測される。
上記のいずれも廃棄すると、天然のセルロースと同様に、土中、水中で微生物の働きで資化、代謝され、微生物のバイオマスとして固定されるか、呼吸によって二酸化炭素と水になるので環境負荷が少ない。タバコのフィルターのように投げ捨てられる可能性が高いものの材料としては、これ以上に適した難燃性高分子素材は考えにくい。
なお、古生物の植物化石研究法にアセチルセルロース樹脂のシート、つまりアセテートフィルムを利用したピール法というものがある。